見出し画像

マッサンのブロール構築記 ㊱トレイリアの大魔術師、バリン

1.はじめに

世の中には、不運と踊る人間がいる。

画像1

貢物をケチったばかりにドラゴンに焼き殺されたりだとか…

画像3

致命傷を浴びた挙句に人知れず死んだりだとか…

画像3

存在をスタンダードから抹消されたりとか…

…まあ、色々例を挙げたが、とにかくこの世の中には不幸な人間が一定数存在する。「世の中の幸福と不幸はすべて足すとプラスマイナス0になる」ということをのたまう人もいるにはいるが、MTGのストーリーを眺めているとどう見ても不運をつかまされた人の方が多く見えるのは気のせいだろうか。

そんな不幸と不運のデパートと言っても過言ではないMTG。その中でも、彼ほど不運と不幸にまみれた生涯を送った人はいないだろう。

画像4

《トレイリアの大魔導師、バリン》

画像5

彼の不運、それは「ウルザの友人だった」の一言で説明がつく。誤解を承知でザックリ言うと、この諸悪の根源とも言うべきオッサンに関わったせいで嫁を喪い、娘を殺される羽目になるのだ。正直バタフライエフェクトというか風が吹けばなんとやらだが、それでもこのオッサンが原因の一端を担ってることはまず間違いない。

画像6

その後「こんなオッサンに関わっている場合じゃない」と任されていた防衛拠点を放棄。娘を妻の眠るトレイリアに埋葬するべく舞い戻り、結果的に追跡してきたファイレクシア軍を己とトレイリアもろとも消し飛ばすというダイナミック火葬を実行。帰らぬ人となる。改めて文面に起こすとあまりに壮絶な生涯に涙を禁じ得ない。

当然上記の通り、基本セット2021時点のストーリーでは故人なのだが、何の因果か今回基本セット2021で再録が決まり、スタンダードでも使えるようになった。

というわけで今回は、この悲劇のオジサマ、バリンを使ってブロールの巡業に出るとしよう。なおウルザはカード化はされているものの、特殊セット「モダンホライゾン」での収録のみなのでブロールでは使えない。安心してバリンを使ってやることにしよう。

2.こいつで何ができるのか

さて、そんな悲劇のオジサマバリンだが、実は今までに至るまで何度かカード化されている。そしてそのカードのどれもが「パーマネントを手札に戻す」、通称「バウンス能力」を持ったものとして描かれているのだ。

果たして今回の基本セット2021ではどのような能力を持っているのだろうか?詳しく見てみよう。

《トレイリアの大魔導師、バリン》
1UU
伝説のクリーチャー ― - 人間・ウィザード
2 / 2
トレイリアの大魔導師、バリンが戦場に出たとき、他の、クリーチャーかプレインズウォーカー最大1体を対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
あなたの終了ステップの開始時に、このターンにパーマネントが戦場からあなたの手札に加えられていた場合、カードを1枚引く。

画像7

3マナ2/2。場に出たときにクリーチャーをバウンス。あんたはクラゲかなんかか。

…いや待て、流石に大魔導師ともいえる人がこんな良く分からんクラゲと同性能のわけがない。というかよくわからんコモンと同性能のレアとか恰好がつかない。ちゃんと能力を確認しよう。

まず、バウンス出来る対象が上のクラゲと大きく異なる。クリーチャー以外にも、プレインズウォーカーをバウンス出来るようである。正直プレインズウォーカーをバウンスしても次のターンにまた出された挙句に能力を使われるので旨味は感じないかもしれない。

そこで効いてくるのが2番目の能力である。なんとこのバリンがいる状態で自分のパーマネントを手札に戻すと、カードを1枚引くことが出来るのだ。つまり、上の例で行くと、バリンの能力で忠誠度能力を使い切ったプレインズウォーカーをバウンスし、再度能力を再利用できるようになるうえ、更にカードがオマケで1枚引けるのである。

…とまあ、さも有用な能力のように書きはしたが、自分のパーマネントをバウンスするということは、当たり前だがもう一回マナを出して出し直す必要があるということである。バウンスしてドローしたのはいいものの、再利用しようと思ったプレインズウォーカーを出し直した際に打ち消されたりしたら眼も当てられないだろう。

結局は自分のパーマネントをバウンスするより、相手のパーマネントをバウンスする方が多そうである。ただ、それだとやっていることは上のカツオノエボシやどこぞのハゲと全く同じであり、わざわざバリンを使う理由にはならない。

