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一般人は資産防衛より生活防衛を

コロナと戦争による経済的不安の増大

 ロシアとウクライナの戦争が始まり、ただでさえコロナウイルスによるサプライチェーンの寸断などで傷ついていた世界経済にさらなる試練が訪れた。

 ロシアには戦争を引き起こしたことに対して西側諸国が様々な制裁を課した。ロシアとの貿易禁止や、SWIFTからの排除などである。だがこれらはロシアがダメージを負うだけではなく、それらに依存していた世界各国の経済事情をも悪化させる諸刃の剣だ。

 ロシアは世界有数の穀物と肥料の輸出国である。特に同国からの食料輸入に依存していた中東やアフリカ諸国で食糧危機の発生が懸念されている。中東は石油を始めとする資源を産出している地域であり、もしそこで社会不安が増大すれば、今でさえ値段が高騰している資源価格がこれまで以上に高くなるのは間違いないだろう。またロシアは穀物以外にも様々なものを輸出している。ネオンなどの半導体の原料や、天然ガスなどの資源も外国に売っており様々な方面への飛び火が懸念される。

 戦争をふっかけられたウクライナもロシアと同様穀物の輸出国だが、こちらの状況も芳しくない。戦争によって耕作地が荒らされたり、労働力が兵士として駆り出されたことで穀物の作付けが滞っている。ウクライナ政府は国民の食料確保などを目的として、先月上旬から小麦などを海外に出すことを禁じた。また国際連合食糧農業機関(FAO)が各国に提供する穀物の半分はウクライナから調達していたと言われるので、世界の貧困層への影響も甚大なものになるおそれがある。ウクライナはロシアとならぶネオンの主要な生産地域でもある上、生産工場が戦場になっている東部に集中しているのも世界経済にとってマイナスである。

資源高騰と食料高騰、円安によるトリプルパンチを食らう日本

 これらの事態は日本にとっても他人事ではない。資源についてはわかりやすいだろう。上で書いた通り中東が不安定化すれば、原油などの産出量に影響することはすぐに了解されると思う。もともと中東は独裁者だの内戦だので不安定な地域だった。それに拍車がかかるのだから原油価格などに影響を与えないはずがない。御存知の通り日本はエネルギー資源(原油)の大部分を中東地域に依存しているので、その影響をもろに食らう可能性が高い。

 また食料であるが、これも日本は大半を輸入に依存している。直接ロシアやウクライナから買い付けているわけではないが、両国に穀物を依存していた国々が不足分を補うため、日本の主要な調達先である北米やオーストラリアの市場に押し寄せ、品不足になり値段が上がる可能性がある。

と言うか既に資源も食料も少し前から値上がりしており、もうそこかしこに負の影響が及んでいる状態である。この危うい事態は暫くの間悪化することはあっても沈静化することはないだろう。仮に戦争が終わってもすぐにロシアに対する制裁が解除されるとは思えないし、ウクライナの荒された農地や工場が速やかに復活することも考えがたいからだ。

 そして日本には輸入物資高騰のもう一つの理由が存在している。それは円安である。なぜ今円安が進んでいるのか? それは日本銀行が金利を上げることができないからである。いま世界各国は、コロナ対策としてばらまいた大量のカネによって引き起こされつつあるインフレに苦しんでいる。インフレを落ち着ける方策として中銀による利上げがある。利上げの効果は簡単に言うと、金利を上げればお金が借りにくくなるので世の中に出回るお金の量が減り、そうすればインフレも収まるだろうと言うことだ。だがそうなると金利が低い国は不利になる。なぜかというと、投資家は金利がつかない国の通貨を持っていても儲からないので、その国の通貨を売り他国の通貨に変えようとするからだ。今日本を襲っている円安とそれに伴う物価高はまさその理由による。日銀が長年取り続けてきた低金利政策を未だに転換しないがため、金利が上がっている他国の通貨に円を変える動きが顕著になっているのである(投機筋による「操作」もあるかもしれないが)。

