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Poetry Lab

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むかし遊びで書いた詩を、ちょっと恥ずかしいのですが時々載せています。あまり気にしないで下さい。
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「満ち潮」

「満ち潮」

心が壊れた夜には
甘い砂糖菓子をたべて
満ちてくる潮におぼれる
飽和した呵責を中和するために

街の背骨の上に
赤い月が浮かんで
海面を引っ張ると
臓器の底の湿った井戸に
昏い水が満ちる

産道を通って
脚のあいだに広がる海に
いとけない言葉たちが放たれて
波間にただよう
無音のままで

潮の濃度と釣り合うだけの
甘さに浸って
喉の奥へと叫びを押し戻す
この残酷な世界に
留まり続けるために

「寓 話」

「寓 話」

(それは罰でしょうか
それともただの汚辱でしょうか・・・・・・)

樹の幹につと掛けられた梯子に登ったのは
愚かさでしょうか
それとも下卑た好奇心でしょうか
いえいえ
それはほかならぬ
あなた(でありわたし)です

暗い森の樹々の梢に
白く清らかな月が懸かり          
あなたの胸をきつく締めつけた
けれども樹々は意地悪くも
空を覆い隠してしまったのです
白い光が欲しくてあなたは
だから樹

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「端 末」

「端 末」

反転された文字列から入口を探す
隠された仮想領域のことばを狩りに
ほの白い闇に明滅する極小級数の記号は
ところどころ渦を巻いてわたしを惑わせる
黒色星雲の配置にならい なぞるカーソル
の上に立ち現れる闇

変換されるものと されないものの間で
蠢いている見えざる手の記憶
投影された形をさぐる端末の上に
おぼろげに凝固していく死人の輪郭
蒼白の顔面に針を突きたて
開閉動作を不規則に繰り返しながら

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「砂 景」

「砂 景」

  浅瀬に人影がうかんでいた
  ゆらゆらと動いているのは髪の毛ばかりで
  まだ生きていた父とふたり
  はるか野の際をいく船に手を振り
  斜面の草をゆらす風に
  白い花びらをちぎっては散らした
  
  別れのはじまりはこんなにも唐突で  
  わたしはふいに折り重なっていく予感に
  編みあげた冠をかぶることも忘れて
  鈍色の裂け目にのまれるように遠ざかる
  父の

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「色街 幻想」

「色街 幻想」

   

   五月の青い闇のなか

   私はかぼそい少年になり

   夢の迷路へ踏み入った

   

   白いうなじに風を受け

   はだしの足で土を蹴り

   煙る街頭はすに見て

   ネオン流れる色街へ

   着いた路地にはカツカツと

   商売女の靴の音

   闇に隠れて覗き見る

   色めく世界の艶やかさ

    (おいでな坊や 姐さんの

     胸の谷間でお

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「風を忘れた君へ」

「風を忘れた君へ」

 

 世界の片隅で生まれた風は
 猫柳の枝を揺らし
 水辺に群がる蝶の触手を掠め
 乾いた轍の上を砂塵を巻き上げながら
 叫びと響きを翼にのせて
 つむじとなって舞い上がる
 鋭いまでの切っ先で遥かな高みに挑みかかり
 打ち破れうなだれた幼い風は
 地を慕うように吹き戻り、棕櫚の梢へ
 やがて閉ざされた窓へと――

 君には風が見えないか
 生まれたばかりの清新の息吹を
 その頬に感じないか
 

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