とたけけから学ぶブルースとアメリカ音楽史【どうぶつの森】
現代人が普段から慣れ親しんで聴いているジャズやロック。
それらのルーツを辿っていくと、「ブルース」という音楽にたどり着きます。
今回はそんな"現代音楽の祖"たるブルースとそこから始まるアメリカ音楽の歴史について、関連するとたけけミュージックを交えながら学んでいきたいと思います。
歴史が絡んでくるのでちょっと小難しい話も多くなってしまいますが、どうぞ最後までお付き合いください。
ブルースとは何か
19世紀アメリカで生まれた音楽で、元々はアフリカから連れてこられた奴隷達の労働歌。
「ブルー」とは悲しみを意味しており、その名の通り悲しいことや辛いことを歌ったものが多いです。
彼女にフラれたとか金がないとかそういう身近なことから鞭打ちに怯える奴隷生活の恐怖まで、辛さや悲しみの内容は様々。
こちらはブルースの代表的アーティスト、B・B・キングの楽曲。
「B・B」は「ブルース・ボーイ」の略です。
その名の通りブルースの王様というわけですね。
ブルース、カントリー、ゴスペルなど、こういった人々の暮らしの中で生まれた音楽を「ルーツミュージック」と呼びます。
今回はほとんどこのルーツミュージックに関する話なので覚えておいてください。
労働歌としてのブルースの歴史
先程も言った通り、ブルースはアメリカ南部の大農園(プランテーション)で働く奴隷達が仕事の辛さを和らげるために歌ったものが始まりです。
一人が歌い、それに他の人が続くコール&レスポンス形式の歌は集団作業の連携を取るのにも役立ちました。
こういった労働歌を「仕事唄(ワークソング)」と呼びます。そのまんま。
1865年にアメリカ南北戦争が終結し奴隷制度が廃止されると、仕事唄は複数人で歌うものから一人〜数人で歌うものへと変わっていきました。
奴隷ではなくなったものの、彼らが就けた仕事といえば小作農くらいのもの。
日本の畑とは比べ物にならないような広大な畑で朝から晩までたった一人で働き続ける寂しさを、大きな声で歌うことで紛らわせようとしたのです。これを「野唄(フィールドハラー)」といいます。
これらの労働歌に楽器が加わり、やがてブルースへと変わっていきました。
ここでは音楽の話がメインなので詳しい歴史や時代背景は省きますが、興味があれば調べてみましょう。時代背景を知ればより深く音楽を味わうことができると思います。
ブルースからジャズへ〜ジャズの街ニューオリンズ
ブルースとジャズの歴史について知るには、まず「ニューオリンズ」という街の話をする必要があります。
とたけけミュージックにも「ニューオリンズそんぐ」というのがありますね。その名の通り、ニューオリンズで生まれたブラスバンドの音楽です。
ニューオリンズはアメリカ南部、ルイジアナ州最大の都市。
世界一有名なジャズ奏者、ルイ・アームストロングもこの街の出身です。
「オリンズ」というのはジャンヌ・ダルクで有名なフランスの都市「オルレアン」のこと。
かつてはフランス領だったため、「新オルレアン」という意味の名前がつけられました。
1803年にアメリカ領となり、英語の名前に改められたのです。
19世紀半ばのアメリカ南部において、ニューオリンズは最大の都市と言っても過言ではありませんでした。
大規模なプランテーションが立ち並び、白人、黒人、その混血と様々な人種が混在する街。それがニューオリンズです。
ここでは奴隷にもある程度の自由が認められており、他の地域では禁止されていたアフリカ由来の音楽の演奏も許されていました。
こういった土地柄も音楽の発展の一因だったと言えるでしょう。
19世紀後半になると、南北戦争のあおりを受けて他の地域から多くの逃亡奴隷などがニューオリンズに移住してきました。
人口が増えればその分音楽も増えます。
人々は楽しむために、あるいは日銭を得るために日夜音楽を演奏しました。
