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粗末な暮らし14

「クアオルトか?」
「違う。もっと遠い所……」
 入江田は、自分の腕を掴むアンバーの手を振り払おうとしたが、無駄な努力に終わった。少し前に海に連れて来られたように、一瞬で入江田は都会に来た。

粗末な暮らし13

「ここは……」入江田は驚いて辺りを見回しながら、信じられないというような顔をした。
「えっと、確か名前は……『アクア・タワー』って言ったかな。懐かしいでしょ?」アンバーはそう言って、塔の方へ歩いて行った。
「ああ」
 具体的な場所に辿り着いて、穴を埋めるように入江田の記憶が蘇っていく。アクア・タワーは、かつて入江田が住んでいた街の中にあった。詳細な事の方がはっきりしていて、肝心な事は彼にはわからなかったが、入江田はその頃に逆もどりしたい懐かしい気持ちになった。二人は、建物の入り口まで来て立ち止まる。入り口には頑丈そうなシャッターが下りていて、アンバーは手をかざして開錠すると中に入っていった。入江田もそれに続き、中に入ると、エレベーターが見える。その前には監視カメラがあって、赤色のライトが点灯していて、入江田はそれが見張りの役目をしているような気がした。
「佐吉は選ばれたんだよ」アンバーはそう言うと、ボタンを押した。エレベーターは二人を待ち構えていたように、扉はすぐに開いた、
「乗ろう」入江田は彼女に遅れないように急いで乗り込んだ。
「どの階に行く?」
「最上階の展望台」エレベーターの扉が開くと、入江田の目の前には巨大な水槽が広がっていた。透明な液体の中に、様々な種類の魚が泳いでおり、アンバーはそれを見ると、うれしそうに微笑んでいた。
「きれい」
「あぁ」
 小さな魚が避けて道を作り、その間をマンボウがゆっくりと泳いでいく。水槽の外は空が広がていたので、魚たちは、あたかも空を泳いでいるように見えた。二人が話していると、一人の老人が現れ、彼は入江田を見て微笑んだ。
「君がここに来たということは、そういうことなのだね」


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一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!