とりろー監禁SS
【⚠ 必ずお読みください ⚠】
これはとりろーの二次創作SSです
何でも許せる人向け。
無断転載禁止。
R18的な内容はありませんが、タイトル通り監禁要素がメインです。苦手な方はご注意ください。
約3000字ちょっとあるのでご参考に。
とりーは道端を一人で歩いていた。
今日は夕焼けが眩しい。いい天気だ。
ろーはワアによく言う。「ここは危ないから、帰るときはわあに電話して」と。
しかしここはそんなに危険な場所ではない。
確かに少し治安が悪いのだが──────────その往なし方を心得たこの街の住民からすれば、それは日常の一部である。ろーは臆病なのだ。
この街では、そんな臆病者は車に轢かれてしまうことが多いという。
「帰るまでに命があるかわからん、この街におったらな」とはここの性質を端的に表す言葉だ──────思い切りが良くないのが原因だとか。
そんな街を歩くとりーの後ろから現れた黒服の男。
深くフードを被った、まさに不審者と言うべき姿である。
まるで彼女の行き先を─────普段の行動を知りつくすかの如く、男は巧妙に尾行する。
彼女は気づいていない。
いつもの道。いつもの街。
それが変わりつつあった。
その不審な男はとりーを突然路地裏に引きずり込む。
瞬く間に口を塞がれ、抵抗する間もなく意識が遠のくとりー。
「拉致だ、まずい……」
ろーの警告を真に受けなかったワアへの報いか?
せめて犯人の顔を────────そう薄れゆく意識の中で見る。
この顔は、毎日見ているろーの顔。間違いない。
「なぜ…………ろーが………?」
とりーは意識を手放す。
──────────何時間経過しただろうか。
椅子に座った状態で目覚めた。うたた寝でもした気分。なにか夢を見ている気分やね──────
首元と手足の違和感がとりーを現実に引き戻す。
カシャンと無機質な音が響く。手足が動かない、縛られているんだ。
見渡せばそこは見知らぬ場所───────────工場だったのだろうか?
薄暗く、設備が殆どが奪い去られたような痕跡がある。
近くには中身のない木箱が散らかっていて…………しかしここまで荒れているにしては不思議と快適な気温。奇妙だ。
首輪をつけられ、四肢を椅子に縛り付けられたその姿───────まさしく「監禁」としか言いようがない状態。この状態でどうやってここを脱出すればいいのか。
そう思っているうちに、眼前の重厚な鉄扉が音を立てて開く。
扉を開けたのは黒い服。見覚えがある。
ここに来る現凶になった───────────ろー?
そんなわけがない。ろーは肝心なところでヘタれる。一人でそんな大層なことができるはずがない。きっと見間違いだ。
なにかの間違いではないのか?…………きっとそうだ。
そう思い眼前の不審者に話しかける。
答えるは聞き慣れた声。信じたくはないがろーだ。現実は非情である。
「なんで…………なんで…………ろー!」とりーは問う。
「わあには答えられない」
ろーは静かに答える。「答えられない───────どうしても」
ろーのことだから悪いようにはしないだろう。身を預けるしか────────ろーを信用するしかない。
色んな所にとりーを縛りつけるろー。
ある時は手錠で、ダクトテープで、またある時は縄で吊るされることも。
縛る趣味があるのなら、正直に言ってくれれば良かったのに。いくらでも縛ったっていいから──────今やその言葉は届かない。
ろーは昼間、どこかに出かけているようだ。出かける前には毎度、ワアを縛り直していく。なにかに怯えた目をしながら。
誰かに脅されている───────────それが自然だろうか。誰かの恨みを買ったか?しかしこの街では敵が多すぎる。
帰ってきた時、ろーは安堵した顔でワアを見る。
「ろー、脅されてるの?」
「それは言えない」
────────今日も囚われのお姫様のままであった。
2週間が経った頃。
