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石巻、酒と魚と上司と女。

宮城県石巻市に行ってきました。

仙石東北ラインでゴトゴトと向かいます

ふとしたことから本職(精神科医療)のほうでたずさわるようになり、今回は3度目の訪問。前回の訪問が2016年、コロナを挟んだりしたこともあり、実に7年ぶりの訪問です。

車窓を流れる海

ところで石巻市に限らず、東北は言わずもがな「日本酒」の一大産地。美味しい米に美味しい水。電車の窓の向こうに広がる一面の「田んぼ」を見ると、ああここは「米の国」なんだなぁと、妙に納得します。

しかしわたしは何を隠そう「ワイン」の民を名乗るもの。日本酒は普通に好きなのですが、まったく詳しくありません。銘柄も知らなきゃ、飲み方も知らない。確かワインの勉強のときひととおりさらったはずなのですが、酒米の種類も、加水の有無も、米の削りの比率だって、何度聞いても覚えられない。なんせわたしの肝臓は、ワインに捧げているもので…

しかも今回の訪問はあくまでお仕事。偉い先生(上司)との同行ということで、こりゃわたしの(肝臓の)出る幕は特にないかな、と、思っていたのです。がーー

「ますたやさん。この出張、酒と飯の心配は、無用です

隣を見たらすでに飲んでいる上司

謎の司令が降りる新幹線の車内。まさかの石巻出張、「酒旅」の予感がここに爆誕。そんなことある?

そして、終わってみればやはり素晴らしい「酒」と「飯」、そして「ひと」に出会った心震える旅…じゃなかった、仕事だったのでした。

というわけで、石巻酒旅(ちょっとワイン)、しばし、お付き合いください。ますたやの行くところ、美味い酒が待ってる説あるなほんとに…


大将の握る寿司は、難易度付き

ところで11月前半、夏日が続いていた関東。すっかり油断してましたが、石巻は、寒かった。夕方に石巻についた我々、電車を降りた瞬間のひやりとした空気に、思わず顔を見合わせます。

「…大丈夫。石巻には、三越があるから」

そうなの?なんか、全然大丈夫じゃなさそうな顔してますけど…

寒い寒いと言いながら、いったんお宿にチェックイン。長旅の肩の荷をおろし、さっそく物産館へと繰り出します。

物産館大好き女、入店

石巻はといえば、笹かま、ほや、金華サバにくじら…そしてなにより「日高見」と「墨廼江」という二大日本酒が名物。名物を買うだけで晩酌ができるなんて、いいまちだ。

そんな物産館で探すのは、もちろん!ワインです(様式美)。3000円ワインの民、こころはいつも、ワインとともに。

というわけで、見かけたこちらをお持ち帰り。

こちらを造るMORIUMIASUは、廃校を利用して、こどもたちの居場所活動をおこなっている複合施設です。津波の被害を受けた田んぼを引き継ぎ、ワイン用ブドウを育てることで次世代も育てていく…テーマ性のある、おもしろい活動をされています。

余談ですが、わたしがワイン関連の就職活動をしている際にこちらの募集も見かけてたんですね。当時、「将来はこどもたちのブドウ農園を作りたい」と思っていたわたしは、応募しようかとわりと本気で悩みました。

結局わたしは東京に居残り、ワインを造っているわけですが、社会貢献のひとつの姿として、そしてワイナリーのあり方として、行く末を見届けて行きたいワイナリーのひとつです。ワイナリーって、本当に可能性が無限大なんだよなぁ…!


さて、ワインも無事手に入れたことですし、あらためて夕ご飯どころへ向かいます。なんだか噂によると、美味しい鮨が食べられるんですってよ…?

というわけで、最初におとずれたのは『助六鮨』さんです。なんと石巻の地にて51年間続けて来られてるんだそう。味のありすぎるじいちゃん大将が、ひとつひとつ丁寧に仕事した魚はまさに絶品。

早速ですが「刺し身をいくつか、ネタはおまかせで」との注文ではじめます。駆け付け一杯のビールが、五臓六腑に染みわたる…!

