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シン・セカイ3 したり顔のトランプ

前回のお話

裾が広い。
その一言が、富士山を見たカツキの感想だった。それでいて、鋭角な頂きが裾のほぼ中央に位置するのだから、作り物にも見える。距離で言うとまだ遠くなのだが、ほんのすぐそこにいるようにくっきり見える。これほど、雲のない空は珍しいと運転席のカルロは言っていた。

「なに?君、ずっと二ホンにいるのに初めて見るの?」

リサが愉快そうに語りかけてくる。カツキにしてみれば、山を見に行く趣味を持つ人間の思考が理解できない。30歳とかを過ぎたら、「山はいいよな」と思うのかもしれないが、10数年後の自分というのは遥か彼方の天体のように、存在するかもしれないというほどの漠然としたものだった。

「この辺り一面が大きな龍穴だよ。これほどのものは、他のどの地区にもない。その昔、二ホンが繁栄していたクニだったというのも納得できる」

カルロが呟くように話しかけた。カツキはまだこの車内の雰囲気に慣れていない。そもそも、自分がなぜ、得体のしれないガイジンと行動しなけれなならないのか?と思っているのだ。

「こんな場所から、本当に北ペスプッチに行くことができるのですか?」

「無理もないけど、君、私達の事疑っているでしょ?」

そりゃそうだとカツキは思った。この2人の事だけではない。自分に起きている現実が嘘のようだと思っているのだ。世界は、再び哲学をする事を人間に求めている。人間は、順調な時は生きる意味など考えない。しかし、不幸だと感じると、答えのない問いを考え始めるのだ。

アキトが死んだ。飛び降りてしまった。
絶望とは、単に希望の対義語ではない。自分を諦めた時と、自分の能力をはるかに超えた夢を見た時に人間は絶望する。アキトの絶望は何だったのだろうか?本当に絶望していたのだろうか?その理由の全てはわからない。ただ、アキトは特別ではない。この世界の人々は何かに操られるように、次々に飛び降りている。
ジサツ?と言う聞きなれない言葉が報道されるようになった。

「いいよ。教えてあげようか?この世界はもうすぐ終わるんだよ」

リサ・トランプはカツキの考えている事を見透かしたように、再びカラカラと笑ったのだ。そして、カツキはその笑い声が嫌いだと思った。

続く


一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!