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出会い系アプリのロボットアニメ添え

純粋な好奇心

 今年の夏だったか、私は唐突に、あるセクシャルマイノリティ向けのチャットアプリをインストールした。きっかけはよく覚えていないが、ある小説に影響されて、だった気がする。ちょうどそのころ、私は『カノホモ』のカクヨム版を読んでいた。その中に出会い系チャットアプリの描写があって、自分もやってみたら何か新しい感覚に出会えるかな、と思ってアカウントを作った。

※『カノホモ』・・・浅原ナオト先生の小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(KADOKAWA、2018年)。私が読んだのは改稿前のネット小説版。最近ではNHKで『腐女子、うっかりゲイに告る』としてドラマ化された。

出会いたいわけじゃなかった

 結論から言うと、私は出会い系チャットアプリに、圧倒的に向いていなかった。そもそも、SNSで顔出しすることに抵抗があった。Twitterの大学用アカウントですら、自分の写真をかたくなに上げず、Instagramも趣味のイラストしか投稿していない私である。今回も例に漏れず、プロフィールに顔写真は使わなかった。

 また、切実に恋人がほしいと思って登録したわけでもなかった。その頃には、すでにアセクシャルかもなぁ、という淡い認識があったし、前提として、好きな人は別にいる(絶対にふり向いてくれないとわかってはいるけれど)。友達ができればラッキーという、真剣に出会いを求めているユーザーからすれば、実に中途半端な動機で始めたのであった。

 ちなみに、そのアプリは不特定多数に向けてつぶやきを発信したり、気になるプロフィールに「いいね」を押したりできる機能があり、それをきっかけに1対1でチャットするタイプのものだった。当然ながら、ユーザーには「恋人募集中!」を掲げる人が多かったし、お友達からスタートしても、ゴールはもちろん「お付き合い」である。

※アセクシャル・・・他者に対して、恋愛感情や性的欲求を持たない傾向にある人のこと。私はどちらかというと、恋愛感情はあるが、性的欲求を持ちにくいロマンティック・アセクシャルに近い。

唐突のロボット布教

 不慣れながらも、趣味が合いそうな人に「いいね」を飛ばしたり、多種多様なつぶやきを眺めていると、ある女の子から話しかけられた。たぶん、同じアニメが好きとか、そんな理由だった気がする。何回か言葉のキャッチボールをし、お互いのおすすめ作品を教え合った。

 気づけば私は、女の子に対して、お気に入りのロボットアニメ『フルメタル・パニック!!』の魅力を熱く語っていたのだった。
 今思うと「何やってんだ馬鹿め」の一言に尽きるのだが、勢い余って語ってしまった。(ちなみに、『フルメタル・パニック!』は、アツい戦闘シーンあり、友情ドラマあり、ロマンスあり、外伝は学園ギャグコメディという、京都アニメーション初期作品の中でも抜きん出て面白いので、興味がある人はぜひ視聴してほしい。ここには原作ライトノベルのリンクを貼っておく。)
 女の子からは、お愛想、という感じで「時間があったら見てみますね!」と返ってきたが、それきり音沙汰はなかった。

チャットアプリに挑戦してわかったこと 

 当然と言えば当然の帰結。出会いを求める人が集う空間で、あまりに空気の読めない行動だった。相手の女の子がガノタだったら話が違ったとか、そういう話でもない。1対1の会話でも、相手がどんな人か深く知るような方向に向かなかったのは、私が今のところ、恋愛も友情も現状にも、ある程度満足していたからだろう。結局、私はしばらくするとアプリを開くことすらしなくなった。

 おそらく、私は恋人も友人もつくろうと思ってつくるタイプではないのだ。出会い系チャットアプリはその性質上、登録した以上は出会わねばならない(というか、出会うのが目的なのだから、こんなこと言っている人間に適性があるはずもない)。

 結論として、私は自分が出会いを求めていないということを自覚した。アプリを始めたのは、小説がきっかけでもあるが、周囲の友人がみな、恋人がいたり、好きな人がいるらしいと知ったことも大いに影響していた。自分もみんなと同じで好きになろうと思えば、ネット上の誰かでも好きになれると確認して安心したかったのかもしれない(建前上は友達探しだったが)。

 山もなく、オチもなく、私の出会い系チャットアプリへの挑戦は幕を閉じたのであった。

 つまり、何が言いたかったのかというと、「全人類、『フルメタル・パニック!』を履修せよ」ということである。

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