さざえの肝ってこうやって食べるんだ…!
ぷるぷるの牡蠣とコリコリのナマコ。
こんな厚切りのナマコ、食べたことない。
寿司屋のたまごやきは最高
寿司もいくらもツヤッツヤで新鮮!

さあ、ここから大将の本領発揮です。

「はい、明石家さんま」
えーっと、さんまのことね!(難易度★)
「はい、ホールベイビーね」
えーっと、穴子か…!(難易度★★)
「グリーンピースいっちょう!」
・・・あ、捕鯨反対団体のことか!w(難易度★★★)

ちなみに日本酒の銘柄を聞いたところ、「サバノミソニがあるよ」とのお答え。

「大将、サバノミソニってなに?」
「サバノミソニは、サバノミソニだ」

首をかしげながらメニューを見ると、『サバの味噌煮・・・魅惑の密造酒(ウソ)』とありました。

うーん大将、おそれいりました!(難易度★★★★★)

街かどのワインどころで、ドヤる

さて、新鮮なお魚と大将のおじいギャグに舌鼓を打ったわれわでしたが、なんと時刻はまだ19:00すぎ。まだまだ夜は長い。

「さっき窓の向こうに、ワインが見えたよね」

というわけで、行きがけに通りすぎた、こちらのダイニング・バーにお邪魔します。

まずは駆け付け一杯、南アのスパークリングで乾杯!

ほんのり残糖を感じるような、フレッシュなフルーティさが乾杯にgood!日本酒好きの上司にも、ここはひとつ、ワインにお付き合いいただきます。

楽しいチーズ盛り
カプレーゼにはイタリアのピノ・グリージョを

「ラム肉にはなにが合うと思う?」
「そりゃもちろん、シラーズ一択ですよ!」

ドヤ顔で注文
本日のベスト・ペアリング賞受賞!

いやあそれにしても、ワインがある場所の「マイホーム」感といったら…ビールも日本酒もウィスキーだって、アルコールが入ってる飲み物は全部好き、なんだけど、もはやワインがある場所に行くだけで、ほっとできるようになってきました。ここがわたしの帰る場所。アイムホーム。

「へ~すごいね。どうして、すぐに組み合わせがわかったの?」
「これはですねぇ、産地を合わせるというワインの選び方がありまして――」

永遠にドヤるわたしの戯言ともに、夜はゆったり更けていきます。

ほっこりバーのマスターは、伯楽星の生みの親(本当の意味で)

さて宴もたけなわとなってきた頃、わたしのTwitterXにとある通知が飛び込んできます。

「ますたやさん、石巻にいるんですか?!わたし、最近引っ越して石巻に住んでるんですよ!

それは、わたしのワイン友達からの連絡でした。会う(即決)

というわけで、上司とはここでお別れして、石巻グランドホテル1階の『ニュー魯曼停』へと向かいました。

あしたは仕事なのでちょっと1杯だけなんですが…と、マスターに事の次第を説明しながら友人を待つ時間。いや、そんなことある?

あった(あった)

驚きの再会ののち、互いの近況報告で盛り上がる我々。なぜ石巻にいるのか、今なにをしているのか、そしてこれまでどういう人生を歩んで来たのか…

ワイン会なんかで会うとなかなか個人の話ができないので、こうやってたまにサシで会うのは本当に楽しい。

「お客さん、さっきちょっと小耳に挟んだけど、千葉から来たの?」

マスターの付かず離れずの優しい距離感が居心地よく、ついつい酒が進みます。「そうなんですよ!聞いてよマスター…」ああ、いいなぁこの感じ。永遠にここに居座りたい…

そんな時間のおともには、もちろん石巻の地酒でした。「究極の食中酒」伯楽星。いや~しかし、なにを飲んでも美味いな石巻の酒は…!

