物語「ポストモダンガール」③

微量のコーラをグラスの中に入れるという無意味な動作をした後、私は部屋に戻った。

曲の進行状況を示す6段階の数字は5から6へと変わった。

ちょっと戻るのが早かったなと、後悔する。ずっとスマホを見ながら形容しがたい表情をする友人。

私は噛みしめる。ビリビリとむしゃくしゃに破り捨てたい衝動を我慢して。

頼む、早く終わってくれ。君はもう十分過ぎるほど、役目を果たした。もう無理する必要ないだろ。『雰囲気』を維持することが出来れば文句はないだろ!

手汗を強く握りしめた。この時私の顔は鬼の形相となっていただろう。

早く! 早く!終わって下さい!!!!ぬああああああ!

「78点」
彼女の「POISON」が終わった。

「ぷはぁ!」
私は実際、大きく息を吐き出しわけではないが、心の中のつっかえ棒は取れた気分になった。

しかし、次は私の番だ。さあ曲を入れてぐちゃぐちゃになったこの『環境』を直さねば。休憩することは許されない。選曲するパッドを取ろうとした瞬間、

「この曲、良いよねぇ」

うん…?

「さっきその曲、Wikipediaでちょっと調べててね。俺も次、反町隆史に挑戦しようかな」

友人のスマホにはWikipediaのページが光っている。

おっおう、おっおおおおお。


そういうことね。あーはいはい。わかったわかった。うんうん…いや、うん?



しばらく自分の中で問答した後、腹を決めた。やるしかない。男は選曲する。

その瞬間、彼も「ミュージシャン」の1人になった。

#エッセイ #小説 #ではない #日記





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