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マッサンのブロール構築記 ㊳トリックスター、オーコ

1.はじめに

2019年、ブロール界隈に衝撃が走る。
MTGアリーナで1vs1ブロールが正式なフォーマットとしてサポートされたのだ。

「これにより、今までよくわかっていなかったブロールというフォーマットが手軽に遊べるようになり、多くのプレイヤーがブロールという未開の原野に乗り込み、ユニークなデッキがいくつも開拓されるに違いない!」

まさにブロールというフォーマットの夜明け。誰もがそう信じていた。そう、皆が明るい未来を信じていたのだ。

…だが、サポート開始当時を知る人間は、皆口をそろえてこう語る。

「基本的にクリーチャー統率者は全部3/3緑のバニラ」
「どうしてプレインズウォーカーを統率者指定できるようにしたんですか」
「魔術遠眼鏡かえして」
「ゴロスとかウィノータが泣いて謝るレベル」
「(嘆願者まで搭載されているのを見て)なんで愛されることを忘れてしまったん 誰か手を差し伸べるべきやったんかコイツに(→参照 1:37:00あたり)」

そう、サポート開始と同時に、ブロールは恐慌状態に陥ってしまったのである。

なぜこうなってしまったのか。サポート開始と時を同じくしてリリースされた「エルドレインの王権」、この中に潜んでいた、たった1枚のカードが原因だった。

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《王冠泥棒、オーコ》

今更詳しい説明はいいだろう。+2能力で食物という名の延命装置兼クロックを生み出し、+1能力でありとあらゆるクリーチャーを鹿に変換し、-5能力でクリーチャーかアーティファクトのコントロールを交換できるプレインズウォーカー。まさしく令和を代表する、とんでもねえパワーカードであることは周知の事実であるだろう。

で、こいつが上の恐慌状態を引き起こした原因だが、もうお分かりだろう。

何でもかんでも鹿にする+1能力、これがマズかったのである。

ブロールは統率者を指定し、その統率者をうまく活かすデッキを皆が考え持ち込む環境である。その統率者をたった3マナで鹿にして封印できるこいつは、ブロールというゲームを根本から覆してしまうのである。

更にまずかったことに、ブロールはプレインズウォーカーも統率者として指定できる。つまり、オーコを統率者に指定して、初手に常駐させることも可能だったのだ。

「相手の統率者に対して常時にらみを利かせられる」
「そうでなくてもオーコと周りの食物シナジーカードをうまく使えば普通に勝てる」

そう判断したプレイヤーは多かったのだろう。結果、当時のブロールはかなりのプレイヤーがオーコを統率者に指定し、どこもかしこも鹿まみれになるという阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのだ。

で、暴れに暴れた結果、WotCが以下の声明を出すに至る。

ブロール
《王冠泥棒、オーコ》禁止

2019年11月18日、スタンダード及びブロールで禁止。残念だが当然の末路だろう。

彼がいなくなった後、ブロールは紆余曲折を経ながらも、様々なデッキが使われる、立派なフォーマットに成長したと思う。めでたしめでたしだ。

なおオーコはこの後、新設フォーマットのパイオニアでも出禁を食らい、更に、往年のパワーカードが横行するモダンにおいても使用不可になるという、自身のオーバースペックぶりを見せつけることとなるが、それはまた別の話である。

さて、このようにブロールに深い爪痕を刻みつけてしまったオーコくん。流石に今のブロール環境でこいつを統率者に指定して遊べない以上、当記事でもこのオーコを統率者にしてデッキを紹介はできないだろう。

だが、皆様知っているだろうか。《王冠泥棒、オーコ》が禁止されてなお、オーコを統率者として指定し、今のブロールを遊ぶことが可能なのである。

え?僕もあんなぶっ壊れプレインズウォーカーを使いたい?よし分かった。そんな坊やの願いを筆者がかなえてやろう。これだ。

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《トリックスター、オーコ》

オーコは「二枚」あったッ!!!

知らない人のために解説しよう!WotCは初心者プレイヤーのために、各エキスパンションで「プレインズウォーカーデッキ」という入門構築済みデッキを作って売っているのである!

そして、何を隠そうこの《トリックスター、オーコ》は、そんなプレインズウォーカーデッキに収録されたプレインズウォーカーなのだ!プレインズウォーカーデッキに収録されたカードは基本的にスタンダードで使用可能なので、禁止が出てない以上ブロールで使用可能というわけである!

今日はこちらの合法オーコでブロールに再び恐慌をまき散らしていこうと思…は?坊や、なんだって?「コレジャナイオーコ」

うるせえ坊主!これしか使えねえんだよ!甘えんな!