奴隷達が持っていたアフリカ由来のパワフルなリズムの音楽を中心にたくさんの文化の音楽が入り混じることで、ニューオリンズの音楽は発展していったのです。
ニューオリンズのマーチングバンド
さて、このニューオリンズの人々というのは大変なお祭り好きで、何かあるとすぐにパレードを開催していました。
ちょうど戦争が終わって解散した軍楽隊から多くの楽器が流入し、ニューオリンズにも本格的なマーチングバンドが出来上がりつつあったのです。
特に死者を悼むための葬送のパレードが盛んで、墓場までの行きしなは厳かな挽歌を演奏し、埋葬が済んだ葬式終わりにはラグタイムなどアゲアゲの音楽で踊りまくる「ジャズ葬列」が多く行われていました。
ラグタイムは19世紀末のアメリカで流行した音楽の一つで、「シンコペーション」と呼ばれる独特の強弱の付け方を特徴としています。
「ラグタイム」というのは「遅い」とか「ずれた」とかそういった意味。
オンライン対戦ゲームを遊んでいる人なら恐らく一度は「ラグ」という言葉を使ったことがあると思います。
ラグタイムはリズムにその「ラグ」を意図的に引き起こしている音楽だということですね。
話が逸れました。
そんなわけでニューオリンズはすっかりパレードが名物になり、そこからさらにどんどん文化が入り混じってジャズになっていったというわけです。
ちなみに当時のニューオリンズでは本当に音楽が盛んで、「目と目が合ったら対バンバトル!」なんてポケモントレーナーみたいな文化まであったそうです。
ニューオリンズ・ジャズとディキシーランド・ジャズ
ニューオリンズそんぐと同様、マーチングブラスバンドによるパレード風のミュージックがもう一曲あります。
それが「けけディキシー」。
ニューオリンズそんぐが「ニューオリンズ・ジャズ」なのに対し、こちらは「ディキシーランド・ジャズ」と呼ばれるものです。
「ディキシーランド」というのはアメリカ南部の俗称。要するに地域的にはニューオリンズと一緒です。というかほぼ完全に同義語です。
成り立ちも編成もほぼ同じ、アメリカ南部のマーチングバンド・ジャズ。
それがどうして2つもあるのでしょうか。
ニューオリンズとディキシーランドのたった一つの違い、それは人種です。
19世紀の終わり頃、アメリカでは「ジム・クロウ法」と呼ばれる人種分離政策が取られました。
(完全に差別がないわけではありませんが)比較的人種や身分の壁を超えて仲良しだったニューオリンズの人々もその法律によって分断され、白人の奏者と黒人の奏者が同じバンドで演奏することが許されなくなってしまったのです。
この時二つに分断されたニューオリンズ音楽のうち、黒人バンドによって演奏されたものが「ニューオリンズ」、白人バンドによって演奏されたものが「ディキシーランド」です。
由来は全く同じであり、音楽としてもほぼ完全に同ジャンル。
しかし白人の西洋音楽は楽譜通りの演奏を重視し、黒人のアフリカ音楽はアドリブ性を重視するという民族元来の音楽の方向性ってものがあるので、そういったところでニューオリンズとディキシーに微妙な差が生まれているのかなと思います。
教会音楽ゴスペル
ゴスペルもジャズやロックに大きな影響を与えたルーツミュージックの一つです。
黒人教会(教会も分離政策によって分けられていました)で歌われる聖歌で、アフリカ系アメリカ人による霊歌や地元のポピュラーソングなどが混じって形成されました。
基本はアカペラですが、手を叩いたり足を踏み鳴らしたりして全身を使って歌います。
これはゴスペルを元にした楽曲ですが、大体雰囲気は伝わると思います。
「けけゴスペル」と西洋風の聖歌である「けけさんびか」を聴き比べてみましょう。
目を閉じて大人しく聴きたい清廉な雰囲気のある讃美歌に対して、ゴスペルは体を揺らして手拍子したくなるような感じがしませんか?