金利を上げられない日銀とそのワケ

 ではなぜ日銀は未だに低金利政策を改め利上げに踏み切れないのか? それはいくつかの理由がある。

1)政府の利払い費が膨大になる

 日本は長年にわたり国債を刷りまくってきた。そのせいで今や1300兆円にもなる莫大な借金を抱えるに至った。GDP比では250%以上なり、これは第2次世界大戦中、戦費の調達のために後先考えず国債を増刷したときの水準を上回っている。借りたカネは利子を付けて返済する必要があり、元本が膨大な故に利払いも大変な額になる。もしこの利率が跳ね上がったらどうなるのかは言わなくてもわかるだろう。日銀の利上げはこの政府債務の利払い費を直撃してしまう。

2)日銀の保有する国債価値が下がり、債務超過に陥る可能性がある

 日銀が持っている資産の大部分は日本国債である。国債の価値と金利は反比例する。つまり国債の値段が上がると利子が下がり、逆に国債の値段が下がると利子が上がるのである。金利を上げてしまうとそれに連動して国債の金利もあがる。国債の金利が上がるということは、国債の時価が下がる。すると日銀は所有する資産より負債が上回る債務超過に陥る可能性が出てくる。もしそうなった場合、信用不安により円が暴落する危険性があり国民生活に多大な影響を与えるだろう。

3)当座預金に対する利払い(支出)が収入を上回ってしまう

 日本銀行は政府の銀行という役割の他のもう一つ、銀行の銀行という役割を持っている。詳しい説明は省くが、日銀には民間銀行が資金を預ける(貸す)当座預金口座があるのだが、そこには一般人が銀行にカネを預けたときと同様金利の支払いが発生する。もしその当座預金に対する利払い(支出)が日本国債などから得られる金利収入を上回ってしまった場合、収支面でもマイナスになってしまう。少し前のデータになるが、日銀が保有している国債の平均利回りは0.23%程度(うろ覚えなので微妙に間違っているかもしれない)。現在の利子率もだいたい同程度。つまり現在の金利は、日銀のキャッシュフローが赤字になるかならないかのギリギリラインまで迫っていることになる。ちょっとでも上げたらアウト、という危うい水準である。

 このような理由により日銀は円安が進んでも金利を上げたくても上げられないのである。上で書いたように、日本の金利水準が投資家達によって魅力的でないと判断されれば円は売られる。だが日銀は金利を上げるに上げられない。となれば今後も物価の高騰は止まらないと言うことだ。現在1米ドルは120円台前半で取引されている。わずか一年前は100円台前半だったことを考えると、円の価値は短期間で20%も下がったことになる。つまり輸入品の値段が2割上がるということだ(国際貿易は主に米ドルで行われるので、円が対ドルで下落するのは、輸入品の値段が上がるとこととほぼ等価である)。そこに、上に書いた戦争の影響が加わる。泣きっ面に蜂とはまさにこのことである。

庶民に出来る対策は?

 我々庶民にはしばらく辛い時代が続くとわかってもらえたところで、どうすればその苦しみから少しでも逃れられるのか、という本題に入りたい。巷ではよく「今のうちに円をインフレに強い資産に変えておこう」という旨の主張がなされる。確かにそれは間違ってはいない。株式や貴金属・不動産など、物価が上がったときに連動して価格が上昇する可能性の高いものに円資産を変換しておくのは有効な資産防衛手段だと言える。だが多くの一般人にとって現実的だろうか? というのも、ほとんどの一般家庭が持つ預貯金など、多くてもせいぜい数百万円程度だろう。すっからかんに近い世帯も珍しくない。大半の庶民は、大げさなことをしなければならないほどの蓄えを所有していない。だが何もしないのは明らかに賢明ではない。いざとなってから慌てても遅いからだ。ではどういう部分になけなしのお金を使っておくべきなのか? 庶民がお金をつぎ込むべきは資産防衛ではなく、直接生活を守る行為だ。考えて見てほしい。資産防衛とは何のためにするのだろうか。それは日々の暮らしを守るためだ。資産防衛は生活防衛の手段に過ぎない。ではどういう行為が生活防衛になるのか? 私が思いついた限りでは以下のうようなものがある。

