新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
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あれだけ見られた新聞やテレビは信頼されていたのか-コロナと報道倫理(前編)

新聞、放送、出版、広告などマスメディア210企業からなる「マスコミ倫理懇談会全国協議会」という組織があります。その名の通り、「マスコミ倫理の向上と言論・表現の自由の確保」を目的に1955年に創設されました。その機関誌「マスコミ倫理」にコロナと報道倫理をテーマに寄稿を依頼されたので、その内容に加筆修正を加えてnoteで公開します。

信頼を得るための報道倫理と方法論  

本稿を始めるにあたり、長くなるが、ある文章を引用したい。 

新聞記事の信頼が揺らいでいる状況、これは読者調査等で出るようなものとは、ちょっと私の実感は違う。われわれとして十分な検討を要する問題だと思います。(中略)20年前と比較して今日は情報環境が大きく違っている。情報伝達機関が非常に多様化している。(中略)新聞というメディアに世間が求めるものが、以前に比べて違ってきた。例えば情報の精度、正確さ。これに対する要求水準が非常に高くなっているのではないか。それが満たされなくて、新聞不信という形でいろいろ出てきている

これは最近の文章ではない。朝日新聞のスター記者として知られた疋田桂一郎氏が1982年度の社内研修で語った言葉だ朝日新聞出版「新聞記者 疋田桂一郎とその仕事」より)。

疋田氏がここで語っている情報伝達機関の多様化とはインターネットではなく、テレビ報道などのことだ。40年近く前ですら、このような懸念がもたれていたことは心すべきだろう。

インターネットとソーシャルメディアの登場によって、誰でもいつでもどこでも情報を発信・拡散できる時代が到来し、情報伝達の多様化は疋田氏の時代とは比較にならないほど進んだ。新聞やテレビや出版など、プロの報道は常に吟味され、検証され、疑われ、信頼を得ることは当時よりもさらに難しくなった。

だからこそ、世界中のメディアがいかに信頼を獲得するかを真剣に議論し、あらゆる手法を実践している。信頼されなければ、その情報は顧みられず、買われず、報道機関は影響力も収入も失ってしまうからだ。

本稿では新型コロナウイルスの報道を題材として、信頼を得る鍵としての報道倫理やその方法論について、国内外の事例を紹介しつつあるべき方向性を前後編の2回にわたり検討する。

 情報を求める人々に広がったインフォデミック

2020年6月末時点で世界で累計の患者数1000万人、死者50万人を超えた新型コロナウイルスは、過去100年で最大の感染症だ。患者が世界的に急激に増えるにつれて、この未知のウイルスに関する情報を求める人々によって、世界中のニュースサイトも活況を呈した。

Web解析ツール「チャートビート」のデータによると、世界中のニュースサイトで3月上旬からコロナ関連の記事のページビュー(PV)が急増しているのがわかる。

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その他の記事のPVはほぼ変わらない中で、コロナ関連の記事の影響で全体のPVを1.4倍に押し上げ、日本においても、多くのニュースサイトが過去最高のPVを記録した。

危機の時こそ、人々は情報を求める。インターネットとソーシャルメディアによる情報拡散は、その需要量すら遥かに上回る供給力を持つ。日本経済新聞の試算によると、スペイン風邪当時の情報の拡散力を1とすると、2003年のSARSの段階で2万1924、2009年の新型インフルエンザで17万1418、2020年現在で149万9177と、まさにウイルス並に指数関数的に増大した(日経新聞「情報パンデミックの拡散力、SARSの68倍 新型コロナ」)。

それは、負の側面を持つことにもなる。デマや不確かな情報の蔓延だ。ウイルスの爆発的な拡散(パンデミック)になぞらえて、悪しき情報の拡散は「インフォデミック」として世界保健機関(WHO)が警鐘をならす事態となった。情報の量が担保されているからと言って、それが質につながっている訳ではない。

信頼される報道のための13のルール

筆者は日本でファクトチェック(情報検証)に取り組むファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のアドバイザーであり、6月27日からは理事兼エディトリアル・ディレクターに就任して国内の怪しい言説のチェックを担当している。

そこで感じるのは、インフォデミックで気を付けるべきなのは、「お湯で消毒できる」「大麻が効く」といった特効薬デマや、「実は中国が開発した生物兵器」「政府やマスコミは真実を隠している」といった陰謀論デマのような、いわゆる偽物のニュース(フェイクニュース)だけではないということだ。

新聞やテレビ、雑誌やネットメディアなどの報道も、インフォデミックに拍車をかける恐れがある。「原料が中国由来だからトイレットペーパーが不足する」という情報はデマだと報じる新聞やテレビの記事が、かえって人々を買い占めに走らせて品不足を拡大させた事案などもそうだ。

フェイクニュース問題に取り組んできたジャーナリズム組織「ファースト・ドラフト」は3月に公開した「コロナウイルス:責任ある報道と倫理」という記事で、13のルールを紹介した。以下の通りだ。  

