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イケメンが僕をカメラマンにしてくれた。



ささやかな願望として、イケメンはすべからく爆発するべきだと思っている。

学生時代、先輩のKさんに「見た目は才能だ。俺たちみたいなのはその手の才能が無いのだから他で目立つしかないんだよマスダ」と言われた。

「俺たちみたいなの」呼ばわりされたことは特に気にならなかった。実際、イケメンであることは自分には無い才能だ。さすが先輩はいいこと言うな、と若い僕は感心した。僕が買って僕がおだいどころに置いてるウイスキーを勝手に飲むKさんのことを、ろくでなしだなぁとも思った。

Kさんは人の酒を勝手に飲むろくでなしだったがドラムがとても上手かった。そのときも鉛筆2本でウイスキーの瓶を叩きながらシャーラタンズのドラムを軽々と再現していた。何も無い僕からしたらそれだけでも充分恵まれて見えた。

中学時代にハマって以来、実家に置きっぱなしにしていた一眼レフカメラを一人暮らしのアパートに持ち帰ってきたのはその頃だ。スマホはおろか携帯電話すら普及しておらず、カメラを持ってるだけで「特技は写真です」と言える時代だ。特別な何者かになりたい一心だったのだろう。ありがちな思いだ。

その、ありがちな思いに引っ張られて20年以上が経った。さすがに20年を越えると「長く続けててすごいね」と言われることがあるが、すごいことなど何も無い。カメラマンで無くなると何物にもなれなくなるという焦燥が根底にあるだけだ。

フリーになって10年目くらいの時期に、大口の取引先を失った。これが結構キツくて、調子よく稼いでいた収入が一気に7割ほど減った。さすがに後ろ向きな気持ちになった。

そんな時期に披露宴撮影の御依頼を頂いた。披露宴中、新郎新婦手作りのプロフィールムービーが流れた。ムービーの中で花嫁さんが「今日の撮影は世界一のカメラマン・マスダさん!」と僕を紹介してくれた。

ありがたくて涙が出そうになった。お得意様を失い世界一はおろか福岡市中央区1にもなれてはいない当時の僕だったが、披露宴が行われている数時間だけは世界一でありたいと強く思った。

その思いは常に持つようにしている。特別な何者かになりたいという気持ちが僕を鍛えてくれる。コンプレックスも付き合い方次第ということだろう。そしてイケメンはとっとと爆発すればよい。




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