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【小説】瑠璃の囀り 第5話「香水」

※X(Twitter)の企画に参加し、「香水」というテーマで執筆させていただいたお話です。


 公園を散歩していた私の鼻を、良い香りがくすぐった。辺りを見回すと、いつものタートルネック姿の青沼さんが歩いているのを見つけて駆け寄る。
「青沼さんっ」
 青沼さんはこちらをみて目を丸くした後、にっこりと微笑んだ。
「こんにちは。またお会いできて嬉しいです」
「私も嬉しいです! 青沼さんの匂いがしたので、つい話しかけちゃって」
「……私の、匂い?」
 問われてはっとした。私はいつの間にか、あの爽やかな香水の香りを「青沼さんの匂い」と認識するようになっていたらしい。まだ知り合ったばかりなのに、恋人の匂いを覚えるように——。
「……あ」
 急に顔が熱くなってきて、私は青沼さんから目を逸らした。
「どうされました?」
 青沼さんがこちらに足を踏み出すたび、香水の香りがふわりと漂ってくる。
「い、いえ、なんでも!」
 思わず首を横に振り、青沼さんから距離を取ってしまう。最近の私はどうかしている。青沼さんに近づいてみたり離れてみたりして、これではただの挙動不審な人じゃないか。
 そっと目線を上げると、青沼さんは心配そうな顔をしていた。
「すみません。香水、付けすぎてしまったでしょうか。加減があまり掴めていなくて……」
「いえ! 幸せです!」
 鼓動の速さを感じながら、私は笑ってみせた。

                 〈つづく〉

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