ますく555

小説書きです(アマチュア)。ケアラーでもあります。北海道在住で1977年生まれの男性。…

ますく555

小説書きです(アマチュア)。ケアラーでもあります。北海道在住で1977年生まれの男性。創作大賞2022・一次選考通過。

最近の記事

『孤独の科学』から学ぶ。(長文書評・読書感想)

『孤独の科学 人はなぜ寂しくなるのか』(河出文庫) ジョン・T・カシオポ / ウィリアム・パトリック 著 柴田裕之 訳 河出書房新社 / 2018年2月3日発売 孤独感・孤立感には、高血圧や運動不足、喫煙などと同じくらいの健康リスクがあると言われています。本書はそういったステージからさらに深掘りした知見を教えてくれる良書でした。400ページ超の分量があります。 孤独感は、それを感じやすい人と感じにくい人がおり、また、感じた孤独への耐性では、強い人と弱い人がいます。これらは

    • あとがきとして。(『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』)

       本作は、2023年5月15日から設定などを作り始め、執筆に移り、推敲を終え完成したのが9月15日でした。あしかけ4か月の仕事です。  その間、家庭問題の説明資料づくりにあらたな1万字を書き、何度か役所などとの面談もありましたし、今思えば笑ってしまいますが国際ロマンス詐欺に10日前後巻き込まれてもいました。例年以上に暑かった夏にはパート労働をしましたが、やっぱり家庭が落ち着かないなかでは続けていくのがむずしく、1週間ほどでリタイアしました。体調面ではずっと胃薬を手放せなかっ

      • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第五話(完結)

                  *    毎夜の悪夢のその途中で目が覚めた。罪の意識そのものよりも、この罪を隠し通さねばらないその重苦しさが堪えた。罪を贖うために、自分のこれからの人生の自由を放棄することにこそ耐えられない。だから、罪を告白して裁かれるか、無理をしてでも逃れ続けるか、という選択肢に、前者を選ぶなんてできないのだった。目が覚めると、罪の気配はすうっと去っていく。そのちろちろとうごめく尻尾の先だけは少しだけ確認できるくらいにして。だが今回はそれとは別に、こちらへ押し寄せてくる

        • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第四話

                   *  そんな出来事のあった日の夜でも、意識を席巻するあの夢は容赦なかった。僕は人を殺めてしまった想いに、やはり苛(さいな)んでいた。無条件にそんな夢の中へと放り込まれる。  自分が罪を犯したときの記憶はなかった。具体的に思い出せることはなにも無いのだ。にもかかわらず、自責の念と、取り返しのつかないことをしたという想いだけが胸に充満し、全身を脱力させる。  将来への希望は塵となり風のひと吹きで消え去ってしまう。そのあとすぐに無風状態の時間が訪れるのだけれど、

        『孤独の科学』から学ぶ。(長文書評・読書感想)

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第三話

           車中ではまず、牧さんと自己紹介をしあった。牧さんは一月に六十九歳になり、仕事は数年前までコンビニのオーナー兼店長を務めていたそうだ。もともと自営業だった自分の小さな酒屋を二十数年前にフランチャイズのコンビニにし、今は息子夫婦に経営を譲っているのだ、と。顔なじみの客の多いまずまず安定した利益の出ている店で、このご時世でも安泰なほうらしい。自己紹介が僕の番になり、スーパーの従業員をやっていることを教えると、同じ商売だね、と牧さんの顔はほころんでいた。  何年目なんですか? と聞

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第三話

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第二話

                    *  夕飯はとうに済み、両親と三人分の食器洗いを終えて風呂にも入り、上りしなの風呂掃除もやり終えて、Tシャツと下着という恰好で自室の布団に寝そべっていた。  かつて、どれだけの闇を知っているか、で他人と張り合おうとしていた時期があった。スマホのニュースアプリの画面を眺めながら、それとはまったく関係なく大学生の頃を思い出していた。悪友というべき二人の男と僕はつるんでいて、彼らとだけは張り合っていたのだ。彼らはその後、どのような人間になっただろうか。  それ

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第二話

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第一話

           晴れ渡り、空気の澄んだすばらしい朝でも、今日一日つまづくことはない、と約束されたわけではない。  坪野老人に呼び止められて、しまった、の心の声が顔に出てしまった。振り向く自分の右頬が軽く引き攣ったのだ。たぶんまた昔のことを尋ねられてしまう。  正直に話すとややこしくなる僕の暗部を、どうやら坪野さんはその憎たらしい嗅覚で探り当てているらしかった。きまって気安く、好奇心だけでずいずいと踏み込んでくるのが坪野さんだ。僕という藪に蛇はいない、とあっさり決めつけているかのように。  

