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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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#海

夜明けまで(6)

 目の前に置かれた黄色い楕円形から、バターの香りがする。それを囲む丸い線は、皿だった。も…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(5)

「沙耶香」  今度は沙耶香の意識に入り込んだらしい。先ほどより驚くことはなかったが、それ…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(4)

「私は愚者だ」  ピアニッシモの明かりは消えた。真っ暗な世界で聞こえるのは、いつも穏やか…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(3)

 深夜に浮かぶ煙は姿を見せない。ただ、忌々しい匂いだけが夜風に吹かれて漂っている。 「孤…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(2)

 私は男である。しかし、女でもある。ただ、トランスジェンダーではない。だから正直なところ…

蒼乃真澄
1年前
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夜明けまで(1)

 どうしても死にたいときはある。  それは彼女に振られたとき、そして彼に捨てられたとき。…

蒼乃真澄
1年前
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『日常的ランドスケープ』(6畳部屋の片隅にて) (2000字のドラマ応募作品)

 わたし、彩りがある景色って、当たり前の光景だと思ってた。だけど違うんだね。輝く太陽がモノクロに映ってしまうなんて、想像もしてなかったな。  マルボーロの煙に囲まれながら、林原さんは僕に訪ねてきた。 「大野君。海って見たことある?」  不思議な質問だった。僕は「はい」と答える。 「しばらく見ていませんけど、群青色に染まった瀬戸内海を見て心が洗われたことがあります」 「そうなんだ。大野君にとって、海はポジティブなもの?」 「そうですね。ポジティブとまではいかないにせよ、嫌な気