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うまい酒は旅をしないので、わたしが旅をしてきました ~ 菊鹿ワイナリー編 ~

うまい酒は旅をしない――

作家村上春樹は、かつてその著書の中でこう語った。


「うまい酒が旅をしないというなら・・・」

アルパカが口を開いた。

「わたしたちは、どうやってうまい酒を手に入れればいいんだろう」

男は首を振る。

「その質問に答えることは、簡単かもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「だって、そうじゃない」

アルパカはわけがわからないというふうに、長い首をかしげる。まるで明日世界が終わるというのに、茶碗一杯の赤飯を食べている男を見るときのような顔をして。

「酒は各地で作られる。わたしたちはそれを飲む。うまい酒が旅をしないというなら、わたしたちが飲んでいるのは一体全体なんだっていうの」

「それは――」

男がくちを開く。まるで神の啓示を受けた、いつくしみ深い民のように。

「きみが旅をするしかない」

アルパカはため息をつき、グラスの底にわずか残ったワインを一気に飲み干した。やれやれ。


――と、いうことで、今回の記事のテーマは「旅」。それも、ワインをめぐる旅です。

村上春樹はぜんぜん関係ありません。書きたかっただけです。全方向にごめんなさい。

すこし前、noteの海をふらふらさまよっているときに、ワインをめぐりゆく旅のことを「ワ旅」と表現されている方を見かけました。

ワ旅。なんか、いいですよね。

サウナに入る活動のことを「サ活」と呼ぶのは、だいぶ一般的でしょうか。まさにあのノリですよね。ワ旅。

昨年、惜しまれつつコンビ解散となった、眼鏡ともじゃもじゃのあの方たちも、ラのひと、などと呼ばれたりしますね。なに、知らない? そうですか。こちらのお薬、出しておきますね。

▶ お薬

ワ旅。ワ活。ワ食。ワインにまつわるあれこれ表すのに、結構使い勝手よくないですか。

ワ会、ワ本。3000ワインの民、ワ民・・・ワタミ?


さて、今回はそんなワ旅です。

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2021年某日。数日のあいだ東シナ海に停滞した台風が急速に勢いを増し、観測史上初となる福岡への上陸が世間を騒がせていた、まさにその頃。

わたくしますたやも台風を追うようにして、九州に上陸していました。

次第に強まる雨脚。豪雨に濡れそぼる、久住高原。

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そりゃあ鹿だって戸惑います。

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▲「嘘やろ?」の顔

今回のワ旅の最終地点は、熊本のとあるワイナリーです。別府の知り合いのお宿に一泊し、それから翌朝レンタカーで向かう予定となっています。

しかし・・・とにかくすごい雨です。どうやらあしたには台風も過ぎるらしい、という予報になっているものの、さすがにこうも1日中雨に降られ続けると、ちょっと心配になってくるものです。

夜はどしゃ降りのなかの温泉蒸しでしたし・・・

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▲ 「嘘やろ?」と言いながら蒸し続けました。

あしたは晴れる? 本当かなぁ・・・・・・


翌朝。


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めちゃくちゃ晴れとるやないかーーーーーーーい!

き、既視感・・・

▶ 急な晴れに笑うしかない川端康成と握手をしたい記事はこちら

これぞまさに台風一過。笑えるくらいのピーカン照りのなか、ますたやはうまい酒を目指し、一路熊本へと四足歩行で向かったのでした。


ところで、熊本。いいところですよね。水どころ、米どころ、そして、ワインどころ

エミューが葡萄畑のなかでつかまっていたのも、今や懐かしい思い出です。

▶ たとえばエミューから排泄されたなにかしらが、2021年ビンテージのワインのテロワールに反映されたりするかもしれない。(なにかしらが)

そしてまさにこの葡萄畑のあたりが、今回のワ旅の本丸。はい、そうです。みなさんもご存知、菊鹿ワイナリーさんでございます。

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以前、菊鹿さんの『樽熟シャルドネ』をいただき、「うまい酒」としてますたやの心に刻みこまれていた菊鹿さん。あれが旅をしたほうの酒だというのなら、旅をしなかったほうの酒は、いったい全体どういうことになっているのでしょうか。