次の項で、バリンの能力を最大限引き出すためにはどうしたらいいかを考えてみよう。

3.どうやってこいつで勝つか

さて、バリンの能力をまとめると以下のようになる。

・場に出た際にクリーチャーかプレインズウォーカーをバウンス可能
・自分のコントロールしているパーマネントをバウンスするとカードが1枚引ける

さて、今回主に考えていくことはこれだろう。

「自分のパーマネントをバウンスしてありがたい状況とは一体なんぞや」

先ほど述べたように、自分のパーマネントを一度手札に戻すという行為自体がテンポを大きく削ぐ行為である。それだけのことをするだけの理由が必要だろう。

結論から言うと、「バウンスしたパーマネントの能力を使いまわせるかどうか」がカギになる。

画像8

まずは、先にも述べたような「プレインズウォーカーの忠誠度能力の使いまわし」が該当する。折しも現環境、マイナス忠誠度能力しか持たないプレインズウォーカーが大量にいる。こいつらをバウンスして再度唱えなおし、再び忠誠度能力を使い直すという手段は上げられる。

画像9

他には「場に出たときに○○する」というパーマネントの再利用も考えられるだろう。カードを引いたり、トークンを出したり、相手のパーマネントをタップしたり、相手のパーマネントを強奪したり、それこそ青だけで出来ることの幅はかなり広い。

「何だ、この方針でいいじゃん!」と思った読者の方も多いだろう。現に筆者もそう思った。しかしこの方針、実は大問題を抱えているのである。

画像10

性能面だとかメカニズム上問題があるという話ではない。この「パーマネントが場に出たときの能力」を再利用するデッキ、過去に紹介したことがあるのだ。そう、記念すべき連載一発目、《魅了された者、アリリオス》のデッキがまさにそれなのである。

流石にもうアリリオスの記事から数ヶ月経っているので時効っちゃ時効なのだが、使えるカードプールがほぼ同じである以上、このままいくとアリリオスデッキとコンセプトがただ被りになる恐れがある。

というわけで、今回は以下のことに焦点を当てていきながらデッキを作っていきたい。

・「能力を使いまわしておいしい」パーマネントを探す
・「他のカードをバウンス出来る」カードを探す
・単なる再利用ではなく、「バウンス」だからこそ出来ることを探す

1個目や2個目は言ってしまえば我々がすでに数か月前通過した道である。が、3個目が難題だ。単に使いまわすだけではなく、バウンスだからこそ出来ることってあるのだろうか?

4.どうやってデッキを組むか

さて、上記の通り、簡単な課題と超絶難しい課題を突き付けられたこのバリンデッキ。一体どうやって組んでいこうか?

とりあえず、簡単なほうから先に処理しよう。

1.能力を使いまわしておいしいパーマネント

画像11

正直、この辺りは説明できることが皆無である。

アリリオスの記事でも触れたし、ヤロクの記事でも触れたし、何ならヨーリオンの記事でもこいつらは紹介した。従ってこれ以上何かを説明しようにも説明しようがない。

更に問題なのが、基本セット2021で上記の記事で紹介した使い勝手のいいパーマネントを越えるものがほとんど収録されていない。青に至っては皆無である。

というわけで、大変心苦しいのだが、過去の記事のリンクを貼っておくのでここからどういうカードが使えるか見にいってほしい。

なお、「青いパーマネント」から「今回のデッキで使えるパーマネント」に範囲を広げると、一応新しく使えそうなカードはいる。それがコチラ。

画像12

《真面目な身代わり》
4
アーティファクト・クリーチャー ― - ゴーレム
2 / 2
真面目な身代わりが戦場に出たとき、あなたは「あなたのライブラリーから基本土地・カード1枚を探し、タップ状態で戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直す。」を選んでもよい。
真面目な身代わりが死亡したとき、あなたはカードを1枚引いてもよい。

場に出たときに基本土地をライブラリーから場に出すことが出来、更に死亡時にカードを1枚引ける。バリンや他のバウンス手段で使いまわしてやるとあっという間に盤面を土地まみれに出来るだろう。用が済んだら適当に処理して1枚ドローに変換できるのも偉い。また、このデッキの固有色が青なので、特に色拘束を考えずに島を持ってくるだけでOKなのも偉い。

2.他のカードをバウンス出来るカード

さて、バリンは他のクリーチャーやプレインズウォーカーをバウンス可能なので、バリン単体で自分のパーマネントをバウンスすることも可能である。なのだが、流石にそれだけだとマズいだろう。

