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鎌倉投信・江口さんとの対話から~KSAP Dialogue Night #2~ Q&Aセッション

アクセスいただきありがとうございます!
NPO、VC、自分の合同会社の三足の草鞋で活動してる田中成幸(たなかまさゆき)です。

私は普段NPOのプロジェクトマネジメントや、ベンチャーやスタートアップの伴走支援や、政府や自治体の調査研究や実行支援、社会課題に取り組む個人コーチングなどの仕事をしています。

さて、今日のエントリは前回のエントリの続きです。
KSAP(かながわスタートアップアクセラレーションプログラム)のイベント「ダイアログナイト#2」においでいただいた鎌倉投信投資事業部長の江口さんとのQ&Aセッションの内容を紹介していきます。

前回エントリ(江口さんキーノートパート)を御覧になりたい方はこちらから☟

当日参加された起業家からの様々な質問への応答内容もまた社会課題に取り組む起業家の方々にとって有益な情報がたくさん含まれているように思います。お役に立てば幸いです。

質問が結構多いので、目次から興味のあるものをピックアップしていただければと思いますし、全部通しで読んでいただいても嬉しいです。「いいね」していただければさらに嬉しいですw

鎌倉投信が出資するラウンドとは

Q:鎌倉投信はベンチャー・スタートアップへの出資をされているということですが、出資するステージはシード期、SeriesA・Bといった初期よりもレイターフェーズになることが多いでしょうか。

A:アーリーフェーズから入る事も多い。逆にレイターから出資するのが難しくなるケースもある。市場全体としてお金が余っているので、後から入っていけない。

アーリーフェーズから出資することの良さは、その後出資先(の事業が)どのような展開になっても対応できること。
レイターから入ると、事業が引き返せない所まできてしまっていて、ピボットやスイッチといった意思決定を下すのが難しくなる。

早期のフェーズでの出資する際のポイント

Q:シード期、アーリー期のベンチャー・スタートアップへの出資を検討される際に注視する点はありますか。

ベンチャー・スタートアップのシード期・アーリー期のビジネスモデルは”ふにゃふにゃ”である。
ビジネスモデルが利益を生み出す構造かどうか、という視点以外に、起業家(チーム)が諦めないか、嘘をつかないか、ということを見ている。
”やりぬく力”がある経営者がいる方が結果的に事業が失敗するリスクは低まる。
投資したけどうまくいかなかった、でも次頑張ります!ということでも、次のトライでファイナンスが付けば問題はない。

ファンドの償還期限について

Q:ファンドの償還期限は設定しているのですか

1号ファンドはオーソドックスに10年を償還期間としていたが、その後期間を延長している。
2号ファンド(創発の莟)は償還期限は無償還。
償還期限を設定していない理由を出資者にしっかり説明することが重要。

出資先へのコミットメントについて

Q:出資先の企業に対する姿勢として、ハンズオン的な関わりをしてもらえるというイメージを持っていますが、どうでしょうか。

その通りだが、出資先の経営者のタイプにもよる。
こちらからの働きかけが多いとリズムを崩してしまうタイプの経営者もいるし、そのような場合はコミュニケーションの在り方は当然アレンジする。

バリュエーションの方針について

Q:起業家サイドは自社のバリュエーションを高くしたいという欲求がある。鎌倉投信として、バリュエーションに関する考えや方針はありますか。

スタートアップ側がバリュエーションを高くしたいという気持ちを持つことは理解できる。一方、投資家はバリュエーションを低く見積もりたいので、そこで折り合いがつかない事は多くあると思う。

鎌倉投信の場合はその点あまりこだわらない。出資先の言い値で出資するということはもちろんないが。値切らずにむしろ出資額を上げるという判断をくだすこともある。

普通のVCであれば数年のところを、鎌倉投信はもっと長い目線で、社会を良くするプロセスについて考えながら値付けをする。出資額の数億円の違いよりも、将来的に1,000~2,000億円の時価がつくような事業を見つけることが重要。

中長期的な取組が重要な事業へ出資する際の視点

Q:投資先にバイオームのような、中長期にわたってデータを蓄積することで事業性が出てくるような事業者への出資もされていますが、そういった事業に投資する際の経緯やポイントはありますか。

データを集めるときのストーリーを重視している。
バイオームで言えば、小さな虫や花への関心があり、それが撮影というアクションになり、データが蓄積されていく、という展開がユニーク。
小さな生き物への関心を持たないと社会は変わらない。同時にそういった関心から生まれたデータは企業が買わざるを得ないデータでもある。

これまでは企業活動が自然環境を破壊する方向で営まれてきたが、これからはそのやり方ではダメ、というのがルールになってきている。そういうところまで見据えると、企業はデータを購入せざるを得ないし、だからこそ出資する価値があると考える。

データを蓄積して価値を生み出していくような事業はたくさんあるが、膨大なデータがあっても意味がないというものも多い。価値を生むデータを集められるかどうかが重要。

バイオームが取り扱うデータは撮影データだが、そのデータには位置情報と時間に関するデータが入っている。これらのデータを活用すれば現地の天候もわかる。
そんなデータが一日1万件集まると、どのような価値があるのか、それを認めてくれる人は誰なのかを考える。認めてくれる相手が誰なのかを描き切れるとバリュエーションが出てくる。