「うちの息子、実は伯楽星で副杜氏やってんですよ」
「え?!アタシは東京でワイン造ってますよ!」

まさかの「醸造人」という共通点に、夜はさらに盛り上がります。カウンターに座っていたお客さんまで巻き込んで、結局日をまたぐまで、楽しい宴は続いたのでした。ちょっと1杯なんてどの口が言った(土台無理

ああ、居心地のいい場所だった。本当に優しく受け入れられた夜でした。「ここにいていいよ」って受け入れられることの、本当にあたたかいことよ。

石巻の海

翌朝、早起きしたわたしは、海へと向かいました。

北上川を河口へと進みます
朝焼けが美しい

そもそも今回の石巻訪問は、震災関連事業によるものでした。

最初に訪問したのが2015年。あの頃はまだあちこち工事中で、ブルーシートが目についた覚えがあります。当時乗せてもらったタクシーの運転手が、「来るたび道が変わってるんですよ」って笑ってたっけ。

2011年3月11日。あの日、自分がどこにいて、なにをしていたのか。わたしたちは今でも、ふと語り合うことがあります。日本中のすべてのひとが、当事者になったあの日。

こうやって何度も、何度も、何度も語ること。誰かとあの瞬間を共有し続けること。それがきっとわたしたち自身にとっての、大切な魂の作業なんだろうと思っています。

ここに来るたび何度でも、海を見たい。わたしは、そう思っています。

さて、お仕事の時間です。

石巻の「茶色い」焼きそば

午前中の仕事を終えた我々は、さっそくお昼に繰り出しました。今回はこちら、石巻市役所ちかくの「かのまたや」さんへと訪問します。

こちらはうどん屋ですが、石巻のB級グルメ「石巻焼きそば」も提供されているとのこと。そういうミーハーなものに目がないわたし、さっそくいただきます。

石巻の焼きそばは「出汁で2度蒸す」ことで最初から茶色いのが特徴なんですって。へ〜!なんせ茶色い食べ物は、世の中の善。ぺこぺこのお腹がソースで満たされる…!

さらに「笹かま」を買い食いしながら、地元の酒屋をのぞきます。たった1時間の休憩時間でさえも石巻を堪能する。我々の旅、本気です(※仕事です

それにしても「地元の酒屋」っていいよね。お酒の話がなんだか「身内感」があるんですよ。

そんなことを思いながら店のお兄さんとしゃべってたら、「大人にとっての酒屋って、こどもの頃のおもちゃ屋みたいなものだよね」って言われました。わかる(ワインのほうで)

旅(じゃない)は酒とともに終わり行く

こうして1日仕事を終えた我々は、ようやく帰路につきます。じんわりと余韻が残る、いい旅路でした。

三陸のクラフトビールで乾杯!
新幹線の車内で、ダメ押しの高畠スパークリング!

わたしにとってコロナ禍は、心理職として生きていく炎が、どんどん小さくなっていった期間でもありました。

いつしかこどもたちと全力で遊ぶことを忘れ、目の前のひとの「こころ」に思いを馳せられなくなっていました。やる気の出ない自分が歯がゆくて、それでもなんの手も打てなかった。わたしがワインの道に進んだのは、ワインのことが好きだったから、だけではありません。

「こんな気持ちじゃ、この仕事、続けられません」

ほとんど泣きながら吐露したのは、いつの夜だったでしょう。そんなわたしに上司は、たったひとこと「いいと思うよ」と言いました。

「ますたやさんが、ますたやさん自身になろうとしてる、大切な時期なんじゃないかな」ーー

『あのあと、正直、もう辞めちゃうかもしれないって、副院長とも話したんだよね』

ワハハ!と笑う隣に、ワインがありました。わたしは思わず苦笑いします。ああ、そうか、バレてたのか…

「やっぱり、ひとが好きなんです。わたし」

繰り返し、繰り返しおなじ話をしながら、それでも少しずつ、なにかが変わっていく。隣にはいつも、美味い酒と飯。生きるってなんか、そういうことなんじゃないかな。知らんけど。

というわけで、石巻酒旅(ちょっとワイン)はこれにて終幕。やっぱり美味しいお酒には、いい余韻が残ります。

石巻、本当にいいまちでした。あ〜、おいしかった!また来年も、再来年も、きっとうかがいます!🍣

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■ ますたやとは:
関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワイン好きが高じて、2023年3月から都内のワイナリーで働きはじめました。
2021年J.S.A.認定ワインエキスパート取得/2022年コムラードオブチーズ認定。夫もワインエキスパートを取得し、現在はWSETLevel3を英語で挑戦中。

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