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インプットと同人TRPGのデザインの関係

 昨日のアドベントカレンダー記事はしぎさんの「ソロジャーナル:ゴートバーン」でした。面白そう! タロット買わなきゃ! (みんなも読もう)
 今日の記事は私マッチ棒こと山内による、
「インプットと同人TRPGのデザインの関係」です。
 ちょっとテクニカルな話題ですが、シナリオ製作とゲームデザインは切っても切れない関係だと信ずるがゆえに書きました。
楽しんでいただければ幸いです。

●自己紹介

 マッチ棒こと山内剛といいます。同人TRPGデザイナーで、普段は会社員プログラマーをしています。得意分野はシステム構築とツール制作です。不得意は小説を書くことです。
一番部数が出てる同人TRPGでは、「俗悪映画製作TRPG ミッドナイト・ミミック」というのをつくりました。
同人TRPGシステムの構築としてはB5版で50ページぐらいの中量級システムの構築を得意としています。ミッドナイトミミックは本文52ページあるんですが、だいたい2か月半で作りました。
また、最近作った同人TRPGでは、「陥落寸前TRPG 姫騎士ノ館」というTRPGをつくりました。その他、モロモロ合わせてこれまで20作ぐらい作っています。
それぞれ、かみしめると味が出る、遊んでみると意外に面白い、そんなTRPGを作っているつもりでおります。

●本題:インプットに関する考察

 私たち同人TRPGデザイナーにとって、良質なアウトプットのためのインプットはとても重要です。
(例えば、「俗悪映画製作TRPG ミッドナイト・ミミック」を作る際のインスピレーションは、作家で映画監督の堺三保さんの公開授業を受講した際の勉強ノートから得ています)
 これは経験則ですが、ものづくりをするときはインプットとして、現実にある、タイムプルーフされたテクニックやメソッドを写生するのが、なんだかんだで一番いいものが仕上がります。
このような作り方を「写生法」とここでは呼びます。
 写生法のいいところは、現物が存在していることです。現物を見て観察すれば答えが必ずあるので、困った時に答えを先取りできちゃいます、これはとても強い特徴です。
 もちろん写生法にも欠点はあります。それは無駄が多くなるところです。慣れてこないうちは、余計な部分まで含めて写生してしまうので、要らない部分がたくさんできちゃいます。この、要らない部分をいかに大胆にカットしつつ、要らない部分がまるで存在しているかのように表現するのが、ものづくりの大事なところ、TRPGでいえば、ゲームデザインの妙味です。

 大胆なカットを行うには、抽象化、つまり若干の算数が必要です。
抽象化というのは、複数のものをまとめて、一つのものとして扱う事です。
別々に見えていた解決方法が、ある目的から見れば同じであることに気付く、といった場合に行っている、属性をまとめて1つに扱う、という行為を、「抽象化する」と言います。
 バナナ5本とリンゴ4個、合わせていくつ。という、数の教え方がありますよね。
もちろんバナナとリンゴは別物ですが、「数えられるもの」という観点でいえば、単なる5であり4であるわけで、合わせて9つ、といえる。というやつです。
バナナとリンゴを使った教え方とは、「数えられるもの」とは何かを教える、言い換えれば、「数」という抽象化された概念を教えるための方法なのです。

 話をTRPGの話に戻して、実際に大胆なカットをする例を挙げましょう。
ここに、ゲームマスターの人が描写したい、プレイヤーたちに緊張を強いたいシーンがあったとします。
 そのシーンは夜で、森の中の行軍です。いつモンスターに襲われるかわからないので、警戒しながら冒険者たちが進んでいます。
残る行程と任務の期限日から、今夜中に森を抜けねばなりません……
、というシーンです。
移動中にモンスターと遭遇する判定があって、1移動距離あたりに一定の確率で遭遇判定があり、判定に失敗すると戦闘になる、とします。
これに、という要素と、夜間という要素、警戒する要素を導入します。
より少ないルール量で表現する方法を考えてください。

 簡単な方法は、判定上の確率に、地形が森だったら、とか、夜間だったら、とか、警戒行動と通常行動、とかの要素を判定の確率設定ルールにそれぞれ盛り込むことです。
これなら簡単。誰でも時間をかければ作れます。ただ、ルールの処理は煩雑になりますよね。

