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シン・セカイc-2 きさらぎ駅

前回のお話

「ここはどこ?」
駅のベンチにティオーネは横たわっていた。どれぐらいの時を超えたのだろうか?初めて使った術なだけに、加減がわからなかった。

「おい。そこで何をしている?」

そう言われ、起き上がって見上げると、紺ラシャの制服に、制帽を被った男に声をかけられた。

「もしや、飛んできたのではあるまいか?」

男の古めかしい服装から察するに、ティオーネは過去に来てしまったと思いこんだ。それにしても、男は訳知りな様子である。

「ここはどこ?」今度は、紺ラシャの男にティオーネは問いかけた。

「ここは、きさらぎ駅。飛んでくる者が現れるとは、驚きだ。列車に乗っている間にこの駅に降りてくる者は多いがな」

男は口髭を貯えていたが、若く見える。それよりも、飛んでくる者とは、術を使える者の事を言っているのだろうか?

「心配するな。列車を待てば、元の世界に帰ることができる」

「列車?それよりも、あなた、時を超える術の事を知っているの?」

「知っているも何も、ここはそういう場所だ。お前がいた世界とは違う時間にいる」

そう言われて、ティオーネは辺りを見回す。朝焼けと、青空。そして夕焼けと夜がグラデーションを描いている空の下にティオーネはいる。わざと古めかしくしているような木造の駅の前は、金色の海が広がっている。
確かに、普通の場所ではなさそうだ。

「もしかして、ここがザ・マン?」

「なにを言っている?ザ・マンとは何だ?」

「私もザ・マンについてはよくわからない。父が目指している理想の場所であり、到達するための術の事らしいけど」

そこまでティオーネが言うと、紺ラシャの制服の男は急に鼻白んだのか、ティオーネに問い質すことはなくなった

「飛んできたにせよ、お前は、元の世界に帰らなければならない。ただ、慣例としてきさらぎ駅に迷い込んだ者は7年後の世界に戻る事になる」

「どうして7年後なの?」

「言ったところで意味はない」

紺ラシャの男の態度を見て、ティオーネは会話をする事を諦めた。ここがどこなのかという事よりも、戻る事の方が重要だ。ただ、7年後というのは気が遠くなる時間だ。

「7年後の世界よりも早く戻れる方法があるのでしょ?」

「単に迷い込んだ者には、『ない』と言うところだが、飛んできたお前になら、できるかもしれない」

「勿体ぶらずに教えてよ」

「チャリオットに乗る事だ」

「チャリオット?」

ティオーネには聞きなれない言葉だった。

「まぁ、時を超えられる馬車みたいなものだ」

「それはどうやったら乗る事ができるの?」

紺ラシャの男は、右手の親指で口髭を触りながら、微かに笑ったようにティオーネには見えた。それは、どうせ無理だろうという意味の嘲りが混じっているようだった。

「カシン・コジという男に会いに行け。イサガというトンネルを抜けたところにいる。会えばわかる。それしか言えない」

癪に障る男の態度に、ティオーネは気分を害した。けれども、この状況では、男の言う事だけが唯一の手段なのだ。

「線路沿いにこっちの方角に歩け」

ただ、男は指を差しただけ。ティオーネは、礼を言わずに歩き出した。

続く


一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!