・恐怖を煽るようなセンセーショナルな表現を避ける
・ステレオタイプを植え付け、パニックを引き起こすような画像を使わない
・最悪のシナリオを蔓延させない
・読者が実践できる行動を具体的に示す
・読者を公式情報に誘導する
・新しい研究について質問すべきことを知っておく
・複数の専門家に話を聞く
・全ての噂話が報道するに値するとは限らないことを忘れない
・噂話を報じる際には、見出しやツイートで事実を前面に出す
・リスクレベルなどの複雑な情報をわかりやすくする
・嘲笑的な言葉を避ける
・読者や視聴者がどんな疑問を持っているかを把握し、それに答える
・地図やグラフにデータの出所や日付や文脈を盛り込む 

いずれも常識的な内容であり、記者であればいつでも気をつけておくべきことだ。では、日本の報道機関はこれらのルールにのっとり、責任ある報道で情報を求める読者の期待に答えることができていただろうか。

関心事だからという理由で、科学的な裏付けが少ない発言を引用したり、数字の持つ意味合いを精査・解説せずに速報したりしたことで、数字はとれるかもしれないが、大切な信頼を傷つけていたのではないか。

シェアされなかった新聞やテレビ報道 

ソーシャルメディア上でどれだけ記事がシェアや「いいね」などを得たかを計測ツールBuzzSumoで調べてみた。

シェアやいいねという指標は、その記事を自分だけではなく、他の人にも読ませたいと感じさせたものである可能性が高く、単純にその記事の見出しをクリックした数であるPVと比べてより読者の関与(エンゲージメント)が強く、満足度を計ために用いる指標の一つだ。

同時に感情に強く訴えかける内容や、センセーショナルな内容がシェアされやすい面もあるので、その点も考慮して分析する必要がある。

見出しに「コロナ」が入るなど、新型コロナウイルス関連記事と思われるものでシェアされたトップ20のうち、1-3位はNHKやスポニチアネックスの志村けんさん死去に関する記事だが、それ以降で目立つのはむしろ報道機関以外のコンテンツだ。(データは8月9日現在、数字は「シェア」や「いいね」などの合計)。

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例えば、トップ20位内に官公庁のページが3つ入っている。

総務省:特別定額給付金(新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関連)
自民党:新型コロナウイルスにともなう あなたが使える緊急支援
首相官邸:新型コロナウイルス感染症 ご利用ください・お役立ち情報

経産省「新型コロナウイルス感染症関連」もほぼ同数シェアされている。公的な機関からの情報発信が頼りにされていることがわかる。20位外だったが、日本赤十字社「新型コロナの3つの顔を知ろう!」も注意点をイラストを使ってわかりやすく解説して広くシェアされていた。

Youtubeからも2つランクインしている。「小池知事にコロナのこと質問しまくってみた【ヒカキンTV】」は人気ユーチューバーのヒカキンが、「人々は何を知りたいか」に寄り添った一般人目線のコンテンツ。

これを大きく上回ったのは「⚠️ほんまに聞いてほしい⚠️マジでコロナを舐めたらアカン」。投稿者にとってこれが1本目の動画で「はじめまして、私はニューヨークのハーレムに住んでいる、ただのシングルマザーです」という一言から始まるシンプルな動画は、患者数・死者数が急増するニューヨークと日本の危機感の違いを現地の住民の目線で赤裸々に伝えていた。

報道機関の発信で強かったのは、東洋経済オンライン「新型コロナウイルスの感染状況」だ。厚労省など公的機関のデータをわかりやすくチャートにまとめている。陽性患者数、検査数、入院者数、退院者数、死亡者数などがスマートフォンでも見やすいデザインで一覧でき、日々更新される。数字の意味を理解するための注釈も充実している。

これらのデータから何が読み取れるだろうか。東洋経済オンライン「新型コロナウイルスの感染状況」は、ファースト・ドラフトが推奨する「読者に公式の情報源を示す」「読者や視聴者がどんな疑問を持っているかを把握し、それに答える」「地図やグラフにデータの出所や日付や文脈を盛り込む」ことができている。

公的機関や医療機関からの発信も「公式の情報源」として信頼度が高い証だろう。ユーチューブからの発信は、視聴者にとってより身近でわかりやすい発信として受け取られている。

逆に言えば、それらの点で新聞やテレビのコンテンツの多くは負けていたのではないか。 

ちなみに、筆者(古田)はNHKの新型コロナ特設サイトをよくチェックしている。ニュースやデータ、すぐに役立つ知識がまとまっていて使いやすいからだ。しかし、そのシェア・いいね数はサイトのトップページで6万8700。トップ20位内のコンテンツのシェア数の半分にとどまっていた。このコンテンツがあまり知られていないことが残念だ。

報道が抱える問題とその対策 

冒頭に掲げたチャートビートのデータを見ればわかるように、すでにコロナに関する報道の量的なピークの第一段階は過ぎ去った。しかし、患者数は世界的に増え続け、日本でも緊急事態宣言解除後、再び増加に転じている。ワクチンや治療法が確立され、世界的に行き渡るまではその影響は続く。

どのような情報が支持されたのか、その理由は何かと共に、どのような報道が問題視され、その対策は何かを見つめ直しておく必要がある。後編では国内外の具体的な事例をもとにあるべき報道の形を探る。 

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ジャーナリスト / メディアコラボ代表 朝日新聞記者からBuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立。「Journalism for better X」を目指し、報道やメディアや社会課題を解決する活動をサポートしてます。

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