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シン・セカイは存在しない

「Hey Siri私がこの世にいるという事はどういう事ですか?」

こんな質問をデバイスにするなんて、普通じゃないと思いながらも、リンダは安心したかった。安心を得るためには、他の手っ取り早い手段を選んだほうがいい。しかしながら、それを与えてくれる人がいないのだ。

「あなたがいるという事は、出来事の結果なのです。どういう事かと言うと、あなたの母親の感情の出来事の結果なのです。どのセックスの時の事なのか知りませんが、あなたの存在には、原因があるのです」

機械風情がセックスを語る事なんて、生意気だと彼女は思った。ただ、どんな男よりも機械の方が優しいのかもしれない。

「Hey Siriじゃあ、私がいなくなるということはどういう事?」

「それは、誰かがあなたを認識できなくなるという事です。『キスがなくなった』と言わないないように、出来事がいなくなるとは表現しません」

今度はキス?バカみたいだと彼女は思った。けれども、不思議と冷静になっている自分に気がついた。

「Hey Siri世界はどうなの?存在するの?」

どんな答えが返ってくるのかという好奇心に駆り立てられて彼女はデバイスに話しかけた。

「出来事が発生し続ける限り、世界は認識されます。あなたがいる限り、世界はあると表現できます」

誰もいなくなった街。
弟も、両親も、幼なじみも、恋人もいなくなった街にリンダは1人いる。否、リンダという出来事をリンダ自身だけが認識している。
つまり、世界は「ある」という事だろうかと、彼女は自分に問いかけた。

「苦しみは変わらないで、変わるのは希望だけだ」

彼女が「いる」世界が地獄ではない。彼女の世界を他の名称で呼ぶ事ができるのは、彼女しかいない。
奴隷制度、身分差別、圧倒的な暴力、不治の病、その他歪曲した人間の心がまかり通る世界は、彼女は認識しない。それらの出来事は、並行して発生していたとしても、彼女の世界ではないのだ。

続く

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!