P.S. 酒飲みのパラドックスへ

「【酒飲みのパラドックス】 バーに飲んでないやつはいないらしい【論理学】」のおまけ記事です。
このパラドックスについての補足をタラタラ書いた記事ですので、まだの方は先にこちらをお読みいただけるとより楽しめると思います。




人類も滅ぶらしい

このパラドックスの別バーションをご紹介します。

地球上には、不妊になったら人類全体が滅んでしまうような女性がいる。

Drinker paradox (Wikipedia) を日本語訳したもの

Google翻訳ですが、これは成立していますね。
日本語にするなら、こっちの方が美しいかも。

パラドックスな部分は全く同様ですので、こちらの正しさは皆様自身で証明してみてください。



致命的誤訳

前回の補足として、「訳」の話をさせてください。

というのも、このパラドックスを適切に日本語訳したものがどこにもなかったのです。
わざわざ私が訳したのはこのためです。

試しに原文を、Google翻訳とDeepL翻訳にかけてみましょう。

「パブに誰かがいて、その人が飲んでいると、パブにいる全員が飲んでいるのです。」

Google翻訳

"パブには誰かがいて、その人が飲んでいれば、パブにいる全員が飲んでいる"。

DeepL翻訳

ほぼ同じですね。
実際、「酒飲みのパラドックス」と日本語で調べると、こんなような文章が出てきます。


これは普通に間違ってるやろ


というのも、問題なのはこの部分です。

「パブに誰かがいて、その人が飲んでいると、パブにいる全員が飲んでいるのです。」

「その人が」←この部分!
原文とこの文章を見比べれば、確かにこの訳はそんなに不自然ではありません。
しかしこれだと!パラドックスが起きないんですよ!!!

なぜなら、いわゆる英語で言うところの「非制限用法」のような訳し方になっているからです。
(あってる……?英語不安……)

このため、私の訳では「ある人は」と書きました。
(あとパブはあんま馴染みがなかったので、勝手にバーにしました)

見比べてみると、

・バーにいるある人は……
   ↳「ある人」ってどんな人だろう?この後教えてくれるのかな。
・パブに誰かがいて、その人が……
   ↳今から「その人」についての話をするんだな。

という違いがあるわけです。

つまり、「その人が」の時点で1人に固定してしまっているのがまずい!

私の解説では、飲んでいない人がいる場合、「 X(人間) 」「飲んでいない人」でなければいけませんでした。
しかし、「その人が」と先に固定してしまうと、この時点で「その人」「飲んでいる人」である可能性があるのです。


……わかります?この違い……

(ややこしいのは、この誤訳は「この文を一見したときの間違った解釈の一つ」と完全に一致しているということです)


この機械翻訳をされた文章が常に正しいとするならば、下の文章と書き換えられます。

パブに誰かがいて、その誰を選んだとしても「その人が飲んでいると、パブにいる全員が飲んでいる」のです。

前回のパラドックスの証明からしても、この文章は常に正しいとは言えなそうです。
(飲んでいる人もいない人もいる場合、常に間違いとなる)
(わかる人向けに書くと「 ∀x ∈ P [ D(x) → ∀y ∈ P [D(y)] ] 」)


(※今から、言語学はもっとド素人な人間が適当を言います)
この誤訳が起きるのは、日本語で後置的に制限するような文法がほとんどないからだと思われます。
「〜な人」「人→〜な」の順番になるように訳すには、
「ある人が、〜なんだよね」という形くらいしか思いつきませんでした。

初めは前置的に訳そうとしたのですが、

・バーに誰かがいて、飲んでいるならバーにいる全員が飲んでいるような人がいるよ
・バーに誰かがいて、「その人が飲んでいるならバーにいる全員が飲んでいる」ような人がいるよ

のようになり、まぁ多分意味は通っているけれど、ややぎごちないのと、パラドックスとしての面白みに欠けるというので、結局今の形になりました。
まぁ……英語苦手なやつがやったにしてはいい方なんじゃないかな……。


もっとパラドックスとして美しい和訳があれば、ぜひ教えてください。


にほんごで あそぼ

バーにいるある人、もし酒を飲んでいるならバーにいる全員が酒を飲んでいるよ

これは、私が訳した文の「は」「が」に変えたものです。
少々ぎこちなさは出るものの、同様に成立してはいますよね。

バーにいるある人もし酒を飲んでいるならバーにいる全員が酒を飲んでいるよ

そしてこれは、さらに読点の位置を変えたものです。
これはどうでしょうか


実はこれは間違いなのです。


なぜならこの文は、

もしバーに酒を飲んでいる人がいるなら、バーにいる全員が酒を飲んでいるよ

というふうな意味合いになってしまうからです。
(これは前回の記事の最後に書いた「モヤモヤ」の一つ目と全く同じです)
(わかる人向けに書くと、「 ∃x ∈ P [D(x)] → ∀y ∈ P [D(y)] 」)


不思議なのは、「は」のまま読点を移動した、

バーにいるある人もし酒を飲んでいるならバーにいる全員が酒を飲んでいるよ

では文章は正しいままだということです。


なんで………………?


この問題は深入りすると帰って来れなくなりそうなのでここら辺で止めておきますが、
ともかく、素人ながら、「論理学」と「言語学」の関係性は面白いものだな〜などと思いました。


めざせ論理マスター

ここからはマジのおまけです。
これが最後の章なので、興味がない方はここでお別れでも大丈夫です。

が、せっかくここまできたのですから、「ネタバレ」の章で出てきたこの式、

∃x ∈ P [ D(x) → ∀y ∈ P [D(y)] ]
(Dは任意の命題関数、Pは任意の空でない集合)

この意味、理解したくないですか?
大丈夫、ここまできた皆さんなら、大して難しいことはありません!
れっつチャレンジ!!!


(間違いがあったらご指摘ください)

1. 「酒を飲んでいる」

xが酒を飲んでいるとき、
D(x) = ◯
と表すことにします。

つまり、
xが酒を飲んでいないとき、
D(x) = ×(バツ)
と表します。

(Dはdrinking(飲酒)の頭文字です)

このような真偽(◯×)を返す関数を、「命題関数」などと呼びます。

2. 「ならば」

「AならばB」は、
A⇒B
と表します。

つまり、「ならば」の章の表は、
◯⇒◯  :  正しい
◯⇒×    :  間違い
×⇒◯    :  正しい
×⇒×      :  正しい

というふうに表せます。

3. 「いる」「全ての」

〜(条件)を満たすxがパブ(この記事ではバー)にいることは、
∃x ∈ P [〜(条件)]
と表します。

パブにいる全てのyが〜(条件)を満たすことは、
∀y ∈ P [〜(条件)]
と表します。

(Pはpubの頭文字です)



ということで、晴れてこのパラドックスを数式にすることに成功しました!
文章と共に並べておきますね。

バーにいるある人は、もし酒を飲んでいるならバーにいる全員が酒を飲んでいるよ

∃x ∈ P [ D(x) → ∀y ∈ P [D(y)] ]
(Dは任意の命題関数、Pは任意の空でない集合)

出てきた記号は4パターンだけ!がんばれ!見比べ!読み取れ!!!


これで君も、論理マスターだ!!!

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