1)水や食料などの日用品備蓄

 水や長期保存するための缶詰・レトルト食品を始めとする食べ物。石鹸やシャンプー、洗剤、歯磨き粉。様々な種類の薬。服、下着、靴下。こういったものを予め買い込んでおこう。これらはインフレ対策としてでだけでなく、地震などの自然災害に巻き込まれたときのための非常用品にもなりうる。持っていないならぜひ今のうちに揃えておこう。

2)古くなった耐久消費財の買い替え

 10年以上使っている耐久消費財を、今のうちに新しいものへと更新しておこう。耐久財の多くはそれなりに値が張る。なので今後インフレ傾向が更に進んだ場合は手が出せなくなる可能性がある。特に冷蔵庫やエアコンなどがないと、場合によっては命の危険すらある。それに古い電化製品のたぐいは新しいものと比べると消費電力が多いので、電気代というランニングコストを減らす上でも効果的だと思われる。資源高と通貨安からくる電気料金の値上げを考えると特に、だ。

3)家の修繕など大掛かりなこと

 これは主に家屋や土地を持っている人への提案になるが、もし家に修繕しなければならない箇所があるなら今のうちに済ませてしまおう。フローリングが剥がれた。風呂やトイレなどのカビがひどい。水道管が錆びて茶色っぽい水が出る。雨漏りがする。自分の家にそういうところはないだろうか。必ずしも全ての劣化を修復する必要はないが、いざ大変な世の中になった場合、生活の妨げになるような部分があるなら今のうちに直しておこう。

 庭にある枯れた老木を放置したままにしていないだろうか。経済危機のさなか地震が起こり倒れ家を直撃して壊れた、などということになったら面倒になる。ゆとりがあるなら余計なものは除去しておこう。

4)健康

 健やかであることは全ての基である。経済的な危機に見舞われても、健康を保っていれば働くこともでき収入を得られる。が、健康を損ねてしまえば収入を得られなくなるだけはなく、治療費や薬代など余計な支出をしなければならないハメになる。なので今のうちに悪いところがあるなら病院に行って治療しておくことをおすすめする。また飲酒や喫煙など、健康を損ねる生活習慣があるなら是正しておこう。これは節約にもなるので一石二鳥である。

5)人間関係の増強

 自分が困ったとき最後に助けてくれるのは他の人間である。親類縁者にいざとなったら手を差し伸べてくれそうな人はいるだろうか。例えば農業などの第一次産業に従事している知り合いや親戚がいるなら、彼らとの関係を今のうちに強化しておこう。そうすれば万が一食糧にこまるような世の中になっても、最低限食っていくものくらいは確保できる可能性がある。

 友人や近所の人達と親しく交わってきただろうか。彼らが特にこれと言って取り柄のない普通の人であったとしても、常日頃から良くしておけば思いもよらぬ形でお返しをしてもらえるかもしれない。

6)ほしかったものを買い、行きたかったところに行く

これは備えとは言えないが、今のうち後悔が無いように、ずっと欲しかったものを購入したり行きたいと思っていたところに旅に行くのもアリだ。いざ世の中が大変な事になったとき「やりたいことはもうやっておいたから」と前向きに考えられるのと「あのときあれをしておけばよかった、これを買っておけばよかった」とすでに叶わなくなってしまった願望をくよくよ思い煩っているのとでは色々な面で違いが出てくるかもしれない。あなたに「絶対にこれだけはやっておきたい。買っておきたい」と思うものはないだろうか。あるのなら今のうちに欲求を叶えてしまおう。

 上に上げたことは、不動産を買ったりするのに比べれば遥かに一般的で、実行するにあたって抵抗感も薄いだろう。既に述べたが資産防衛はある程度の資産がある人でないと実行しづらい。焦って株などの取引に手を出せば、資産防衛どころか返ってお金を減らす可能性すらある。別に「株を買うな」と言っているわけではない。実際私自身も前はとある株を持っていたし、現在でも貴金属の現物を手元に置くなどちょっとした資産防衛策を講じている。だがそういった分野に慣れていない人や興味のない人、能力(資金)自体がない人まで無理に行う必要はないと言いたいのだ。

 庶民には庶民なりの苦境の乗り越え方がある。背伸びをせず、一般的な範囲内で対策を取るのが無難なのではないかと考える次第である。

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