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Torn チョベリバ1

前の話
「それでお前、その後どうしたの?」
 リョウジが眼を半開きにして、ホッカリと煙を吐いた。俺もそれにつられて、怠いような、眠たいような気持ちになりつつ、同じように、煙を吐き出した。
「どうしたのって、何もしていない。ただそれだけだ」
 俺達は、リョウジの親父さんの現場の休憩所でタバコを吸っていた。昔はかなり年上の親父さんだと思っていたが、過去に来てから驚いた。40歳だという。それで工務店を経営して10年以上経っているというのだ。元の俺と比べるのも馬鹿げてはいるが、俺は、何となくもっと頑張らないといけないなと思ってしまった。
「アキヨちゃんのおっぱいぐらいはもんだだろ?」
 目の前のリョウジは16歳。俺も同い年の見た目をしている。まぁ、そういう話になるわな。
「おい! お前らいつまで休憩しとんじゃ! コラ! 速く戻ってこい!」
 元気な40歳だと俺は思った。少し遠くの方で、親父さんは叫んでいた。俺には到底そんな真似はできない。
 俺達は、石膏ボードの荷揚げをするように言われていた。12ミリのボードを、一回で4枚持つように言われているが、これが重い。裏表が重なっているので、必ず偶数枚で持たなければならない。けれども、俺達は始めだけ4枚持って、後は2枚ずつ運んでいた。必然的に時間がかかってしまっていた。体力は16歳だが、気持ちは40歳だ。碌に運動などしていなかった心には、非常にきつかった。
「ういー」
 リョウジがダルそうに返事をしたら、リュウジの親父がキレた。
「ふざけんな! 早く3階まで運べ! ボケ! カス! 死ね! コラ!」
「はい」
 俺は、リュウジの親父の勢いに押されて、素直に返事した。
「そういや、お前、ムラカミって知っているか?」
 タバコの火を消しながら、リョウジが聞き覚えのある名前を言ってきた。
「はぁ? あぁムラカミな」
「知ってんの?」
「知っているも何も、同じ高校のヤツだろ? それがどうした?」
 俺は、リョウジの親父に再びどやされるのではないかと思うと、気が気ではなかった。ただ、記憶を辿っても、ムラカミと俺達の接点がいつできたのか憶えていない。
「お前、スゲーな。学校のヤツの事よく知ってんな!? 俺は全く知らない。ただ、どこで聞いたのか、そのムラカミってヤツが、親父に働きたいって言ってきたらしいんだ」
「マジで?」
 そんな記憶は俺にはなかった。ムラカミは陸上部で、小説家志望の変な奴という、微かな記憶の存在だった筈。あぁ、それからアキヨの事が好きだとか言っていた。それが、何故か俺の目の前に現れようとしている。
「何回言わせるんじゃ! 早よボード運んでこい!」
 この後、リョウジの親父に、俺も殴られた記憶はあった。


つづく

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!