ろーの行動に変化があった。少し寝坊をしたようで、普段であればただ慌ただしい朝の光景となるだけである。
しかし、とりーにとってはそうではない。まだ諦めていないのだ。願ってもない好機である。
案の定、いつものように縛り直すことはなかった。
ろーは扉へ向かい──────重い鉄扉は音を立てて閉まった。そのまま走り去る足音。余程急いでいたようだ。
「今のうちやね」
わずかに緩まった拘束具が、とりーの脚を徐々に離していく。
ろーは何も教えてくれない。自らの手で脱出の糸口を掴むしかないのだ。
そのうち────────するりと四肢の拘束が解けた。首輪は珍しく鎖に繋がれていない。脱出だ。
そろりそろりと、足音を立てぬよう扉へ向かう。
鉄扉が悲鳴を上げて開く。ここさえ抜ければ大きな音を立てることは───────小部屋だ。
その暗がりの先にもうっすら扉が見える。何が待ち受けているのだろうか。恐怖に打ち震えながらも、とりーは慎重に扉を開く。
目の前には───────鉄格子。
格子の向こうには作業スペースと思わしき場所。
パソコンが置いてあり、その前には少し驚いたような顔のろーが座っていた。
「とりー……」
「ろー、なんで………」
───────生々しく残った拘束具の痕が、涙に濡れていた。
ろーは自らワアを監禁したのではないのか?
とりーは疑念を抱く。
「でもなんで……………」
……………しかし時間は何も答えてくれはしなかった。
3週間が経ち、薄暗い日。雨音が響く。
あの日以来、同じ部屋に四六時中ろーがいるようになった。
今日も陽の目を見ることは叶わない。
二人で一緒に見るテレビ─────この習慣は何年も前からであったはずだが─────その目線は虚ろであった。
ふとニュースが流れる。大写しになる自分の顔写真。行方不明のニュースだ。
「テレビデビューしとる…………」
こんな話題で初出演とはツイていないと言うべきか。どちらにせよ、有名人の仲間入りだ。悪い意味で。
そろそろ解放して───────何度言ったのか、もうわからない言葉を紡ぐ。
ろーは話さずともわかる奴だったが、今やそれは幻想になってしまったのかもしれない。
「だめ」
ろーのその口ぶりは強い意志を持って生み出したかのようであった。
「なんでワアを?」
問うも口が重い。二人の間に沈黙が広がった。
─────────────長い長い沈黙。つけっぱなしのテレビの音が小さく響き渡る。
《《──────明日の天気は─────今日と────では雨が────晴れ───》》
ろーは恐る恐る口を開いた。「とりーをわあだけの───────独り占めにしたかった。」
ただそれだけ。その気持ちがここまでのことをしでかしたのである。もうおめおめと日常には帰れないだろうに。
とりーは咄嗟にろーを抱きしめようとする。しかしそれは叶わない。
代わりに金属音が響く。首輪の鎖の長さに阻まれたのだ。
「もう、やめよう」
鍵を開け首輪を投げ捨てるろー。
カシャンと無機質な音を立てる鎖。
とりーは3週間ぶりにその呪縛から放たれたのである。
しかしとりーは逃げようとはしない。ろーを離そうとしないのだ。
ここまで騒ぎになってしまえば、ろーはただの誘拐犯として見られかねない。呪縛は物理的なものだけではなくなってしまった。
─────────とりーは真っ直ぐな目で言う。「一緒に逃げよう」「そうすればずっと独り占めできるから」
ろーはゆっくり頷く。
「せっかくの贈り物だから、これはワアが受け取っておく」
とりーは床に落ちた首輪を拾い、愛おしく見つめた。
ある夜、夜を照らす月は見ていた。
廃工場から二つの影が出ていくのを。
今度はとりーがろーの手を引く。
前からそういう関係ではなかったかと言われればそうであるが、この3週間でその関係は変わってしまった。
しかし、今は─────ろーを守れるのはワアだけ──────その想いが手を引かせているのだ。
まだ旅は始まったばかり。後悔する時間はたくさんあるはずだから。