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父の人生を変えた『一日』その62 ~商売の暖簾(のれん)と仁義~

その62 ~商売の暖簾(のれん)と仁義~
 ㈱トーメン時代もライオンニュースを手書きのファックスで全国に流していた。アメリカ産地状況や米材丸太のアメリカ港頭在庫量等の情報も流した。ライバル商社が読んでいることも知りながら流していた。
ある時、題名は『私はやくざではありませんが』と題して書いた。商売にはやはり仁義がある事を言いたかったのである。木場筋の材木屋の社長がそれを読んで感激したらしく萬玉本部長に報告したらしい。『ライオン、お前はやくざでないのか?』と本部長から笑いながら言われて苦笑したことがあった。商売は自由であり公平であるが、しかし業界の秩序、紳士的、仁義があるのである。
 名古屋時代、ニュージーランド材を豊橋に荷揚げする商談が丸美産業と成約できそうになった。必ず儲かるので決済を沢田部長に仰いだ。結果『否』であった。私は噛みついた。必ず儲かる商売をなぜ却下するのだ。何度も何度も沢田部長に詰問した『ライオン1年待て』と言う。なぜだ?商売の仁義であると沢田部長は言う。今まで四日市港にニュージーランド材を名古屋木材宛に歴史的に販売していた商圏がある。沢田さんが6ヶ月で名古屋木材宛の了解を取り付け商売で競合しないように6ヶ月で丸美産業を説得すると言う。
『ライオン、それが商売の暖簾(のれん)であり仁義である。』と真剣な目つきで教えられた。なるほど商売とは奥深いと思った。目先の利益だけではいけない事も痛感した。商売とは全く奥が深いものである。若気のライオンまた、ここで勉強したのである。


~倅の解釈~
 『ライオンニュース』と題して、親父は思ったことをがむしゃらに書き、出会った方々に配った。時代とともに配り方が進化した。トーメン時代はファックス。アメリカに留学していた私には100通分ぐらいをまとめて郵送してきた。当時、高校生だった私はチンプンカンプンで速攻そのライオンニュースはゴミ箱行き。でも、1通だけ目についた。それがこのエピソードである。
 アメリカに長く住んでいたので、どうしても日本の文化と歴史に敏感だった。ヤクザという言葉、暖簾という難しい文字、仁義という大好きな言葉に魅了された。親父に色々聞けるような環境に居なかったので英字で本を読みまくった。その時であったのが、「Hagakure: The book of the Samurai」『葉隠』である。著者は山本常朝。そこから波及して没頭したのが「The Book of Five Rings」『五輪の書』である。著者は宮本武蔵。 空手道を幼少期からやっていたのですべてがスーッと入ってきた。感動した。でも振り返ると、これも親父が私に遠まわしで飛ばした指導だったと感じる。
 アメリカナイズされていた自信の考えとこの古来日本から伝わる日本人としてのアイデンティティー、精神性がまた、面白いぐらいにマッチした。自由をこよなく愛する日本人と不自由をとことん極める日本人。このブレンドは完全にフュージョンした。
 商売での絶対というものは無いだろう。でも商売の『暖簾』を大事にした『仁義』は絶対的に日本が誇る商人の魂だと私は思う。

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