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「まあいいか」と団塊世代

【2,318文字】

ネットニュース

「怒れる爺さんが急増」という文字が目に入る
自分も来月あたりから還暦爺さんになるので
「爺さん」の文字が他人事ではない気分で読む
ただ「怒れる」の部分にはあまり当てはまらないか
といっても最近に限ってだが・・
いや、そこそこ怒ってるかな
どうだろう、自分では良く分からない

記事は75歳を中心とした団塊の世代が
未だに社会の中心気分が拭えずにいる
と書いてあった
現役世代の考え方やパッとしない政治
ひいては他車の運転やテレビ番組
子供が賑やかに遊ぶ声も怒りの対象になる
つまり朝から晩まで何もかもに怒っているのだとか

ここで言う「爺さん」

が15も年上の人達が対象なら
こちらはまだまだひよっ子だと安堵する
それに政治以外に怒りははあまり感じないし
さすが先輩らは守備範囲が広いなと
ただ確かに厄介な70代にはよく出くわす
都度「しょうがねぇな、まあいいか」と受け流す
この「まあいいか」が最強なのだ

中学生のころ

ご多分に漏れず反抗期を迎えていた
自我が目覚めた途端に自意識過剰となり
自身の行動・考え・存在全てが恥ずかしく
何がどう恥ずかしかったかはもう覚えてないが
身の回りの全てが攻撃して来ている様に感じ
常にビクビクしつつ無暗に怒っていた様な頃だ

1970年代半ば

ある時友人たちと駅前の量販店に行き
当時流行りのチューリップハットを購入した
早速袋から出し値札も剥がし被って歩いた
ここまではとてもご機嫌だった
その量販店を出ようとした時不意に腕を捕まれた
他の友達は反射的に皆逃げた
一番背が低くひょろいのを見繕ったのだろう
「ちょっと来い!」と店員の大人に小突かれながら
バックヤードの荷物置き場に連れて行かれた
そこにも店員が何人かいて軽侮の視線を向けてくる

意味がさっぱり分からなかったが
こいつらは敵だという事だけは認識して
当然ながら態度も受け答えも反抗的になった
買ったばかりのチューリップハットをもぎ取られ
「コレ万引きしただろう!」と濡れ衣を着せようとする
当然身に覚えがないので益々抵抗する
終いにはその辺の物を投げたり振り回したりする
とうとう警察が来る

その場で警官に

事情を説明する
証拠となるレシートを捨てたゴミ箱の特定を行い
1人の警官がそれを確認しに行く
その間別の警官にベルトを掴まれている
レジとの整合が取れたらしく
当然万引きについては無罪放免になったが
暴れた事を警官に口頭でこっ酷く咎められた
先方の店員はふてくされ謝りもしない
どうにも腑に落ちない
また怒りがこみ上げるが警官が相手では分が悪い

それでも濡れ衣を着せかけた店員に
「謝れや!オッサン!」と威勢がいい
警官は「もうええから帰れ!」と威丈高
納得がいかないので謝るまで帰らんと居座った
店員のオッサンは最後まで謝らず部屋を出ていく
振り上げた拳の納めどころを失う
持って行き場のないわだかまりと
このままでは引き下がれない気分をどうするべきか
恐らく収拾がつかないであろう蟻地獄感が
さぁこの後どうすると自問自答する
そこへ自分の父親より年上に見えるそいつの上司が
「いやあ本当に申し訳なかった」と
何度も突如平謝りし始めた
収拾の光明が見え少しほっとした
「ちえっ、しょーがねぇな、まぁいいか!」
と当て付けがましく警官に向かい言ってやると
ちょっとスッキリした
その時やっと気持ちも「まあいいか」と思えた
するとアラ不思議
これまで沸騰しきっていた頭が一気に冷めてくのを感じた

「まあいいか」

がスゲェなと思った最初かも知れない
それ以来この年齢になっても「まあいいか」は
現役バリバリで活用している
今思えばこの店員も警官も恐らく団塊の世代だろう
これまで半世紀に渡り
「まあいいか」を出動した相手の多くは
この団塊の世代が多かったように思う
相手が年上であれば儒教臭色濃く漂う昭和では
年下がとにかく全て引き受けるのが定め
実統計ではなく印象なので不正確ではあるが
今でも団塊の世代は要注意という意識がある
(あくまで個人の感想であり 全員ではない)

戦争が終わった途端

日本の出生数は爆上がりした
その子らは戦後十数年で青春時代を迎え
何をするにも競争相手がワンサカと居る事に気付く
世間から団塊の世代と呼ばれる
良くも悪くも彼らが高度経済成長期に
最前線の下働き要員として活躍し日本を押し上げた
その時の合言葉が
「諦めたら負けだ」
「理屈じゃなく根性だ」
「何があっても食らいつけ」
今とは真反対が常識だった彼らである
つまり怒りを原動力にして生き抜いてきた世代
怒る事は正しい姿だったのだ

つまり寛容する

という事に慣れていない
適当に「まあいいか」なんて軟弱は悪である
問題をいち早く見つけ出し
それらを徹底的に叩き潰して消し去る
己こそ善でありその他は悪だ
そのモチベーションを支えたのは怒りだ
怒りこそがエネルギーなのだ
彼らは今まで通り生きているに過ぎないのだろう
一番良かったあの頃のように生きているだけ

まさかその常識が経年劣化していて
現代に受け入れられてないとは夢にも思わず
気付いていたとしてもどうしようもなく
未だ常識OSをアップデートできずにいる
するつもりもないのかも知れない
そんな感じに見える
(あくまで個人の感想であり全員ではない)

彼らもまた

時代や歴史や社会の犠牲者なのだ
犯罪は別として
我々はこの先輩らに対峙する時
少々の事なら年下らしく
「まあいいか」と折れてやれ
するとどうだ
彼らは魔法がかかったように納得するぞ
怒りの対象を失った途端鷹が鳩になる
間違っても言い負かそうなんてしてはいけない
理路整然と現代の論理を言い含めたとしても
OSが違うのだ
彼らには聞こえていないに等しい
「まあいいか」と言ってコチラのCPUで対処だ
そう
「まあいいか」は最強なのだから
心で「まあいいか」と唱えれば
当面その場から怒りは消え去る