というのも、バリンのバウンス能力は場に出たときにしか誘発しない。つまり一回きりの能力なのである。バリンの能力を有効活用するためにも、他のバウンス手段は入れておくに越したことはない。

まずは、一回きりのバウンス呪文から見ていこう。例えば、エルドレインで収録されているこのバウンス呪文なんかどうだろうか。

画像13

《共に逃走》
1U
インスタント
異なるプレイヤーがコントロールしているクリーチャー2体を対象とする。それらのクリーチャーをオーナーの手札に戻す。

要は多人数向けに作られたカードなのだが、1対1の状態でも問題なく使える。この場合は、相手のクリーチャーと自分のクリーチャーの両方をバウンスすることになる。相手の嫌なクリーチャーとこちらの能力を使いまわしたいクリーチャーを一度にバウンスしてやろう。

なお、注意事項として、自分のクリーチャーがいない場合は、対象が不適正となり、唱えることが出来ない。自分の盤面が空っぽの際に相手のクリーチャーだけをバウンスすることはできないということには注意しよう。

他には、繰り返し使えるバウンス手段として、こういうアーティファクトが環境に存在する。

画像15

《聖域の門》
2U
アーティファクト
1, T:あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。それとそれにつけられているオーラすべてをオーナーの手札に戻す。この能力は、あなたのターンの間にのみ起動できる。

自分のターン限定だが、なんとお手軽に1マナタップで自軍のクリーチャーをバウンス可能である。一応貼り付けてあるオーラも一緒に帰ってくるので、何かこれを搦めて悪さもできそうだが、本命はクリーチャーバウンスだろう。

3.バウンスだからできること

さて、本題である。バウンスだからこそ出来ることとは一体何だろうか?

バウンス能力を正確に言うと、「カードを手札に戻す」能力である。つまり、一度手札に戻して、更に唱えなおすことで再利用を行うというのが今回の方針である。

実は、手札に戻すことで、今までのコンセプトとは全く異なる方法で再利用できるクリーチャーがいるのだ。それがコチラ。

画像16

《マーフォークの秘守り》
U
クリーチャー ― - マーフォーク・ウィザード
0 / 4
---------------------------------------------------
《深みへの冒険》
U
ソーサリー ― 出来事
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上からカードを4枚自分の墓地に置く。(その後、このカードを追放する。あなたは後で追放領域からこのクリーチャーを唱えてもよい。)

「出来事」

手札から出来事コストで唱えるとソーサリーやインスタントとして使用でき、かつその後、追放領域からクリーチャーとして唱えなおしが出来るこの呪文群、要はクリーチャーとして出し直した後、バウンスして手札に戻せば出来事を再利用できるというカラクリである。

例えば上の《マーフォークの秘守り》は、1マナで《深みへの冒険》として唱えると4枚切削が出来、そのあと0/4クリーチャーとして運用できるのだが、クリーチャーとして唱えなおした後にバウンスして手札に戻せばもう一度切削呪文が使えるということになる。

…そういえば、出来事とは全く関係がないが、切削呪文といえばこういうエンチャントも環境にあったよな…?

画像17

《水没した秘密》
1U
エンチャント
あなたが青の呪文を唱えるたび、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは自分のライブラリーの一番上からカードを2枚自分の墓地に置く。

青の呪文を唱えるたびに、対象のプレイヤーのライブラリーを2枚切削するエンチャントである。この「唱える」というのがミソで、青いパーマネントを手札に戻して再度利用すると、「青い呪文を唱えた」ということになるので、この能力も再利用できるのである。方向性は違えど、このエンチャントもまた「バウンスだからこそできること」に対する答えの一つであろう。

また、正確には「バウンスだからこそできること」ではないのだが、こんなエンチャントも新たに基本セット2021で収録されている。

画像18

《テフェリーの後見》
2U
エンチャント
テフェリーの後見が戦場に出たとき、カードを1枚引き、その後カード1枚を捨てる。
あなたがカードを1枚引くたび、対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを2枚切削する。(そのプレイヤーは、自分のライブラリーの一番上からカードを2枚自分の墓地に置く。)

場に出たとき1枚引いて1枚捨てる。そして、ドローのたびに対戦相手のライブラリーを2枚切削出来るこのカード、実はバリンとの相性が結構よい。というのも、自分のパーマネントを手札に戻せばカードが1枚引けるため、うまく毎ターンバウンスさせて再利用できれば、相手のライブラリーを4枚切削することも可能であるためだ。

