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父の人生を変えた『一日』その18 ~麻雀卓上の人事発令~

その18 ~麻雀卓上の人事発令~
 奈良天理から木材会社の社長がアメリカに出張に来た。「ライオンさん駐在期間あとどれくらいですか?」と聞かれた。任期は4年ですからあと1年です。と答えた。そのとたんにその社長の顔色が変わった。何かあるなと思った。
この会社㈱トーメンとは非常に好関係で商売をしている会社であった。木材本部のお偉いさんがよくこの会社に挨拶にお邪魔したと言う。言葉の悪い井上専務が木材担当の専務であった。麻雀が大好きな専務であった。しかし河内弁で言葉が悪く麻雀屋ではまずいと思いこの社長、自分の家の側に麻雀ルームを造ったという。色々な話をしながら専務、大阪の部長、相手の社長専務で麻雀は進んでいった。
「ところであのうるさいライオンはどうしている?」専務が切出したという。大阪の部長は「水を得た魚のように外人に可愛がられ毎日頑張って素晴らしい実績を上げているようです。」と答えた。ここで話が終わっておけば人事の話に成らなかった。
「あと1年で帰任ですが他の総合商社は喜ぶでしょうね」と大阪の部長が言った。何?なぜだ?専務は大声を出した。ライオンがアメリカからいなくなればライバル社は仕事がやりやすいと言う。
 それなら駐在期間を延長せよ。そんなに頑張っているのなら外人の信用も多い。ならアメリカにおいて置け任期延長せよ。と専務は言ったという。この専務今でもお付き合いあるが私は非常に可愛がられ面倒見て頂いた人である。そして辞令。
「在任期間4年間の延長を命じる」のテレックスが流れるに時間はかかなかった。
つまり私の人事は麻雀しながら決められていったのである。大好きなアメリカさらに続けて住めることに成ったのである。


~倅の解釈~
 父はこよなく麻雀を心から愛していた。「営業には丸いグリーンと四角いグリーンは絶対に必要だ」とよく言っていた。父の麻雀を取り巻くエピソードは多々あるが、このエピソードは何度も聞かされた。こういうリラックスした環境の中で、人脈の中で、運命は決まっていくのである。
 私の勝手な解釈だが、「建設的な判断」はこのように会合や麻雀の場で決まって、「悪い判断」は会議室で決まるものではないかと思う。人というものは面白い。
 私も電設資材商社に勤めていたころ、このような判断が上部でなされていたのではないかと、最近思う。浅草橋の本社ビル5Fで仕事をしていると「上坂副社長がお呼びです」と内線が鳴る。ビビりながら副社長室に入ると。「元気か?新潟の親父はどうしてる?仕事な何を今しているのだ?」と。坦々の今の営業としての仕事を話しすると、私が担当している得意先はすべてこの副社長が作ってきたクライアントだと知る。インド人の血が1/4流れている副社長。親父も良くこの方の話をした。多分、親父はこの方がいらっしゃったから、私にこの会社に入社しろと命じたのだと思う。
 そして、毎回、このような副社長室での呼び出しの後に、何かのプロジェクトに任命される。100周年の時は、新たなプロジェクトの説明員。ビックサイトで説明員を務めるので、必死に商品知識を学び、日本語、英語で説明できるようにした。一番きつかった任命は退社する1年ほど前のミッション。社内の受発注システムの構築プロジェクト。さすがにきつすぎて、何度もやめたいと思った。日中から夜までは通常の営業。余った時間でプロジェクトの構築。
 しかし、今となっては、上坂副社長は私が水澤電機に戻ったときのために、上手に「総務」「財務」「営業」と各分野に必要な下積みをさせてくれていたことに気づく。上坂副社長、今更ですが、本当にありがとうございました。

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