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京〇での失敗。ネットショップ運営会社の営業社員の場合

 老舗の大旦那の言葉を真に受けてしまった。
 俺は恥じらいながらも、得意げになって時計の話をしてしまった。文字盤だけでなく、ムーブメントも肉抜きした、スケルトン使用の機械式時計は、先週俺の手元に届いたばかりだった。それで、嬉しそうに時計の話までしてしまった。
 腕時計を身につける事が「嫌味にならないように」と思っていた。しかしながら、そう思う事自体が見当はずれだった。
 大旦那は終始笑顔だった。その表情をみて、安心していた俺が甘かった。今週になっても「考えときます」という返事だけ。取引が始まる気配はない。
 大旦那も「手短にお願いします」と言ってくれればいいものを、遠回しな表現をする。それをわからない俺が野暮だった。
 仮にウチに販売を任してくれれば、既存店舗よりも三倍の集客が見込める。その為のプレゼンだった。しかしながら、あの大旦那にとってみれば、そんな事は二の次だった。老舗の看板を汚さない事が最優先事項だった。
「ええ時計してはりますなぁ」
 俺は時間を見ていなかった。この時計が相応しい人物だと褒められているものだと勘違いしてしまった。あの言葉の意味は「時計を見なはれ。話が長いでっせ」だったのだ。
 俺は大旦那の信頼を得る事ができなかったという事か。

おわり

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!