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小さな神社

寒さも和らぎ、風が心地よい。
ぼくは外に出て思いっきり背伸びをする。
空を見ると、すっかり春の色だ。
そのまま深呼吸。
とても幸せな気分になる。

ここはとある小さな神社。
ぼくは人間の姿で暮らしている狛犬。
狛犬だから名前はコマ。

ぼくは神社の裏に植えてある梅の木を見に行く。
もう、淡いピンクの花が咲いている。
その隣に、一人の少女がいた。
「あ、コマ兄」
彼女は美子。
ここに迷い込んで来て、人間の体をつくってもらった幽霊の少女だ。
ぼくの妹ということでこの神社で一緒に暮らしている。
「梅の花を見ていたの?」
「うん、それにね、周りにたくさん花が咲いているんだよ」
見回すと、オオイヌノフグリがたくさん咲いてる。
葉の緑と花の青で大地が彩られている。
「あぁ、きれいだね」
ぼくたちは一緒に境内を歩いた。
少しずつ、世界が春になっていくのがわかる。

「あら、二人とも何をしてるの?」
神社の中から女神様が出てきた。
「えっとねぇ…春探し」
美子が答える。
「あら、すてき」
そう言うと女神様もぼくたちの春探しに参加した。

女神様は、文字通りこの神社の神様だ。
人間の体をつくり、人間として生活している。
料理と読書と季節を感じることが好きな、優しい方だ。
近所の方には、ぼくたちのお母さんということになっている。

「あら、オオイヌノフグリね、青くてきれい」
「ホトケノザもあるよ」
「本当だね、よく見つけたね」
「ん…ホトケノザ?」
二人はぼくの顔を見る。
「どうしたの?」
「いや…神社にホトケノザが咲いていていいものかと…」
女神様が笑う。
「それ、私気にしないからね」
美子も笑った。
「毎年言ってるよ」
「そ…そうだっけ?」
ぼくも笑う。

生まれも育ちも全然違う。
でも、ぼくたちは確かに一緒にいる。
一つの家族として。
だから一緒に笑ったり、季節を感じたりできるのだ。

「さぁ、中に入りましょう」
女神様が言う。
「姫たけのこの天ぷらを作ったの」
とても嬉しそうだ。
そしてぼくも喜ぶ。
「30本くらいありますか?」
「うぅーん…一人4〜5本くらいね」
美子は少し考えて聞いた。
「姫たけのこってどんなの?」
ぼくは即答する。
「美味しいヤツ」
「コマ兄は何でも美味しいって言うでしょ」
美子は言った。
女神様は少し考えて、まぁ、食べてみて、と言った。
「去年は喜んでたよ」
それを聞いて美子は安心したようだ。

こうやって、ぼくたちの日常が流れていく。
楽しく、温かい日々が。
明日もみんなで幸せに過ごせればいい。
ぼくはふと振り向いて夕日を見ながらそう思うのだった。

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