投資ポジションの差別化

Q:様々な投資家がいる中で、鎌倉投信のポジショニングはどこがユニークだとお考えでしょうか。どのようなポジショニングがあり得るのでしょうか。

VCや機関投資家はたくさんいるが、どういう方針で投資をしているのかを明示しているところは実は多くない。
前職で数十億円の調達をした時、日本の隅々のVCに説明をしてまわった。いろいろと説明した後に言われたのが「ちょっと投資できませんね」という言葉だけで、なぜ投資しなかったのか、そこにはどんな方針があったのか、ということを示してくれることはあまり無かった。
まずは方針を示そうということで、鎌倉投信はオープン性を重視している。この姿勢の違いだけでも、投資家としての差別化になっていると思う。

方針を示すことで、鎌倉投信の考え方がインパクト投資とも違うし、ESG投資とも違うことを示していく。そういうポジションを常にとっていくことが鎌倉投信にとっては重要と考える。

社会性と経済性の2つの軸のどちらを重視するかと言われれば、圧倒的に前者。その立場でもリターンは出していくが、リターンはコントロールできるかどうかを重視している。

結は一般家庭の主婦の方が出資してくれるような投資商品を扱っているので、リターンは4%、リスクは上下10%で設定している。これをコントロールするのが非常に難しい。

文化への投資について

Q:社会課題として文化に関わるものがあると思いますが、そういった取り組みに対する投資というのはまだまだ盛んではない印象があります。文化の保護、持続させる仕組みをつくることができるでしょうか。

一昔前は国の文化は将軍だとかそういった人が庇護していた。その後、時代が進んでからは、お金持ちが文化の支え手だった。
しかし今の時代はそうはいかない。我々ひとり一人がどうするかを考える必要がある。
インバウンドにも可能性を感じている。インバウンドで入ってきた人が、京都や鎌倉以外のメジャーな場所以外のところにどう目を向けてもらえるかが重要。

鎌倉でも古民家再生をやっているが、お金がかかる。
ではどうやって古民家再生や維持を考えればよいかと言うと、山梨にルーフという会社があって参考になる。
この会社は古民家再生して一棟貸しする事業を展開している。このような工夫をすると、泊まりに来る人が出てくる。

インバウンドでいうと、リピーター訪日客の人たちをメジャーではないところにどうやって案内していくかを考えることが重要。
調査によれば、台湾の3割の人が日本に10回以上くるというデータがある。また、香港も20%の人が同様とのこと。

10回以上も来ていると、行きたい所は無くなってくる。
そうなるとどこまで文化をたしなむか、という話になってくる。
こちらの価値観や文化をそのまま提供するのではなく、その人たちの価値観に合わせていかなかなければならない部分もある。
ふたつをアジャストする力が重要。文化としても歩み寄りが必要。そこをどうビジネスにしていくかを考えなければならない。

非営利組織への資金の提供について

Q:広告会社を運営する傍ら、一般社団法人も持っています。社会課題に取り組む主体としてNPOや社団法人がいるが、資金が集まらない構造がある。VCとして資金を投入することは考えられますか。

基本考えていない。理由としては持続性が無いことが挙げられる。
事業モデルとして永続性、持続性が見込めるのであれば問題ないが、助成金や補助に依存する事業である時点でインパクトは期待できない。
逆に言えば、一緒に肩を組んでやれるような状態にしていくことも重要。

運用期間終了後について

Q:ファンドの運用期間が終了したら、持っていた出資先の株式はどうするのですか?

最も大事なことは、自分たちがホールドできない時にどうするか、誰に持ってもらうのかを予め決めておくこと。
持ってもらうのであれば、そこにしっかりパスしたい。
鎌倉投信は上場企業にも出資しているので、そういった企業のネットワークを持っている。その中でシナジーがある企業に受け取ってもらうというのは一つの方法。

もう一つはコミュニティ。たとえば、出資先の株式を社員に持ってもらうのも一つの方法だと考えている。あるいは取引先に持ってもらうということも可能。

個人的に気になったやり取り:資本主義と永続性のハナシ

Q&Aセッションでは、質問の本筋から離れた所のハナシもいくつかでたのですが、個人的には江口さんの以下の発言が印象的でした。

世界にはたくさん機関投資家がいて、中には資本主義の権化みたいな人もいる。
国の年金をベースにしたファンドなどは、本当に莫大なお金を扱っているが、預かっているのが国民の年金なので損切れない。だから彼らはトヨタがつぶれても痛くもかゆくもないポートフォリオを組む。
一方で、気候変動やネイチャーポジティブなテーマなど、50年後のリスクが取れない問題が出てきたので、機関投資家が企業にそういったテーマに対応するように命令している。対応しないと出資しないよ、と言っている。
今まで資本主義経済の中でCO2を大量に排出するような環境破壊を行ってきたが、これからは資本主義で壊してしまったものを資本主義で治すという流れが来ているのではないか。

成長と持続可能性の両立を目指していったときに、既存のベンチャー・スタートアップのエコシステムが至上としてき事業モデルがどう変わっていくのか。今回の江口さんとのセッションでは、そのあたりの一つの可能性・シナリオを見せてもらえたなあと思います。

さて、KSAPのダイアログナイトはまだまだ続きます。
次回はまさに持続可能性ど真ん中・ゼロボードの渡慶次さんが登壇@みなとみらい、です!ふるってご参加ください。

ダイアログナイトは残り3回、各回ともにゲストの方の顔触れが(自分で言うのもなんですが)素晴らしい!です。会場でお会いできることを楽しみにしています。

では、今回もお読みいただきありがとうございました!
最後に本エントリー「スキ」マークぽちっと押下いただけると嬉しいです!

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