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映画すずめの戸締まりと私の戸締まり

【注意ネタバレあります】

なんだろう?
なぜだろう?

近しい人たちが観に行き、感動のコメントをしている。
映画アプリを観ても、2回3回観に行きたい、すでに観たという感想が多い。
低評価もあるが、私が目にしたのは一部だ。

だが。
映画鑑賞中も、終わった後も、
涙も出ないし、大きく心も動かない。
観ている時も観た後も、私の内側は無風状態なのだ。

東日本大震災が起こった時、大阪で暮らしていた私は、揺れも恐怖も不安も体感していない。近しい人たちの話、ニュースなどの情報から、心動くことはあったし、今もあるのだが、私の身体の中に、あの震災の記憶がないのだ。

そんな自分だから、この映画に対して心が動かなかったんかなあ。
そんなこと思いながら、ロビーに出て、見慣れた絵を見た。
なんや、『もののけ姫』思い出すシーン何回かあったなあ。
あれ、シシガミさまやんなあ。
もののけ姫は山犬やったけど、すずめの戸締まりは猫やな。

浮かぶのはそんな感想くらいだった。
だが、観た事を後悔はしていないし、
つまらなかったとも違う。
感想の言葉が出ないなあと思いながら帰宅。

そして夕方から熱を出した。

簡単に晩ごはんを作り、リビングで横になっていた。
本格的に寝ることに決めて、帰宅した息子と夫に晩ごはんを伝えて、着替えて寝室に行った。翌朝起きた時には熱も下がり、身体も軽くなっていた。

なんやろ。知慧熱やろか。

映画を観に行ったことや、感想が出てこない事をFBに投稿したら、友人がコメントをくれた。息子が土曜日渋谷の映画館で手に入れた新海本を読み、前日買ったパンフレット読んでいたら、友人がメッセージをくれた。そして、それぞれ感じたことを言葉にするキャッチボールがはじまった。

言葉のキャッチボールとパンフレットと新海誠本。
その日ゆっくりと反芻の時間に浸った。

そして突然、映画の奥が見え始めた。

最初にあったのは、「場所を悼む」物語にしたいということでした。
映画『すずめの戸締まり』パンフレットDIRECTOR   INRWEVIEWより

新海監督のインタビュー記事を読み、ぼんやりとしか見えていなかった映画の深いところが見えてきた。さらにパンフレットを読み進め、ある文章を読んだ時、自分の体験とこの映画が重なった。

文字どおり、場所を悼むというのは人ではなく場所自体を慰め、弔い、沈めるという発想だ。(中略)何かを起こして始める際には地鎮祭のような祭事がある一方、個人を見送る際に執り行われる葬式のような鎮魂の儀式が、土地や街に対してはなされない。
映画『すずめの戸締まり』パンフレットPRODUCTION NOTESより

映画の物語と、自分の体験が重なった。
私は4年前の実家終いを思い出した。

実家終いをしていたあの夏。家族が生きていた頃の場面が浮かび、声が遠くに聞こえた。たくさんのモノとそこにある思いを実家から全て出した。

泊まりに来た友人が、最後にお酒を撒くといいよと教えてくれて、家の敷地の四隅に近いところに、お酒を注いだ。

最後に今までありがとうと手を合わせた。

そうか。あれは『場所を悼む』鎮魂の儀式で、私の、生まれ育った家と家族を「お返しする」儀式やったんや。
私の『戸締まり』やったんやわ。

まさか4年前の実家終いと、この映画が繋がるとは思っていなかった。

パンフレット読んで、サントラ盤には映画本編では流れなかった歌があると知った。その1曲が『Tamaki』すずめの育ての親であり叔母、環さんの歌だった。Apple Musicで早速聴いてみた。頭の中でいくつかのシーンが思い出された。

環さんが心の中にあったどろっと黒いもの、言葉にして出してたよなぁ。
高校生にはアンバランスなキャラ弁、なんか違和感あったよなあ。

歌を聴いていると、またひとつ深く、映画の世界が見えた。

「キャラ弁じゃないのにしてよ」
「弁当は自分で詰めてね」

そんな会話を交わしていない二人の関係とあのキャラ弁と違和感が繋がった。

最後までこの歌を聴いて、映画には描き切れなかった環さんの思いと日々が見えた。嫌いも好きも、愛も憎しみも全部込められた歌だった。そして、それでもすずめちゃんと暮らした日々は彼女にとって光なんだと納得できた。

映画を観た後、パンフレットや新海誠本、サントラ盤といろんな言葉に触れ、いろんなことを考え、自分の体験と重なり、友人と映画から派生して出てきた思いや考えを交わし合えた。その全てが、映画を観なければ体感できない、味わえないことだった。

その全てがとんでもなく貴重なものだった。

この映画、凄くないか⁈

友人とのチャットの終わりに、

やっぱ新海誠監督、天才やわ。

と私は呟いた。

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美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。