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創作デブとガリ以外は読むな!11

そういう意味ではデブとガリはテツの存在感の日陰にいたかもしれない。その事で、今も時間が止まっているのだ。

「あまりこういう事は言いたくないが、お前たちは今、何をしているんだ?このままでは時間を無駄にしているだけだ。そろそろ何か始めたらどうなんだ」

「山西さん。俺に何ができると言うのです?俺には始める何かがないのです」

ガリはどうでもいいように口を開いた。誰もが何者になりたくて生きている訳ではないだろう。仕方なく働く事もある。けれども、どんな仕事でも意味があるから成り立っている。そこに工夫がなくなれば、意味がなくなる。ガリの場合、毎日違う現場の日雇いの仕事をしている。時には頭を使う事があるが、建築の石膏ボードの荷揚げの仕事は体力勝負だ。そこにガリはやりがいを見出していない。

「本当にそう思っているか?ただ単に自分の事を知ろうとしていないだけじゃないのか?」

 多くの場合、日常というのは快適なものだ。快適というのは慣れの事。どんな不条理でも、それが続けば大多数の人間は、不条理に降参する。どんなに理不尽な環境にいても、人はその環境を変える事に不快な感情を抱く。ガリの場合、自らその道を歩んだ。本当に自分がしたい事をやったとしても、その先に失敗しか見えない。そういう経験を去年したのだ。

「ガリの言っている事は俺にはわかりますよ。去年のシーズンの事で俺はやる気がなくなったんです」
デブも同じ経験をした。だが、ガリと違うところは自分の進む道を見ている事だ。まだ自分の人生を諦めていない。勘違いしているコンプレックスさえ取り除けば、デブの時間は進みだすと山西は思っている。

「デブ。お前の気持ちは理解しているつもりだ。でもな、お前たちは大学を卒業した。もう大学でフットボールはできないんだ。いつまでも、大学生気分でいられないんだ」

 デブとガリは黙った。デブはとっくに3皿目のパンケーキを間食していた。そして3人の飲み物はなくなっていた。

「まだテツが来るまで時間はある。どうだ?グラウンドを見に行かないか。もうすぐシーズンだ。後輩達の様子を見に行こう」

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!