2.こいつで何が出来るのか

…失礼した。それではこのコレジャナイオーコでいったい何が出来るのか、能力を見てみよう。

《トリックスター、オーコ》
4GU
伝説のプレインズウォーカー ― - オーコ
初期忠誠度:4
+1:あなたがコントロールしているクリーチャー最大1体を対象とし、それの上に+1/+1カウンターを2個置く。
0:あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、トリックスター、オーコはそれのコピーになる。このターン、これに与えられるダメージをすべて軽減する。
−7:ターン終了時まで、あなたがコントロールしている各クリーチャーはそれぞれ、基本のパワーとタフネスが10/10になりトランプルを得る。

3マナでムチャクチャ出来たほうのオーコと異なり、こちらは6マナと少し重めの調整をされている。だが、肝心なのはその能力である。順にみていこう。

まず、+1能力で自分のコントロールしているクリーチャー1体の上に+1/+1カウンターを2個置くことが出来る。普通に考えてこれを連打しているだけで、自軍にいるクリーチャーを順次強化し、ぶん殴って勝つことが出来るだろう。

そして0能力だが、自分のコントロールしているクリーチャーのコピーに変身できる。この際、コピーしたオーコ側は一切のダメージを軽減できるというメリット能力も持っている。
なお、注意事項としてはオーコでコピーしても、コピー元の「場に出たときに○○する」能力は誘発しない点が挙げられる。これは当たり前っちゃ当たり前の話で、すでにオーコが場に出ているためである。

そして-7能力、通称「奥義」と呼ばれる能力では、なんと自軍クリーチャーを全て10/10トランプル持ちに変換できるという能力である。どんなに非力なクリーチャーでもこの能力さえあればあら不思議、簡単に人を殴殺できるムッキムキボディに早変わりである。

と、まとめてみたが…正直普通のスタンダードにいてもおかしくないスペックを持ったプレインズウォーカーである。通常、プレインズウォーカーデッキに収録されるプレインズウォーカーは、かなり低いスペックになるよう設定されているのだが、妙な話である。

まあ、レガシー、果てはヴィンテージ級のプレインズウォーカーが下方修正され、ようやくスタンダード構築で見かけるか見かけないかくらいのスペックになったと考えれば納得もできるだろう。

3.こいつでどうやって勝つのか

さて、オーコの特徴をまとめるとこうなるだろう。

・マナが6マナ
・忠誠度能力でクリーチャーを強化できる
・クリーチャーのコピーになれる

質の高いプレインズウォーカーなのは間違いない。しかし、まじめに運用する場合、各環境でやりたい放題暴れまわったほうのオーコと異なり、その6マナという大きなマナコストがネックとなる。

幸い、緑といえばマナを大量に出すことが得意なカラーである。マナクリーチャーや何やらかんやらで加速すれば早期着地も狙えるだろう。着地させれば自身の能力でマナクリーチャーの強化もできるのは偉い。

青緑でマナを伸ばしてデカブツを叩きつける。この戦術、身に覚えがある方も多いのではないだろうか?

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そう、青緑ランプである。

《成長のらせん》などに代表するマナ加速手段を利用し、土地を高速で並べ、早期に高マナの劇物を叩きつける戦術である。

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「マナをたくさん出す」という戦術は非常に柔軟性が高く、この青緑ランプを軸として、現在のスタンダードでは土地を伸ばして《荒野の再生》を使う「ティムール再生」であったり、盤面をコントロールできる呪文を大量に搭載した「バントランプ」「スゥルタイジャンク」だったり、様々なバリエーションが存在する。オーコ亡き今、青緑の顔といっても過言ではないデッキだろう。

オーコといえば環境の覇者。今でこそスタンダードやブロールでは見かけはしないものの、レガシーやヴィンテージで今なおその存在感を示している。このオーコもまた、先代オーコにならってブロールでその存在感を示していく必要があるだろう。

というわけで、今回のテーマを「現スタンダード環境の覇者と言ってもいい青緑ランプベースのデッキを使い、二代目オーコを襲名する」としよう。

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なお、実は過去にほぼ同じコンセプトで青緑のデッキを組んで紹介したことがあるが、あちらはマナ加速の主軸がマナクリーチャーであり、かつ勝負を決めに行く手段もクリーチャーに限定していた。こちらのオーコデッキはマナを増やす手段や勝ち筋はクリーチャーに限定していないのでご安心いただきたい。

要は環境に存在する高マナ域の劇物をありったけ突っ込んだ、キナン以上の激ヤバデッキと考えていただけられればOKだ。

4.どうやってデッキを組むか

それでは、どういう風に青緑ランプを組んでいくかを考えていこう。

1.マナ加速手段

まずは、とにかく序盤にマナをちゃんと稼いでいく必要がある。マナを増やす手段としては、先述したように「マナクリーチャーを使う」「土地を増やす」という手段が考えられる。ここでは、特に土地を伸ばしてマナを増やす手段を見ていきたい。