こういったところにも、ニューオリンズとディキシーの項でも述べた音楽性の違いが出ている気がします。
白人教会にしろ黒人教会にしろ、教会音楽は貧しい庶民達にとって最も身近にある音楽でした。
ルイ・アームストロングや後述するエルヴィス・プレスリーも、この教会のゴスペルから多大な影響を受けています。
バラッドから発展したカントリー
ロックンロールを生み出したもう一つのルーツミュージック、それがカントリーです。
発祥はアメリカ東部アパラチア。18世紀にヨーロッパから来た移民達によって開拓されました。
田舎らしい素朴さが特徴の音楽で、イギリス由来のバラッドの影響を強く受けています。
バラッドというのは物語性を持った伝承的な歌のことで、有名なものだと「グリーンスリーヴス」や「スカボローフェアー」が挙げられます。
特に「グリーンスリーヴス」は音楽にほとんど興味のない人でもどこかで聴いたことがあるのではないでしょうか。
話を語って聴かせるものという側面が強く、伝承の物語だけでなく時事ネタを歌にすることも多かったようです。
とたけけミュージックにも「けけバラッド」がありますが、こちらは伝承歌というには現代的というか、少し洗練されすぎているように感じます。
なのでこれは狭義の意味での「バラッド」ではなく、スローテンポで感傷的な歌を表す広義の意味での「バラード」なんじゃないかというのが個人的な見解です。
それはともかく、この「バラッド」と農村の労働者音楽から生まれたのがカントリー。
ですがカントリーは歌い継がれた土着の音楽というよりは作られた商業音楽としての側面が強く、必要以上に素朴感や田舎っぽさが強調されている面もあるようです。
こちらはカントリーギターの神、チェット・アトキンスの演奏。
こういったカントリーミュージックは「ヒルビリー」とも呼ばれていました。
「ヒル」とは山岳のこと、「ビリー」は男の名。
つまり直訳すると「やまおとこ」です。
しかしやや蔑称的なニュアンスを含む言葉であるとして、結局「カントリー」と呼ばれることになりました。
ウエスタンミュージックもこのカントリーの派生です。
レコード・ラジオの登場とロックンロール
20世紀初頭になると、レコードプレーヤーが一般的に普及し始めます。
当然これが音楽に与えた影響は大きく、ミュージシャンの独学に大いに役立ったのはもちろんのこと、人種分離政策下で黒人がヒルビリーを聴いたり逆に白人が黒人音楽を聴いたりもできるようにもなりました。
さらに1920年代にラジオの放送が始まると、より手軽にさまざまな音楽に触れることができるようになりました。
そしてこれに夢中になったラジオ小僧たちの中から、ロック黎明期のレジェンドアーティストがどんどん生まれていったのです。
そのうちの一人が「キング・オブ・ロックンロール」ことエルヴィス・プレスリー。
白人音楽であるカントリーと黒人音楽であるリズム&ブルースを組み合わせた音楽「ロカビリー」の第一人者です。
「ロカビリー」と「ロックンロール」の定義についてはいろいろ微妙な違いはあるんですが、今はとりあえずロックンロールと同義語だと思っといてください。
時は1950年代。
先述した人種分離政策により、アメリカにおける人種差別問題は深刻なものとなっていました。
人種差別の撤廃を目指してキング牧師らが活動したのも大体これくらいの時期です(公民権運動)。
そんな中でエルヴィスはゴスペルを始めとした黒人音楽のリズムや歌い方、動きを強く取り入れたスタイルで大ブレイク。
人種差別の影響が音楽にも表れていたこの時代において、白人でありながらまるで黒人のように歌うエルヴィスの姿は多くの人々に衝撃を与えました。
エルヴィスの活躍によって世界に轟いた、黒人音楽と白人音楽の融合である「ロックンロール」。
後の多くのアーティストたちに大きな影響を与えたそれはやがて「ロック」へと姿を変え、今なお愛され続ける音楽となったのです。
差別と対立の時代に音楽を通して人種の壁を取り払った、って感じでめちゃくちゃかっこいいですね。
エルヴィス自身、黒人音楽やアーティストへのリスペクトを何度も公言していたそうです。
実践編 ブルースを弾いてみよう
では実際にギターを使ってブルースを弾いてみましょう。
ブルースの特徴のひとつは、「ブルーノート」と呼ばれる音階です。
図のように3番目、5番目、7番目の音が半音下がる(フラットがつく)のがブルーノートの特徴。
ドから始まるCメジャースケールの場合、ミとソとシに該当します。
続けて弾いてみると、どことなく暗い雰囲気が感じられますね。
そのブルーノートを取り入れた、「けけブルース」(ライブ版)の伴奏でも使用されているブルースの定番フレーズがこちら。
この「5」の音の部分が半音のブルーノートです。
そしてここにブルースのもう一つの特徴、「シャッフルビート」を組み合わせれば一気にブルースっぽくなります。
「シャッフルビート」というのは跳ねるようなリズムのこと。
「けけブルース」を聴けばよくわかりますが、
「タッタ、タッタ、タッタ、タッタ」というリズムです。
そのシャッフルビートで上のフレーズを弾けば、それだけで「けけブルース」的なブルースが完成。
かなり簡単に弾けるフレーズなので、初心者の練習にも最適です。
テンポはゆっくりめの100くらいがおすすめ。
ちなみにこのフレーズ、ブルースの後継者であるロカビリーとロックンロールにも頻出します。
上と同じフレーズをテンポ160くらいのシャッフルビートで弾けばロカビリー風、
同じくテンポ160くらいのイーブンのリズム(跳ねない均等なリズム、タカタカタカタカって感じ)で弾けばロックンロール風になります。
お好みのテイストで弾いてみましょう。
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