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父の人生を変えた『一日』その61 ~ケチな先輩~

その61 ~ケチな先輩~
 ㈱トーメンの給料日は毎月15日であった。私は柏の独身寮にいた。ある先輩の部屋の前が人だかりとなっていた。何だろう?と思った。2年先輩の人がお金を貸してその返済に皆が独身寮のその人の部屋に来ていたのである。ある人は10万円借りた。利息分1万円先に取られ9万円もらって給料日に10万円返済に行く。
要は個人で高利貸しをしていたのである。『ケチな人』は何度か見てきているがこうもケチな先輩は見た事もなかった。同志社大学出身の先輩であった。会社の帰り柏の駅でタクシー乗ろうとしていた。その先輩が立っていた。『水澤君タクシーで帰るのか?俺を乗せてくれ』と言う。半分くらいは料金を払うかと思ったがそんなそぶりは全くなかった。
独身寮は月曜日から金曜日までは寮で夕食があり土曜・日曜日は無かった。そのケチな男は金曜日になるとご飯をサランラップに包んで土曜・日曜日にチンして食べていた。あらゆるところでお金を使わないのである。全てがお金の貯蓄だけを考える変人先輩でもあった。
 同じ課全員であるレストランに食事に行った。それぞれ食事を注文した。そのケチな男『ライス』だけをお願いしますと言った。まわりの一同は唖然としたそして周りの人のおかずをもらって食べ、置いてあった福神漬で夕食を食べたという。『ああああああ』まさにこんな人もいるのかと思った。しかし5年くらいで3000万円貯めたとも噂されているくらいお金は持っていた。ある時独身寮のマイクを使って誰々さんお金が未収になっています。と放送した。同志社大学出身の別の先輩が呼んで怒鳴りつけたという。
 その後その人は結婚したが財布は自分で管理し奥様に『今日の大根は5円高いね』とか言っていたそうである。世の中全く驚いた人もいるものです。その後その日本一けちな男はある時偉いさんの逆鱗に触れて子会社左遷されたという。笑えない現実の話であった。


~倅の解釈~
 親父はこの先輩の子ともよく話した。子どもとして、この話は完全な親父自身が自身への戒めだと思っていた。親父はものすごく金使いが荒く、それを肯定するようなもの。分かっていても全部使ってしまう親父。うらやましかったのか、よくこの先輩の話をした。
 ケチな人というものは大勢いるが、目的をもって貯金をしている人は強い。絶対に金額達成するであろう。でも、『貯金』が目的となってしまうとたちが悪い。
 私もケチなお袋の血を引いていると自分では思う。禁欲はまったくない。親父のように使うときは使ってしまうが、ため込むようなことはしないけど、まったくもっての無駄には絶対にお金を使わない。水澤家は何度かお金が理由でもめている。墓場まで、棺桶の中までお金は持っていけない。生きたお金はガンガン使うべき。

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