《マーフォークの秘守り》のような出来事クリーチャー、《水没した秘密》、そしてこの《テフェリーの後見》。バリンの能力と相性がいい、これらのカードの存在から導かれるこのデッキの着地点、それは…

5.サンプルデッキ

…というわけで、こちらがバリンをフル活用するデッキ、その名も「バリンの力でライブラリーアウト feat. HAGE」である。是非、画面の前の皆様もこのデッキを組んで楽しんでいただきたいため、例によってデッキリストを用意した。下のリンクから利用してほしい。

画像18

(↑画像をクリックするとMTGGoldfishに飛びます。)

画像19

実は今まで黙っていたが、青の「場に出たときに○○するクリーチャー」の中には、切削を得意とするクリーチャーが一定数存在するのである。

これらの呪文とバリンをうまく活用してやり、《水没した秘密》、《テフェリーの後見》といったLOエンジンを回し続け、相手のライブラリーをジワジワと削り取って勝利するという、ファイレクシアもドン引きする畜生設計思想のもと作られたのがこのデッキだ。草葉の陰でウルザも満面の笑みを浮かべていることだろう。

画像20

空いたスロットに入れた打ち消しも、相手のライブラリーを切削できる《無礼の罰》や《思考崩壊》といったものを中心に採用した。とにかくライブラリーを削るべし、削るべし、削るべし!

画像21

基本セット2021からは、みんな大好き「クソデカクリコマ」の愛称でおなじみ《崇高な天啓》を採用。呪文の打ち消し、起動型能力及び誘発型能力の打ち消し、土地以外のパーマネントバウンス、クリーチャーコピー、カードドロー、なんとコレ全部が全て一度に行えるトンデモ呪文である。

まあ流石に呪文の打ち消しと起動型能力および誘発型能力の打ち消しを一度に打ち消す場面はそうそうないだろうが、それ以外の3つの能力は一度に使うとかなり美味しいだろう。「自分の場に出たときに○○」するクリーチャーのコピーを出しつつ、コピー元をバウンスして再利用するくらいのことはやってみたい。

画像22

なんかがおかしいプレインズウォーカー、《時の支配者、テフェリー》も当然採用。ストーリーを紐解くと、当時バリンはまだクソガキだったテフェリーの教師だったそうで、この度なんと師弟ダブル採用が実現した。これだけ聞くとほほえましいが、このクソガキの性能は恩師バリンをはるかに凌駕する。

+1能力でルーティング、-3能力で相手のクリーチャーをフェイズアウト、-10能力で追加の2ターンを得る。ここまで聞くと普通のプレインズウォーカーだが、なんとこの度、ついに各ターンのインスタントタイミングで起動型能力が起動できるようになった。つまり何も妨害されない場合、ものすごい勢いで忠誠度が溜まる。開発はウルザよろしくこのハゲ親父を実験体かなんかと勘違いしているのではないだろうか。

なお当たり前だが、+1能力で1枚ドローした分はしっかり《テフェリーの後見》が誘発する。相手のライブラリーをとっとと削るためにも有効に利用してやろう。また、殴られ過ぎたりマイナス忠誠度能力を使って忠誠度が危うくなった際は、バリンで戻して再利用してやってもOKだ。

6.おわりに

いかがだっただろうか。アリリオスと似たコンセプトでありながら、それとはまた異なる、ユニークなデッキを紹介できたのではないかと思う。回り始めるとかなり楽しいデッキなので、是非ともトライしてほしい。

白状すると、今回紹介したバリンは、実は紹介する予定がなかった統率者だった。というのも、先述したように、パッと思いつくコンセプトがアリリオスと丸被りしており、このデッキを紹介しても面白くないだろうなあ。ということをぼんやり考えていたためである。

しかし、こうやって掘り下げて考えてやると、きちんと特徴を活かしつつ、別のデッキとして紹介できた。何事も見た目だけで判断してはいけない、ちゃんと手を動かしてあれこれ考えてみることが大切だということだろう。

恐らく、カードにとっての一番の不運とは、「この世に生まれながら、結局は一度も使われずに存在を忘れられる」ことであろう。今回も、実際にデッキを作らなければ、このカードを使ったデッキを組むことはなかっただろう。

今後も、あの手この手で色々考えながら、様々なカードやデッキを紹介していければと思う。どうぞよろしく。

よかったらサポートして頂けると幸いです。MTGアリーナの活動などに充てたいと思います。