詩の実験室1

「寓 話」

(それは罰でしょうか
それともただの汚辱でしょうか・・・・・・)

樹の幹につと掛けられた梯子に登ったのは
愚かさでしょうか
それとも下卑た好奇心でしょうか
いえいえ
それはほかならぬ
あなた(でありわたし)です

暗い森の樹々の梢に
白く清らかな月が懸かり          
あなたの胸をきつく締めつけた
けれども樹々は意地悪くも
空を覆い隠してしまったのです
白い光が欲しくてあなたは
だから樹に登った
それは遠い昔から遺伝子に刻まれていた
未来への希求というものでした
未曽有のみらい
を掴むためにあなたは
樹に登った

それは進化でしたか
それとも恐ろしい罠だったのでしょうか

森影にはツノのある蛇が潜んでいます
蛇は虚ろな目で空を見上げて
先の割れた舌で空気の臭いを嗅ぎながら
自分の尻尾を追いかけます
どこまでも追い続けます
永遠に
蛇の行く先は どのみち蛇なのでした

折りしも石化した森の上を
夜の黒い翼が覆いはじめる
花々は闇の中に息を潜め
森の王の降臨を待ち続けます
いえ
もしかすると花々が待っているのは
王の退位かもしれない
暗い森の王の名は 
忘却
王に触れられたものは皆
その名前さえ忘れるのです
永遠に

いま
あなたの足元から梯子が外されていきます
ああ外されたら あなたは
樹の上で一人ぼっちです
サルは樹に登った
そしてあなたはヒトになったのです

(あれはやっぱり汚辱でしょうか)

はてさて あなたの選択した未来の図は
暗いのでしょうか
それとも明るいのでしょうか

答えはここには

 
ない



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