サンフランシスコのチャイナタウンのヤムチャ

 最近コンビニスイーツに脅かされているらしいドーナッツやさんだが、村上春樹の好きなダンキンドーナッツは日本ではミスタードーナッツ(ミスド)に破れ、本国アメリカでは逆にダンキンがミスドを吸収したらしい。日本でのミスド成功は運営会社ダスキンの日本化戦略にあったらしいが、そのうちのひとつ?ヤムチャ(の点心)販売コピーに触れた一文を修正再録しておく。(初出:『アジアクラブマンスリー』アジアクラブ、2000.5)

 ドーナッツやさんのコマーシャルに「サンフランシスコのチャイナタウンのヤムチャ」という文句があるが、欧米の中のアジアというこの組み合わせは、日本人のエキゾティシズムをくすぐり、チャイナタウン・イメージを象徴している。
 実際には中国、香港、マカオ、台湾以外の海外チャイニーズは、8割が東南アジアに集中しているのだが、日本語で「中華街」と呼ばれるチャイナタウンは、サンフランシスコにあった方が通りがよいようだ。それでは実際の旧金山(サンフランシスコ)の唐人街(チャイナタウン)はいかに?
 目下、北米最大のチャイナタウンはニューヨークで、特に中国の改革開放政策以降は大陸からの移民潮が著しいが、1848年のゴールドラッシュから始まるチャイナタウンの史跡は、やはりサンフランシスコに止めを刺す。グラント通りを中心に古い会館ビル、広東銀行、天后廟などチャイナタウン要素がそろっている。チャイナタウンの北限に近いブロードウェイ通りの飲茶レストランの階上にあるアメリカ華人歴史学会では、中国華南からの移民にはじまり、街作りの様子、現地社会への参加状況までが展示されている。ホリデイイン・チャイナタウンホテル内のチャイニーズカルチャーセンターでは、祖先のお墓の土地とかかわりがなくなった華人たちが「尋根」(ルーツさがし)の真っ最中だ。エスニックタウンの街ネタはエスニックメディア(華字紙)で拾える。台湾の『聯合報』と提携する『世界日報』、比較的中立な『星島日報』、大陸寄りの『僑報』など、ヤムチャのお供は選り取り見取りだ。香港より香港らしい街、それがサンフランシスコのチャイナタウンである。


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