はやる心をおさえつつ、まずは葡萄畑の散策からはじめることにしました。

ワ旅では、これが大事です。いいですか。うまいワインを手に入れるためには、お作法が大事なのです。神へのご挨拶みたいなものです。そう、たとえば・・・二礼二拍手一礼みたいな。

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いい天気。気持ちいい。

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こんな風に、ひとつひとつ看板がかけられています。

ぶどうのトンネルをのぞきながら・・・

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はい、こちらが、ピノ・ノワール大先生です(二礼二拍手一礼)

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くっきりと輪郭を描いた緑の葉、絵の具でベタ塗りしたような鮮やかな青空。台風一過の葡萄畑は、まさに真夏のコントラストが広がっていました。

さて、こうしてひととおりお外を参拝し終えたますたやは、いよいよ本殿(店内)に潜入していきます。

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開放感のある高い天井、白を基調としたお洒落な空間。ワインが並ぶモダンなディスプレイは、見ているだけで心が躍ります。

中では有料試飲もおこなわれていました。ソムリエールからそれぞれのワインの特徴をうかがいながら、ひとつひとつ飲んでいきます。

自分の目と鼻と舌をつかって、うまい酒を探せるなんて、ああなんて贅沢な時間なんだろう・・・

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▶ そもそも「試飲」の量ではない。

結局、悩みに悩んだ結果、3本のワインを連れて帰ることとなりました。

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もう、思い残すことはありません。ワイナリー、たっぷり堪能した!満足満足。あ、お隣にカフェがあるじゃん、いいじゃんいいじゃん、アイスクリーム食べて帰ろう~♪

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▶ お気づきだろうか・・・奥でぼんやりとスマホをつつくますたのアイスクリームが、でろでろに溶け始めていることに・・・


「――旅をすることは、業を背負うことだったわ」

アルパカの結論に、男は信じられないという風に首を振った。なんだってうまい酒を探しに行ったのに、業を背負って帰ってきたのか。

「それで、うまい酒は見つけたんだろうか」

男の問いに、アルパカは短く息を吐き出す。違うのよ。旅をしないのは、酒だけじゃないの。

「酒だけじゃない?」

男の質問に、アルパカは嬉しげに首をふった。まるで世界の理を知っているのが、自分だけだとでもいうように。


うまい酒は旅をしないーーと、かつて作家村上春樹は言いました。

でも、旅をしないのは、「酒」だけではありませんでした。

現地の土、現地の風、現地で溶けだすアイスクリーム

現地の空気に現地の色。そして、現地の売店のおばちゃんの笑顔――

これらが混然一体となっていることが、つまりはワインのテロワールなんじゃないかなあ。

ワ旅は、そんな旅をしないテロワールに、会いにいく旅なのかもしれません。

そんなことを考えつつ、でろでろに溶けたアイスクリームを入念に拭き取りながら、エミューのテロワールが溶け込んだ畑を、あとにしたのでした。


さて、本日のワインをご紹介したいと思います。どちらもベーリーAですが、どちらも3000円ワインではありません。でも、まあ、おいしいから… 聞いてください…!

熊本ワイン マスカットベーリーA 樽熟成2017 [¥2420 ]

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<ワインdata>

国:日本 種類:赤ワイン 品種:マスカットベーリーA ヴィンテージ:2017 生産者:熊本ワイナリー

<バランス>

酸味★★★☆☆ 糖度:★★☆☆☆ タンニン:★★☆☆☆

さて、まずは熊本ワイナリ―さんの樽熟マスカットベーリーAを飲んでみました。熊本ワインさんは、菊鹿ワイナリーさんの親会社のワイナリーです。

こちら2017年とすこし眠っていたようですが、それもそのはず、売店の中でバックヴィンテージとして売られていたものです。現在は現地での販売オンリーとのこと。つまり、旅をしていない酒でございます。

ベーリーAといえば、ずばり「いちごキャンディ!」。

笑っちゃうほどのキャンディ香に、爽やかな酸味、そして軽やかな口当たりのかわいらしさが、ベーリーAをベーリーAたらしめている所以。このワインはどうでしょうか。

さて、グラスに注ぐとかすかにふちがオレンジを帯びています。ほほう、さすがは樽熟。全体的には、綺麗なルビー色です。ちょっと濃いめ。

グラスからはさっそくキャンディ香が立ちのぼります。でも、存在感はややひかえめ。おや、と思いながらくちに含んでみると… おお、なんと、けっこうふくよか!

