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救急病院のレッドゾーンへ入った息子をクールゾーンで待ちながら、コロナについて考えた。


あーさん、お腹が痛い。
月曜日の晩から、お腹痛くて続けて寝られへんねん。
救急病院で診てくれへんかな。

先週月曜日から高熱と腹痛で寝込んでいた息子。高熱は2日で下がったが腹痛と下痢が続いた。そして3日目、私の誕生日の夜に、「あーさん、めっちゃ痛い」と言い出した。

診察してもらってお薬もらっているなら、とりあえず今夜は家で寝て、明日の朝またお医者さんに診てもらってください。

しか言われへんと思うで。息子にそう言いながらも、本人を納得させるために、夜間医療相談なるものに電話をしてみた。

3日間の経緯と今の状態を説明したら、相談員が予想外の回答を出した。

お母さん、救急車呼びましょ。この電話でそのままお繋ぎできますよ。

えー! 息子が小さい頃お腹痛い言うてますって電話しても、そんなん言われた事ないやん。と、思いながらも、そのまま救急へ繋いでもらった。再度説明を繰り返し、住所を伝えると「5分で到着します」と言われた。

初めて喋った言葉が、「ちゅーちゅーしゃっ」初めて買ったトミカが救急車であるくらい、小さい頃救急車大好きだった息子は、そんなことを忘れた19歳で初めて救急車に乗車することになった。

息子を起こして、財布の中に1万円札が1枚あるのを確認。念のためクレジットカードも持ち、小さいボトルにお水を入れて、息子のフリースジャケット出していたら、遠くにサイレン音が聞こえた。はや! と夫と言いながら、マスクをつけて息子と玄関を出た。マンションの階段を半分ほど降りたら、救急隊員さんがおられ、名前を告げて救急車に乗った。「先にお話を伺います」と言われた救急隊員さんが、毎年味噌仕込みでお世話になる糀屋さんに似ていた。職人さんで、真摯に仕事をし、お客さんにいつも優しい。彼に似ているというだけで、標準的な質問や説明をされているとわかっていても、

きっとこの人はいい人に違いない。
そんで、仕事が丁寧で、めっちゃできる人。

と私の中で勝手に救急隊員さんの評価が爆上がりした。

エンジン切った救急車の中で、家族や身近な人に、新型コロナ感染者はいないか、感染者と接触したことはなかったかなど、息子の容態の前にコロナ関連の質問を受けた。全てに「いいえ」で答え、隊員さんが息子の容態を確認。搬送が決まった。「〇〇病院に搬送しますね」と初めて聞く病院に連絡をとってくれて、受け入れが決まり出発。マンションから5分ほどで到着した。救急車から降りて、「今はやっぱり非常時なんや」と思った。テレビでよくみた新型コロナウィルス検査用の白いテントが目の前にあったからだ。

いろんな意味での『クールゾーン』で待機


白いテントの横には、折り畳み式パイプ椅子が並んでいた。

お母さん、ここでお待ちください。

救急隊員さんに言われ、パイプ椅子に座る。壁には「こちらクールゾーン。これより先はレッドゾーン」と書いた張り紙があった。そういえば、コロナウィルス患者を受け入れる病院はゾーン分けしてるっていうてたなあと思い出した。冷たい雨が降り風が冷たいこのゾーンは、

『クールゾーン』やなくて『コールドゾーン」やね

と、ベタベタなおもんないことを考えていた。

お母さん、保険証お持ちですか?

息子が送り込まれたレッドゾーンから看護師さんが出てきた。保険証を渡し、またクールゾーンで待つ。え、私、ずっとここ? 息子に続き私も体調悪くなりそうな感じがしてきた。「私たち、これで失礼します」と救急車でご一緒していた隊員さんたちが帰っていかれ、ありがとうございましたと言いながら頭を下げた。

お母さん、寒いからこっち入ってください。

さっきの看護師さんに言われ、私もレッドゾーンに入った。レッドなので少し温かい(そういう意味ではない)。だが、換気がいいので、外気が吹き抜ける。息子が運ばれたのはさらに自動扉もひとつ向こう側だった。

そうそう、お母さんが付き添ってこられてるの。〇〇先生に確認したから大丈夫よ。

看護師さんが電話で話しているのが聞こえた。私をレッドゾーンに入れたけど大丈夫かという確認らしい。いろんな意味でのクールゾーンに放置される方が大丈夫ちゃうわ、と心の中で思っていた

お母さん、おうちの方、迎えにきてくれるのかしら?

看護師さんに聞かれた。うちは車を持っていないので帰るときはタクシーを呼ぼうと思っている、と答えると、

うーん。あのね、息子さん、新型コロナウィルスの検査もしてるのね。

なるほど。息子が陽性だった場合、私は濃厚接触者だ。そりゃ、タクシー乗ったらあかんよな。

ご主人は、息子さんのお父さんではないのかしら?

保険証に記載されている夫の名字と息子のそれが違うので、看護師さんが聞かれた。

息子は前の夫と私の子どもです。

じゃ、お父さんは?

大阪におります。

今一緒に暮らしているのは?

私の夫と息子と3人です。

まあ、ややこしいわね。

いや、その質問とあんたの個人的感想、今、要る?

