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魂柱のはなし

ヴァイオリンなどの弦楽器には魂柱が内部に設置されています。英語でSound Postと呼ばれるこの棒は、ヴァイオリンの場合だいたい5.5~6.0mm径の円柱形で楽器の内部にひっそりと立っています。注意して欲しいのは、魂柱は表板と裏板とは接着されていないこと。床と天井をつなぐ突っ張り棒みたいな感じに、ある意味で押し込まれて立っていると言っても良いでしょう。

では、魂柱の居る場所はどこかというと、表板の中央に立つ駒から少しだけ離れたところにセットされています。実は真下ではないんですね。E線側の駒足からテールピース側へ、だいたい2~4mmほど離れた辺りのベストな位置を音を聴きながら探していきます。今のを縦方向とするなら、横方向側の位置も大切です。これは決まった数値はなく、バスバーと駒の両足幅とのバランスが大切なので、実際のところはバスバーの位置で魂柱の横方向の位置が決まってくると言っても過言ではないと思います。
つまり、順番が逆になってしまいますが、魂柱は駒を立てる前に横方向の位置を決定し、その上で駒(足幅)を表板にセットする、という流れなんです。

次に、魂柱が倒れてしまったために慌てて工房やお店に楽器を持ってこられる方がときどきいらっしゃいます。中でカラカラ音を鳴らしている魂柱を立て直すのは、職人であれば容易なのでその場で立て直してくれるはずですが、正直なところ表・裏板の空間に対する魂柱の長さが足りていないので、少し長めの魂柱に交換してもらうことをお勧めします。交換するために箱を開ける必要はありません。魂柱の出し入れや正確な位置のセットなどはF字孔の穴から全てを行うので、楽器を入院させる必要もありません。
ただ先ほど書いたように、魂柱の位置が先に決定されるべきなので、既存の駒がバスバー・魂柱位置とバランスが悪い場合、ただ立て直すよりは駒も交換した方が楽器本来のポテンシャルを引き出すことができたりもします。余計な出費と駒交換の時間が発生してしまいますが、バランスの悪い駒に合わせて少しだけ長い魂柱をただ立て直すのは、少々もったいないなぁと私は感じてしまいます。

オリジナルの、製作者が作成した魂柱だから残しておきたいという心情も分かります。でも、相対的な長さが短くなってしまったオリジナル魂柱をずっと使い続けるのは楽器にもどうなんだろうというのが私の考えです。「でも製作段階ではバスバーと駒と魂柱の三角関係はバッチリ合わせて作っているんじゃないの?」と思う方もいるはずですので、その辺の話はおいおい。もちろん製作者はその辺はしっかりと考えて製作していますが、実際のところはなかなか面白いことが楽器に起こっているんです。




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