まずは、青緑ランプをデッキたらしめているこのカードからだ。

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《成長のらせん》
GU
インスタント
カードを1枚引く。あなたは、あなたの手札から土地・カード1枚を戦場に出してもよい。

もう散々いろんなところで目にしているであろうこのカード、もはや解説は不要だろう。要はカードを1枚引きながら土地を増やすことが出来るカードである。序盤に土地を伸ばすことが出来、かつ他のカードを引き込めるこのカードがあるからこそ、青緑ランプが活躍できるのは言うまでもない。あと、後半何を引いても強くなるランプデッキにおいて、ドローの価値はかなり高い。

お次は、「基本セット2021」で何故か再録されてしまったシリーズだ。まずはこのカードから紹介しよう。

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《耕作》
2G
ソーサリー
あなたのライブラリーから基本土地・カード最大2枚を探し、公開し、そのうち1枚をタップ状態で戦場に、他をあなたの手札に加える。その後、あなたのライブラリーを切り直す。

3マナで土地を伸ばしながら、更に手札に土地を1枚加えることが可能である。手札の土地がカツカツになっていても、2マナ分は担保されるグッド呪文だ。

本家統率者戦でも見かけることが多いこの呪文、なぜここまでランプが活躍している環境でこいつを再録したのかという話もあるが、使える呪文なので使ってやろう。

続いて、何故か再録されてしまったシリーズ二号機のこちら。

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《真面目な身代わり》
4
アーティファクト・クリーチャー ― - ゴーレム
2 / 2
真面目な身代わりが戦場に出たとき、あなたは「あなたのライブラリーから基本土地・カード1枚を探し、タップ状態で戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直す。」を選んでもよい。
真面目な身代わりが死亡したとき、あなたはカードを1枚引いてもよい。

場に出たときに土地を伸ばし、かつ死亡したときにカードを1枚引ける。無駄になるところが全くないクリーチャーだ。

先ほども言ったが、後半何を引いても強いランプデッキは、ドローの重要性が極めて高い。残念ながら、死亡しないことにはカードが引けないので、狙ったタイミングでカードが引けない可能性もあるのでそこは注意しよう。

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なおこのカード、古いプレイヤーには「ソーレン」の愛称でおなじみである。これはもともとこのカードがインビテーショナルカードという、「Jens Thoren」氏を模したイラストのカードであるためだ。よく《闇の腹心》がボブと呼ばれているのと同様の理由である。

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なお、普通のランプはこのように土地を増やすカードだけでマナ加速をどうにかするのだが、同じカードが使えないブロールでは、土地を増やす手段もかなり限定される。一応、ある程度はマナクリーチャーも入れておいた方がいいだろう。先に言った通り、オーコの+1能力の対象先としても利用できる。

2.マナを増やしてどうする?

さて、本題だ。当然だが、マナを増やすだけでは当然MTGというゲームは勝利できない。その注ぎ口をちゃんと用意してやる必要がある。以前の記事ではクリーチャーを中心に紹介したので、ここでは非クリーチャー呪文を中心に紹介しよう。

まずはこのカードからだ。

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《キオーラ、海神を打ち倒す》
5UU
エンチャント ― - 英雄譚
(この英雄譚が出た際とあなたのドロー・ステップの後に、伝承カウンターを1個加える。IIIの後に、生け贄に捧げる。)
I ― 呪禁を持つ青の8/8のクラーケン・クリーチャー・トークンを1体生成する。
II ― 対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールしていて土地でないパーマネントをすべてタップする。それらは、そのコントローラーの次のアンタップ・ステップにアンタップしない。
III ― 対戦相手がコントロールしているパーマネント1つを対象とし、それのコントロールを得る。それをアンタップする。

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8/8呪禁トークンを生成し、相手のパーマネントを全てタップ、オマケにコントロール奪取とやりたい放題の英雄譚である。ただ、置いてすぐに出来ることは8/8のトークン生成であり、コントロール奪取までは時間がかかることは注意しておこう。

お次は、マナをつぎこむだけお得になるこの呪文だ。

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《集団強制》
XXUUUU
ソーサリー
クリーチャーやプレインズウォーカー合わせてX体を対象とし、それらのコントロールを得る。

能力はいたって単純。払ったマナに応じたクリーチャーとプレインズウォーカーを一度に奪取することが出来る。普通に使うと6マナで1体、8マナで2体とちと要求されるマナ量が多いのだが、このデッキは冗談抜きで後半16マナ出てくることもザラである。有効に使えるだろう。