心の中で速攻つっこんでしまった。「それ要る?」と言いそうになったが、いろんな意味でのクールゾーンから、外気はバリバリ入ってくるがちょっとマシなレッドゾーンに入れてくれたのはこのおばちゃん看護師さんだったので、私は全く不要な恩義を感じ、ちっちゃくため息つきながらツッコミは飲みこんだ。

Googleマップで調べた病院の位置は、うちのマンションから歩いて30分だった。冷たい雨の中、歩くのかあ。息子が陽性やったら、一晩ここに私も泊まるんかなあ。息子の腹痛よりもコロナ検査の結果が気になってきた。

1時間ほど待っただろうか。息子のコロナ検査の結果が出た。

マイナスだった。
同時に調べた血液検査も、異常なしだった。

私より小柄で私よりうんと若い、ドラマ『コウノドリ』で星野源が演じていた医師くらい愛想の悪い当直医が、息子の容態を説明してくれた。大腸が炎症を起こしていること、大腸というのは体のどこを通っていて、どのあたりが痛んでいるかということを、自分の体を指しながらわかりやすく教えてくれた。愛想は悪いがいいお医者さんかもしれない。コウノドリの星野源と一緒だな、などと関係ないことを考えていた。

ようやく私は新型コロナウィルスの疑いのある救急患者家族から
胃腸炎で搬送された患者さんの家族となり、治療室奥の待合室に通された。あったかい。クールゾーンより、換気の良いレッドゾーンよりあったかい。

「僕はこれで当直終わりますが、次の医師に引き継いでおきますので」とコウノドリの星野源に言われた。ツッコミどころもあったが、気のいいおばちゃんだった看護師さんも、私服にマスク姿で待合室に来られた。

私、これで交代しますけど、引き継いでおきますからね。

ありがとうございますとお礼を言った。私より年上と思っていた看護師さんは、私より若そうだった。おばちゃん言うて、ごめん。

深夜1時。流石に疲れた。うたた寝していたら、当直医に呼ばれた。ここでやっとベッドに横たわる息子のそばに行けた。自宅のベッドで痛いと主張し救急病院に連れて行ってくれと言っても、「大丈夫やって」と私に言われていた息子は、自分を「大丈夫」と扱わない救急隊員と病院の対応、医師の診察、そして点滴でようやく安心したようだった。次の当直医は、ドラマ『コウノドリ』の救命救急医に似ていた。それだけで、しっかりして頼り甲斐あると見える。しっかりしてると思った当直医は、わかりやすくざっと説明をして「点滴終わったら帰っていいですよ」と待ち望んだ一言をいってくれた。息子と私のゴールが見えた。

それから長い30分。うたた寝から起きた時、待合室の扉が開いた。息子の横に行くと、点滴は外されていた。受付で会計済ませて帰ってくださいと言われ、お礼を言って会計へ。

「今日はお支払いはありません。コロナ検査が公費になるので、請求書は改めて郵送します。届いたらコンビニで払ってください」

いろんな意味で一安心。病院の外へ出た。タクシーが2台止まっていて、運転手さんが二人雑談していた。「すんません、乗せてもらえますか」と聞くと、「悪いね、私は予約受けてるんで」と言われたが、もう一人の運転手さんが「職員さん乗せて帰るんだけど、ちょっと待ってもらうわ」と、内線電話をかけにいかれた。ありがたい。こうしてタクシーに乗り、家に着いたのは2時前だった。

救急車とクールゾーン、そしてレッドゾーンで考えたこと。


息子を病院や救急病院に連れていったことは今まで何十回もあり、入院もしたことがある。だが、今回のように厳しく重たく対応されたことは初めてだった。

息子がコロナ陽性である可能性がある、かもしれない。

救急車の中で、搬送された病院で、陰性判定が出ない限りは陽性の可能性ありという対応をされて、私はどこかで見かけた言葉を思い出した。

コロナウィルスは人を選ばない。年齢、性別、国籍、職業、主義思想に関係なく、感染し(場合により)発症する。

そうなのだ。

「コロナはただの風邪」言う人も、「マスクなんて意味ないよ」とSNSに投稿する人も、マスク着用拒否して飛行機から降ろされた人も、みんな感染の可能性にさらされながら生きているのだ。

温かい待合室のなかで、救急車からクールゾーン、レッドゾーンで見たこと、感じたことを思い返して、私はコロナに対する考え方が変わった。

コロナって風邪じゃないよな。
マスクなんて意味ないとか、これからは言わん。

ウィルスの感染が常に隣にあるなかで、胃腸炎の息子を夜中に病院まで運んでくれ、治療してくれる人たちに、ほんまに感謝の気持ちが溢れてきた。これから冬になり、コロナだけでなく、インフルエンザも流行る時期になるけれど、医療のお世話にならんようにしとかんとな、と思った。

自分と家族の体調をよくみる。
ちょっとおかしいなと思ったら休む。
外出する時はマスクをする。

帰ったら手洗い、うがい。
ごはんに味噌汁の食事で、夜は早く寝る。

自分と家族の健康は、電車で隣に座った人、街ですれ違った人、スーバーで前に並ぶ人、免疫力の低い小さな子や高齢者、その家族、誰かの『無事』にもつながるのかもしれんよな。この夜お世話になった医療関係者さんたちを思い出し、その向こうにいるご家族のことも想像しながら、そんなことを思っていた。

あの夜から3日過ぎた昨日。息子朝起きてつぶやいた。

華正樓の五目焼きそばと肉まんが食べたい。

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あと大阪梅田の揚子江ラーメン。

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救急隊員さん、当直の先生、看護師さん、オンライン診療してくれた近所のお医者さん。ありがとうございました。息子、治りました。皆様もどうぞ、お身体気をつけて。

美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。