その6

『妹の日記』 佐波長太郎

その5で感想を書いた『秘密の遊び』と若干近い設定だと感じました。
というのも『秘密の遊び』では幼馴染同士が話の軸で、
この『妹の日記』は兄妹が話の軸です。
幼馴染は他人なので、兄妹の親しすぎる関係と比べるのは穿った見方と取ることも出来ますが、
この短編集は『脳破壊☆NTR小説集』という敢えてインモラルな作品を集めているので、倫理において尖った表現は字義通りに取ることが出来ません。

『秘密の遊び』ならば、幼馴染という関係性で家族以上の親しさを維持しつつ、恋人のような振る舞いまで重ね合わせているという作品の匂いを確実に峻別すべきです。

『妹の日記』ならば兄妹という家族関係でありながら、その親しさを恋人的な親密さまで進めてしまっているという点に社会的に見てもインモラルと取られるというところも踏まえるべきです。
逆に言うと家族だからある程度の親密さはあってもおかしくない。しかしこの二人は一線を踏み込めている。その踏み越えはどうあっても覆すことが出来ない。

『秘密の遊び』の幼馴染の関係だと、ある程度の年令に達したときに法結婚してしまえば、それ以前の過去のことは有耶無耶にできるという、うっちゃれる可能性を保持している。

似て非なるものである二作品が並んでいたのだった。

『妹の日記』で非常にオリジナリティを感じるのはアンダーヘアーに対するこだわりだ。
生え方に上品や下品を感じているし、バロック調とか宮廷風とかがあるかのような書き方をしている。
没落貴族のような修飾過多なアンダーヘアとは何なのだろう。
非常にユニークな視点だ。

80年代前半のラジオで聞いたことがあるのだけれど、都内にはアンダーヘアーの美容室があるという話をしていた。B級ニュースの番組だけど至って真面目に話されていた。
その頃にはビキニとかハイレグの水着もあったから、ムダ毛を剃ったり揃えるなどの処理をするのは確かにあった。見栄えの良い残し方というのはあった。「あった」だけでヘアに無頓着な人のほうが多数派であったことは書いておくべきだろう。

閑話休題。
妹のヘアの生え方を論評するというのも突き抜けたものだ。
尻周りの毛にも言及したらいい争いになって結果尻でもすることになったがそれは良かったという、締りの話にスライドしたかと思えば。

そこから見える膣壁の美麗さを褒めるという変態&変態&ド変態兄の嗜癖に留まるところはなかった。

妹に日記を読まれてることに気づいたかのように、兄は妹のヘアを褒めることを始め、舜帝の治世の如き肥沃な大地等と言い始める。おそらく毛深く面積も広いのだろう。

兄妹は親しすぎる関係と、互いの日記を盗み見る関係という、後ろ暗さをに毎重ねにしている。
そして兄にも彼女が居て、妹にも彼氏がいる。
妹は高校の卒業とともに彼氏に振られるが突然の剃毛に関する彼氏の落胆があったのかも知れない。そんなことは関係なく振られる運命だったのかも知れない。

兄妹の奇妙なこだわりと、インモラルな関係を淡々と日記に刻み続ける不思議な時間を過ごすことになる。
各々が独自の倫理観に則って行動している。それはメッセージだ。
社会に対しても、一人一人の対人にとっても意見を発している。
上品でも下品でもいいけれど、怠けてはいけない。
自分を常に発することが大事。誰かに従う気がないから独自の行動を貫く。
貫くなら貫き通すしか無い。家族だろうが他人だろうが、という話になる。
果たして彼らはどこに行くのか。
まさに文芸である。
鮮やかなものだ。

そういうことでいいですよね。僕はそれでいいと思うのです。
だから楽しい。
もし取り返しがつかなくなったら、取り返しが着くまで退歩するか、
そのまま突き進んで何かを掴み取るか。
これも続編を期待したいですね。


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