 ここで抽象化を知っている人であれば、それぞれの属性を抽象化してひとまとめにすることを思いつくかもしれません。
 例えば「困難度」という値を用意します。地形の困難さ、夜間行動の困難さ、警戒移動の困難さ、は、通常の行軍を困難にさせる要素という意味では同じですから、判定の確率変動にかかわるルールに「困難度」を加えて、あとは地形の影響、夜間行動の影響、警戒移動の影響を困難度に変換する表を持たせれば終わりです。
 とはいえ、まだ表を参照しているところが面倒です。さらなる抽象化を行い、表をなくしましょう。
 そのために、まずは観察をします。夜間行動と森を抜ける移動について少し深掘りしてみましょう。
 まず、夜間行動するときに警戒移動しないことはあり得ないでしょう(なぜなら夜間にアクシデントがあったら最悪、死んでしまうからです)。
 つまり、夜間とは、移動時に警戒移動を強制される状態異常、と言い換えることができます。(これなら状態異常のパターンに1個加えるだけでいいですね)
 また、警戒移動は通常移動より遅い、つまり、より時間がかかる移動です。一方、森を抜ける時には細かく木々を迂回する必要があり、時間が余分にかかるでしょう。下草などもあり、移動は疎外され続けることでしょう。要するに悪路の移動というのはやっぱり時間がかかるわけです。

 ということで、警戒移動と悪路(森)移動(=森を抜ける移動)とは同じ「時間がかかる移動」に関する処理ですよね。
そして「移動」の概念は、「移動距離と速さと時間の関係」を使えば一つにまとめられます。皆さんも小学校で習ったと思いますが、距離と速さと時間は 「距離=速さ×時間」 の関係にあります。
ですから、時間と移動距離、速さに対しての処理への修正はすべて、この式の中に入れ込むことが可能です。

 今回の「警戒移動」「森を抜ける移動」のそれぞれでは時間がより掛かるわけですから、「移動距離=速さ×時間」に当てはめれば、これは移動距離が延びるのと同じことですよね。
その上で、先ほどのルール上では、1移動距離ごとに遭遇判定があるという事にしていましたね。
ということは、「1移動距離ごとに1遭遇判定を行う」かつ、「移動距離の延長=遭遇判定回数の増加」が成り立つとき、
「警戒移動」「悪路(森)移動」を移動距離の延長として捉えられるならば、それぞれを遭遇判定回数の増加として扱うことができますよね。

 つまり、「処理判定難しさの増加」を「移動距離の増加」という概念に落とし込めば、困難度という値すらいらない。
通常の移動で1回の遭遇判定に加えて、「悪路(森)移動」と「夜間行動」で+2回して、合計3回の遭遇判定がありますよ。だけでいいんです。

 でも、こうすると、遭遇判定3回というのは重たいですよね。だいたい、ゲームプレイ時間上、3回遭遇が発生して毎回戦闘しているのでは、プレイヤーが疲弊してしまいます。
そもそも、このシーンの目的とは「プレイヤーに緊張を強いたい」です。
ですから、判定は1発で行い、判定の修正値をプレイヤー描写を拾う形で積み上げるゲームにしたい。(ここがゲームデザインです)
 というわけで、遭遇を1回にしましょう。
「移動距離=速さ×時間」が成り立ち、かつ、ある距離を処理すること(=速度)を3回から1回に、つまり÷3するわけですから、かかる時間は×3される。
 まとめると、
プレイヤーたちに緊張を強いるシーンである、「夜で、森の中の行軍です。いつモンスターに襲われるかわからないので、警戒しながら冒険者たちが進んでいます。残る行程と任務の期限日から、今夜中に森を抜けねばなりません……」というシーンを少ないルールで表現する最適解は、
「移動中にモンスターと遭遇する判定があって、1移動距離あたりに一定の確率で遭遇があり、戦闘になる」に加えて、
・バッドステータス「夜間」により警戒移動が強制される。
・1移動距離を移動するのに素の移動で+1、「警戒移動」で+1、「悪路(森)移動」で+1により、合計3倍の時間がかかる。
とする、です。
 これなら、ゲームマスターは何の表を参照する必要もなく、プレイヤーも、ドキドキしながら1発判定だけに集中するだけで良くなります。
ゲーム的にも、間に合うか間に合わないかをドキドキしながら移動ルートを選ぶゲームが遊べそうです。

 これが写生と抽象化によるゲームデザインというやつです。

 今話したようなアウトプットのためには、もちろん良質なインプットが大事です。その点、先ほど挙げた(「移動距離=速さ×時間」に代表される)算数や、国語、社会科といった小学校で習う教科は、ものすごくよくできたインプット教材です。
改めて見直せば、必ず、良い発見があります。
 TRPGのためのインプットというのは、もちろん流行りのメディアを見て感性を磨くこともそうなんですが、インプットの効能には、本来持っている力を高めることも含まれます。
まわりより一歩先を行くためのインプットとして、こうした地力固めのインプットに挑戦してみるのもいかがでしょうか。

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 さて明日のアドベントカレンダー記事は、URIさんの「ステラナイツについて何か書けるといいな♪」だそうです。楽しみですね!
 アドベントカレンダーのURLはこちらです。ほかにも素敵な記事が盛りだくさんですので、読んでみてくださいね!
https://adventar.org/calendars/8654

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