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マタタビの小説(13)


こんにちは。今回も更新致します。


戸惑いと意識


 (そんなこと、本人に確認したらいいじゃんか。なんで私なんかに…)

 拓望の相談内容を見た麗良は、真っ先にそう思った。それは当然だった。いくらSNSで仲良くしていようとも、お互い素性は知り得ないわけだし、ましてや原因を知っているわけでもない。それどころか、拓望と志保は現実に面識のある間柄でもある。そんな状況で、なぜ自分にそのような探りを入れてくるのか、麗良には到底理解しがたい状況であった。

「こんにちは。ドライブまみれさん。ごめんなさい、私にもよくその辺りはわからないです。何かあったとも本人からは聞いてないですし。直接お聞きになってみられたらどうですか?」

 そう拓望に返信した。それ以外、返しようがなかった。

(なんか、無神経な人だな…いきなり、他人の相談なんか持ちかけてきて。)

 煮え切らない感情を抱きつつ、麗良はそのまま布団を被った。なぜか眠れなかった。時間はもう午前1時を過ぎているというのに。明日も普通に朝から仕事なのに。普段から麗良は寝つきが良い方ではなかった。過去には睡眠薬を常用していることもあった。夜勤による睡眠リズムの変化に体が順応しなかったし、体調を崩しやすい生活を送っていたことも当時は影響していたのであろう。それでこそ今の環境では服用はしなくなっていた。

 しばらく目を閉じていたがやはり寝付けなかった麗良は、布団から出て白湯を飲んだ。体を温めると寝付きやすくなると聞いていたためだ。ひとつふたつ大きな深呼吸を行い、しばらくストレッチを行ってから再び寝床に就いた。

 不思議な感覚だった。
なぜ、拓望は志保のことをそんなにも心配しているのだろうか。やはりただの知り合いとかではなくて、実際には恋愛関係だったりして。それで喧嘩して志保がだんまりしているから、困って私に? はあ、私って都合のいい女なのね……
 でも、そういう関係ではないにしても、どうして拓望はそこまで志保のことをそこまで心配してるんだろう。面識はあっても、所詮は他人だし。ただのいい人を演じているのかなあ。 なんか、キモい……

 なぜかその時の麗良は、拓望の人物像をいろいろと想像していた。正解などあるはずもない、いわゆる妄想を。気になっているのか、そうでないのか、自分でも分からなかった。

 いつの間にか麗良は眠ってしまっていた。


 この数日後、拓望のもとに、志保からの返信が届いていた。



追い詰められる麗良


 麗良はいつものように仕事に向かっていた。先日のこともあり、少し寝不足であった。通勤電車までの駅が少し遠く感じた。
 世間は未だに新型感染症に対して徹底した感染対策を強いられていた。電車の中を見回しても、すべての人がマスクを着用しており、座っている乗客も、立っている乗客も誰一人として話をしている者はいなかった。数年前までは車内の雑音が苦手だった麗良は、推しのアーティストの楽曲を聞きながら出勤していた。しかし環境が一変してからはあまりしないようにしていた。少し前に耳を傷めたことがあり、イヤホンは極力使用しないようにしていたためだ。
 病院に勤務している立場上、公の場では携帯の通知音もオフにしていた。短い通勤電車の時間、いつもの景色を眺めて乗車していた。

『今日の彼女は、白のブラウスに黒のパンツスタイルです。いつも服装が違いますし、おしゃれには気を使っているみたいですね。さすが〇〇病院の職員さんです。お給料もいいんでしょうね。ではまた。』

 車内の乗客の誰かが、このメッセージを送信していた。


 職場に着いた麗良はいつものように業務に取り掛かった。いつもと同じ外来対応。しかし今日は当日受診も多いようであり、朝からフル回転で動かなければならなかった。先日の寝不足もあり、昼前になると体がふらつき始めた。控室でこっそりと水筒の茶を飲んだが、まだ体はしんどかった。いつもは13時には休憩に入ることができるが、この日に限ってはもっと遅い時間になることはだいたい想像できた。
 疲れていたせいもあったのか、麗良は職場の小さな段差につまづいて倒れてしまった。怪我をするような倒れ方ではなかったが、近くに棚があったためにそれを落としてしまい、大きな音がたってしまった。
 驚いた同僚が駆け付け、「大丈夫?」と驚いた様子で麗良に声を掛けた。
時間が11時を過ぎていたことも踏まえ、「もう今日は早めに休憩に入っていいから。」と早めの休憩を促された。

 控室でもう一口水筒の茶を口に含んで一息ついてから、麗良はそのまま休憩に入ることになった。毎朝自分で準備する弁当を広げ、大きめのおにぎりを食べ始めた。今日は昆布の気分だった。おかずも前日に準備していたので、朝におにぎりと一緒に弁当箱に詰めて持って来ていた。野菜中心の料理だったが、トマトは毎日欠かさなかった。
 器用な麗良は、片手でスマホを触りながらもう片方の手で食事をすることができた。いつもより早めに休憩に入ったため一人で静かに食べるしかなかった。ニュースを見てもぱっとしないものばかり。

ピコン♩

 スマホの通知音が鳴った。SNSのDM通知だった。ほぼ食事を終えていた麗良は時間を持て余していたこともあり、Toitterを立ち上げた。
 DMは確認していないものも含めて、数通届いていた。1つは仲の良かった前の勤務先の友人からのものであった。

「正式に結婚することになりました🎵」

 かねてから交際を重ねていた友人からの結婚報告であった。

『よかったね、長くお付き合いしてたもんね。お似合いのカップルだったもんね。本当におめでとう^^』

 短い返信に止めておいたが、あたかも自分のことであるかのように麗良は幸せな気持ちになっていた。結婚式はいつだろう、でも今のご時世に披露宴はしないのかな、何着ていけばいいのかなあ、などいろいろ考えた。突然の吉報に、眠気が吹き飛んでいたのだった。
 しかしもう1通のDMが、麗良には重くのしかかることになる。

 麗良は他のDMに目をやったが、あの監視カメラのアカウントからだった。開かなければよいだけのことであったが、前回のこともあり確認しておきたい気持ちが勝ってしまって、ついDMを開いてしまった。

 そこには、今朝の通勤途中の麗良の写真が添えられていた。窓の外をぼんやり眺めている自分の姿、それから勤務先の病院の入り口付近での彼女の姿が収められていたのだ。しかし今回はこの写真が送られているだけで、メッセージは添えられていなかった。
 麗良はただ何も言えず、スマホを鞄に入れることしかできなかった。昼の休憩が終わろうとしていた。


今回はここまでとします。さて次はどうなりますやら。


次回予告


・友人との別れ

・拓望と麗良のやり取り

・反撃

 

 


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