伸びやかな酸味に、綺麗な果実み、それを包み込む上品な樽香。終わりにはかすかに苦みが残ります。もちろんベーリーAのよさであるキャンディ香もきちんとあるのですが、そこまで主張的ではありません。

なんというか、クラスの中で女子に人気があるタイプの、清楚で物静かな女の子、という感じのキャンディ香です。

「あんたのことは、アタシが守ってあげるからね!」みたいな

「男子が変なこと言って来たら、絶対に言い返してあげる!」みたいな

「ちょっと山本、あんたあの子のこと変な目で見ないでよ!」みたいな

周りを取り囲む個性豊かな女子たちが、静かで意志の強い彼女のことをしっかり守ってあげてる、っていう感じでした。

へぇー、ベーリーAって、こんなしっかりとした味わいになるんだ。なんだか日本のベーリーAの未来に、期待が持てるようなお味。出会えてうれしい。


山鹿 マスカットベーリーA 2020 [¥2546 ]

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<ワインdata>

国:日本 種類:赤ワイン 品種:マスカットベーリーA ヴィンテージ:2020 生産者:菊鹿ワイナリー

<バランス>

酸味★★★☆☆ 糖度:★★★☆☆ タンニン:★★☆☆☆

こちらは山鹿マスカットベーリーA。山鹿地区の葡萄のみを使って作られているワインだそうです。こちらのワインも、確実に手に入れられるのは現地オンリーの、現地酒でございます。

樽熟だった先ほどのベーリーAと飲み比べてみると、その違いは一目瞭然。こちらのほうがいわゆる、イメージのなかにある「マスカット・ベーリーA」のイメージに近いような気がします。

淡いルビー色の外観にやわからなキャンディ香、生き生きとした酸と、わりとふくよかでしっかりめのボディ。菊鹿さんは、畑の葡萄の熟度が高くなるのでしょうか。どれもわりとしっかりした造りの印象です。とはいえ、そこはいつものベーリーA、軽やかな飲み口は、和食にも合いそうです。

夫はこのワインのことを「イノセント」と表現してました。確かに、雑味のすくない綺麗系のつくりをしていて、思わず次の一杯に手が伸びるようなワインでした。

マスカット・ベーリーAって、なんとなくこれまで ”あえて選んで買う” ワインではなかったのです。でも、エキスパートの二次対策で「練習のために」のみはじめてみると、ベーリーAにはベーリーAのよさや、愛らしさがあるなぁと改めて発見することができたのでした。

そして、このふたつのワインによってまた、ちょっとベーリーAへの見え方が変わりました。うん、まだまだ、ワインには知らないことがたくさんある。人生は長い、世界は広い…!


ちなみに、もうひとつ連れ帰ってきた樽熟のシャルドネは、このまましばらく寝かせてみることにしました。

以前いただいたものはすでにおいしかったのですが、今回あらためて試飲でいただいたときには、樽がけっこうビシビシきいているのが印象的でした。「できればもう少し寝かせると、落ち着いてくると思います」とは、現地のソムリエールの弁。

うん、寝かせるんでしょ、もちろん楽勝だよ。ちょっと置いとけばいいだけなんだから。飲めるワインは、ほかにもいくらだって・・・寝かせ・・・寝・・・ね・・・・・ (飲みたい)

と、いうことで、こちらの樽熟シャルドネは3000円台、いずれ3000円ワインとしてご紹介したいと思っていますが、

たとえ3つ後の記事とかでそれが出て来ても、どうか笑って通りすぎてください…!^0^(飲む気だな?)


それでは今日はここまで。みなさんのうまいワ旅のお話も、ますますたのしみな季節になりました。お読みいただいてありがとうございました! また次の3000円ワインで会いましょう♪ ますたやでした(^O^)

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ますたやとは:

関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)。夫婦で1本を分けあって飲みます。3000円ワイン以外のワインについては、Vinicaにて夫が更新中。2021年、夫婦でJ.S.A.認定ワインエキスパート取得。これからもおいしいワイン、いっぱい飲むぞ~!

twitter:@3000wine_tami
Instagram:@3000wine_no_tami

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