滅亡温度

 今年は記録的な酷暑だ。
 夏が来ると決まってそんな事を言われるこの国にとって、もはや酷暑なんてものは何ら珍しくもなくなった。
 だが、今年は明らかにおかしい。
 今は12月だ。冬至も近い。立派に冬を名乗っていい季節だ。

 それなのに、気温は下がるどころか、コンスタントに40℃超えをマークし続けている。

 街には申し訳程度にジングルベルが流れているが、この異常気象でクリスマス気分に浸れる奴なんて存在するのか?リフレインが虚しい。
 全くどうなってやがる。冬になったのになんで夏より暑い?本当にここは日本なのか?
 ここのところ俺は毎日のようにそう問い続けている。暑さで徐々に回らなくなりつつある頭で。

 日陰で涼んでいた俺は、手に持ったペットボトルの中身が残り少ないのを確認し、ゆるゆると立ち上がった。何とか水分だけでも確保しなきゃ、1日だって生き延びられる自信はない。

 近くのコンビニの前まで来た俺は呆気に取られた。
 狭い店内には芋洗いが如く人、人、人。
 冷房の効いた場所に人々が集まる事はよくある。何せこの暑さだ。だが今日は何事だ?ここ以外にも涼しい施設はそれなりにあるだろうに。

 とにかく新たな水分を求めて、俺は人だかりを押し退けて中に入ろうとした。

「オゴゥァアア!」

 俺は店外に押し倒され肩を押さえつけられていた。灼熱のアスファルトが背中を焼く。目の前には、訳のわからない唸り声を上げる男の顔。濁った目を俺の手にある僅かな水が入ったペットボトルに向けている。
 他の者達が騒ぎに気付き、振り返る。俺は助けてくれと言おうとした。だが無意味だとすぐにわかった。

 唸り声。
 一斉に向かってくる。
 このままじゃ水どころか、命も危ないんじゃないか?

 俺は咄嗟に、目の前の奴に頭突きを喰らわせた。
 破裂したような衝撃。必死で男を突き飛ばし、焼けるような地面を転がる。

 様子のおかしい人間達がすぐそこまで迫る。俺は己を強いて立ち上がり、足下の車止めを掴んだ。



【続く】

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