国立科学博物館の財務とクラウドファンディング

国立科学博物館のクラウドファンディングが話題ですが、今回の内容は

その根幹である「標本・資料の収集・保管」が、昨今のコロナ禍や光熱費、原材料費の高騰によって、資金的に大きな危機に晒されています。
これからも安定的に標本・資料を収集し、多様なコレクションを適切に保管しつづける体制を維持するため、そして、将来の「調査研究」、「展示・学習支援」活動に影響が出ることを防ぐため、いま、ご支援が必要です。

地球の宝を守れ|国立科学博物館500万点のコレクションを次世代へ
国立科学博物館

ということで、これまでのプロジェクト単位のクラウドファンディング(3万年前の航海「YS-11」量産初号機公開プロジェクト)とはどうも様子が異なり、日々の基幹業務そのものに影響が出ていそうな雰囲気が漂っています。

上記の表現からすると、半ば運転資金そのものが足りてない、みたいな印象すら受けるので、独立行政法人で財務情報も公開されていることですし、少しだけどんな状況なのか眺めてみたいと思います。

収益構造から見ると経常収益・経常費用の他に臨時利益・臨時損失というのがありますが、臨時損益はどうやら資産の処分に伴う処理のようなので、基本的には経常収益・費用を見ると損益構造がわかる格好です。
経常収益は交付金の他に入場料や受託研究などがあり、一方で経常費用は博物館業務費(人件費・経費)、一般管理費(人件費・経費)、受託研究費(人件費・経費)からなる、割とシンプルな構造です。

昨年度(令和4年度=令和5年3月期)で見ると、経常収益37.86億円のうち59%が交付金、17%が入場料、という格好になっています。入場料はそれでも前年の3.3億から倍近い6.5億に増えていますね。寄附金収益は僅か1.2%の4,532万円(図でいうとその他に入れています)が、それでも前年の0.8%からは増えています。なお、交付金は前年の23.97億円から22.37億円に減少しています。
#資産見返負債戻入というのは交付金等で固定資産を購入→対応する負債を資産見返負債に振替→資産を減価償却→相当分の負債を収益認識、という処理です

国立科学博物館財務諸表より筆者作成

一方で費用を見ますと、博物館業務費が80%、一般管理費が16%となっています。(受託研究は受託研究で収益と費用と採算取れる格好になってはいます。)
で、今回のクラファンで掲げられている項目からすると、おそらくは博物館業務費のうち特に経費に影響する話ってことに読めますが、博物館業務費は令和4年度(令和5年3月期)は14.33億円と令和3年度(令和4年3月期)の11.84億からなんと21%増加しています(グラフは見やすくするために経費・償却費でまとめちゃっててすみません)。
詳細は直接、科博のウェブサイトで財務諸表に当たってほしいんですが、増加している理由としては水道光熱費、保守整備費、賃借料、その他と遍くインフレの影響を受けているようでして、令和6年3月期を思うともちろんコストベースは上がったままと考えるのが妥当でしょう。
(8/8追記:一応、2021年度から2022年度にかけてコスト増になりそうな特別展とか企画展とかあるかもなとも思ったんですがあまりそういう感じを受けなかったのでインフレ影響かなと思った次第です、あと本来であれば入場者数の回復に応じて増える変動費がどの程度あったかを数年分のデータから把握したいところです)

なお、博物館業務人件費については令和4年3月期は14.80億円から令和5年3月期は14.83億円でほぼフラットなんですけど、公務員も人事院勧告で給与が2.7%ほど上がるようですから、これも今後増加することが見込まれます、どうしますかね。

国立科学博物館財務諸表より筆者作成

一応、令和4年度(令和5年3月期)については1,000万円ほどの経常利益は確保できてはいるわけですけど、コスト上昇を前提に考えると、令和6年3月期以降は予断を許さないというか、正直な感想を言えば、今回のクラファンだけでは根本的な解決に至る芽が見えないわけで、交付金がインフレ見合いで増えるんなら問題ない(それでもタイムラグが発生するから資金繰り問題はなくもない)んですけど、そうでないなら、入場料上げるとすると数億円のコスト増をカバーするには倍とかになってしまうので非現実的、じゃあ毎年数億ずつクラファンやるんですか、それができないなら根本的な収益構造どうするんですか、という話になってくるように思われます。

そこで何か他にバランスシート使える商売でもできませんかねという話も考えたくなるわけですけど、あれです、上野公園という一等地にあれだけの土地があるんでそれがどうしても目立ちます。
有形固定資産の簿価ざっくり800億(土地・建物・収蔵品)に対応するのが(政府出資金+資本剰余金)なのでこれは経緯からしても現物出資でしょうかね。そして償却累計額が行政コスト累計額みたいな感じなのでバランスシートで商売しているといえば商売しているわけだし、これ以上何かやるのは容易ではない感じでしょうかね。
#収蔵品という勘定科目は独特だし当たり前だけど償却資産ではないのも面白い

令和5年3月期の国立科学博物館財務諸表より筆者作成

独立行政法人として収益事業含めて色々経営努力しろって話なのはわかるんですが、東京で子育てしていたらご存じだと思うんですけど、科博はめっちゃ努力してる方だと思うのですよね、企画も展示もミュージアムショップも。外国と比べて経営努力が足りないミュージアムショップのグッズも工夫が足りないみたいなツイート(今ツイートって言わないんでしたっけ)も見かけましたけど、そういう人たち子供連れて行ってないでしょとすら思います。

そんなわけで今今の状況からすると抜本的な解決策がない中での運転資本の調達のように見えてしまうクラファンなのですが、クラファンのコストを思うと運転資本の調達コストとしては非常に高いように思いますので、これを呼び水に寄附金を増やしたいという広告宣伝的な目的であれば、それもそうかなという感じもないではないものの、やはり対応策ではあるけど解決策とはならないような印象を受けますね。
子供の頃、ご多分に漏れず恐竜好きだった私としてはフタバスズキリュウを科博で見るというのは田舎の子供の憧れであり夢であったわけで(あとドラえもん読んでたらそうなりますかね)、そこに科学教育のある種の意味を見出しもするので、なんとかなってほしいところです。
#個人として賛助会員寄附はしました

(8/8に若干追加しました。文中に記載あり)

記事をご覧になって、良い記事だとご評価下さるようでしたら、ぜひサポートをお願いします。