なお、ブロール、特に統率者戦の目線から話すと、クリーチャーの奪取は極めて価値が高い。どういうことかというと、相手の統率者を除去させること無く無力化できるからである。一度除去してしまうと再び統率領域に戻ってしまい、あわよくば再利用されてしまうこともあるため、除去できずに無力化できるこういう手段は用意して損はない。

最後に紹介するのは、「基本セット2021」で何故か再録されてしまったシリーズ三号機の彼である。

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《精霊龍、ウギン》
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伝説のプレインズウォーカー ― - ウギン
初期忠誠度:7
+2:クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。精霊龍、ウギンはそれに3点のダメージを与える。
-X:点数で見たマナ・コストがX以下の、1色以上の色を持つ各パーマネントをそれぞれ追放する。
-10:あなたは7点のライフを得てカードを7枚引く。その後、あなたの手札からパーマネント・カード最大7枚を戦場に出す。

説明不要。色々書いてあるが要は出せば速やかに相手が爆散すると書いてある、とんでもねえプレインズウォーカーである。

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また、以前の記事で紹介した《ハイドロイド混成体》など、マナをつぎこんだ分だけお得になるクリーチャーも採用してやろう。

5.サンプルデッキ

それではお見せしよう。こちらがオーコが二代目を襲名するために組んだデッキ、その名も「オー政復古の大号令」である。ガチョウや狼でオー政を強いた時代ははるか昔、我々は今こそオー道に立ち返るべきだろう。

当然、皆様にも襲名祝いとしてデッキリストをご用意させていただいた。是非ダウンロードして使ってほしい。

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(↑画像をクリックするとMTGGoldfishに飛びます。)

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スタンダードで活躍しているカードを片っ端から搭載した結果、デッキ内容的には二代目オーコを襲名できるような暴力の化身デッキが出来上がった。ありとあらゆる骨太呪文を投げつけ、相手を圧殺しろ!

…ただ、実はこのデッキ、ある問題を抱えている。あまりに周りを固める呪文が強力すぎるため、オーコのカードパワーが相対的に低くなり、結果、「別にオーコを出さなくても勝てる」という状況に陥ることが多くなった。

「とりあえず色を合わせるために適当に入れた統率者」、これを業界用語で「カラーマーカー」という。まあ要は「仕事の邪魔だからいつもどおり(統率領域で)座ってて」という立ち位置なのだが、まさに今のオーコがこの立ち位置なのだ。この記事は統率者をどういう風に活かすかを模索するものである。こりゃ流石にマズいだろう。

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とりあえず色々考えてみたが、現状は0能力をうまく活用させる方法が一番よさそうだ。例えば上の《茨のマンモス》と組み合わせれば、オーコがマンモスに化けたうえでマンモスの格闘能力を利用できる。オマケにオーコに化けたほうのマンモスはダメージが入らないので、手元に出せるクリーチャーがあれば気兼ねなくクリーチャーを破壊し続けられる。

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他には、《長老ガーガロス》と組み合わせ、ダメージを全部軽減する前提で殴りつけ、ガーガロスの能力を誘発させることも考えていいだろう。両方殴れば能力が二倍誘発する。

また、ガーガロスは速攻を持っていないことがネックだったが、先にオーコが場にいればオーコで変身して疑似的な速攻持ちとして運用できることも大きい。

6.おわりに

今回はあまり使わなれないような初心者用のデッキに入っていたカードを利用し、ブロールのデッキを組んでみた。

まあ正直周りのカードがあまりに強力すぎる節はあるのだが、普通に回るし普通に遊べるデッキが仕上がったと考えている。プレインズウォーカーを統率者に指定できることの是非は以前から言われていることではあるが、これくらいの強さなら問題ないのではないのだろうか。

昨今のスタンダード、賛否両論はあるが極めて刺激的なカードが多く、これほど強力なカードが使えるブロールもなかなかないだろう。あくまで個人的な感想だが、恐らく今ほど刺激に満ちた環境はあまりないと思う。是非画面の前の皆様も、この機会にブロールを遊んでみてはいかがだろうか?


ちなみに初代オーコの方だが、本家統率者戦では使用可能である。元気に人様の統率者を鹿にしてとんでもない反感を買っている様がたまにSNSで流れてくるのを見ると、十分活躍できているみたいである。

青と緑というカラーリングは本家統率者戦でも非常に人気が高いため、今日もどこかで食い物を出したり、人様のマナアーティファクトや統率者を鹿にしていることに違いない。彼の今後の活躍に期待しよう。

よかったらサポートして頂けると幸いです。MTGアリーナの活動などに充てたいと思います。