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ギターの神はかく語りき (3)

【承前】


バンドを組む!

公園でひとり弾いてたって仕方ない。
というか、俺ひとりだと神様野郎の専門である古典的なハードロックしかわからない。

俺は別に音楽が好きなわけでも何でもない。
ただモテたい一心でギターを始めただけだ。
音楽にさして興味がないから、女の子ウケする音楽がどんなものか見当もつかない。

だからバンドを組むしかない。
バンドでライブをやってファンを作るんだ。
俺なら間違いなくギタリストとして売り込める。
よし。

俺は愛用のレスポールを背負ってとあるレンタルスタジオに向かった。

大公園の広場でオッサンに囲まれた後、投げ込まれたお金をありがたくかき集めていた時だ。
小銭と札に混ざって小さなカードを見つけた。
それはレンタルスタジオのフライヤーだった。

カードの地図を頼りに、果たして俺は件のスタジオにたどり着いた。
恐る恐る扉を開ける。
よく晴れた屋外から薄暗い室内に入って目が眩んだ。
目が慣れると、受付の前に並んだベンチに腰掛け、ドラムスティックをくるくると弄ぶ若い男と目が合った。
短髪をツンツンと立てたそいつは、スティックをパシッと手で握り直してこっちに向き直った。

「あれ、見かけない顔だねー」
「ああ、うん。初めて来たんだけど」
「へー。俺いま相棒待ってんだけどさ、まあ座れよ」

初対面だというのにえらく砕けた調子だ。寝ぼけたような目をしている。
ツンツン頭は俺を座らせると一方的にしゃべり出した。
「俺らバンドやってんだけどさー。ギターがヴォーカルと喧嘩して抜けちゃったんだよね。
あ、今待ってんのはベースの奴なんだけどさー。
ギター抜けちゃったらバンド無理くねー?とりあえず今日も集まるのはいいんだけどさー」

気の抜けた口調だ。
でも困っているのは伝わる。
これは…チャンスか?

「俺も混ぜてくれない?腕には自信あるから。来るんだろ、他の奴も」

俺が示したギグバッグと俺を交互に見たツンツンは、寝ぼけた目を開いて嬉しそうな顔を作った。
「マジでー?」
「え、なになに?」
そこへ別の声が割り込んだ。
声の主は大柄な男だ。濃いモミアゲが顎髭と繋がっている。

「おー、遅いぞ相棒。こいつここ初めてなんだって。うちの新しいギター!
「いやまだ決まったわけじゃ!とりあえず今日仲間に入れてくれないかっつっただけで」
「マジか!いいよいいよー。あとはあいつがいいって言えば…」

「よう。何だそいつ」

俺たちは一斉に入口を見る。
スラリと背の高い、さぞモテそうなイケメンが逆光を背に立っていた。
涼しげな目はじっと俺を見据えている。
品定めするような視線。なんか気に入らない目だ。

と、視界にツンツンの寝ぼけ顔が割り込む。
「これがうちのヴォーカルだよー」


【続く】

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