          『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第一話

          文學界新人賞落選

          やっと『文學界4月号』を確認し、新人賞に落選していることを確かめました。 自分の時間を強引なまでにつくりながら取り組んできた一年でしたので、やっぱりその残念さはどんよりと重いです。 応募作『陽だまりのこちら、暗がりのとなり 』については、分割してアップしていきます。 Wordで46587文字の分量なので、5分割になります。落選作ですが、読んでくださるとうれしいです。 それでは、またのちほど。

          文學界新人賞落選

          自己犠牲試論。

          昨日とあるサイトで、齋藤飛鳥さんが自己犠牲について語っているインタビューを読んだことがきっかけで、それからずっと自己犠牲について考えていた。元乃木坂46の齋藤飛鳥さんは、大江健三郎や阿部公房などの骨太な純文学作品を読み倒すような方だ。もちろん、主なお仕事としての多忙なアイドルグループ活動の経験をお持ちだし、彼女だからこその色濃い精神活動をなされてきた方だろうなあ、という印象を僕は持っている。 自己犠牲。他者のために、自らの時間や命など、自分にとって大切なものを相手に捧げるよ

          自己犠牲試論。

          【エッセイ】もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)の案

          誹謗中傷の投稿、いじわるな投稿、攻撃性が強い投稿、追いつめる投稿などなど、SNSにはダークな面がある。 もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)を望む人がどうやら多いようなので、雑ではあるけれどアイデアだけ言ってみる。 上位Xをまず作る。そこは、下位X(今のX)でたとえば5000ツイート以上した人のツイートをAIが分析して合格したら登録できる場所。AIには誹謗中傷や暴力的なポストはないかだとか考慮してもらう。ポスト削除数の多寡も大切な要素だ。下位から上位にあがるためのAI診断

          【エッセイ】もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)の案

          【エッセイ】ネットアングラ体験記 in 2000

          遠い昔。この国の遥か果ての大きな都市、札幌の地で。 学生の頃、高価だったグラフィックソフトなどのソフトウェアがネットで拾えてなおかつそのシリアルナンバーも手に入れられた。アングラだったのだろう。中には、使ってみるとちょっと不具合のあるソフトもあった。今思うと、提供側がなにかをいじっていたのかな、と思う。2000年前後の時代だ。 僕のアングラ体験。きっかけはこうだった。当時僕が夢中だったアイドル・Mを、同様に好きな人とネットで知り合い、その人がそのアイドル・Mのファンサイト

          【エッセイ】ネットアングラ体験記 in 2000

          【エッセイ】「答えを創ろう!」

          身近な人に、これから述べるような感じの人がいるから考えた。 「物事には正解がある」という考え方でいると、答えが見つからないときに、「誰かが正解を知っていて、そういう人と出会えば正解を教えてもらえる」というような態度になりがちだ。たとえば「人生」なんていう難しい問題に対してもそうで、誰かに教えてもらえないと、「答えがないから考えても無駄なんだ」となるときだってある。 「誰も教えてくれないし、正解が存在しないようだから考えても無駄なんだ」なんて考えは、キツい言い方かもしれない

          【エッセイ】「答えを創ろう!」

          【エッセイ】いろいろと考えてしまう人には旅がいい。

          平均的な人よりも、いろいろと考えてしまう人。他の人は10個考えている程度なのに、自分は15個考えていて、他の人はそのうちの1個についてひとつかふたつかの可能性を考えているところ、自分はよっつもいつつも可能性が思いつき想像できている、そういう人は物事を決断するのにエネルギーがとても要る。 頭が良くて思慮深いところがあるってことなんだけど、そういう人って、状況の複雑さがほんとうにきちんと見えてしまっていて、だから、決断がしにくい。けっして決断力がないわけじゃない。そこを無理に決

          【エッセイ】いろいろと考えてしまう人には旅がいい。

          【軽めの論考】手持ちの札でやっていきませんか。

          プラトンの『ゴルギアス』をこのあいだ読んでいてびっくりしたのですが、「手持ちの札でとにかくやるしかないんだから、それで精一杯やるんだ」っていう考え方が古代ギリシャの時代にはあったと、その時代に生きた主人公のソクラテスが話していました。 手持ちの札がしょうもなくても、それで頑張るしかないんだ、っていう人生訓について僕は、10年前後前になりますが、東野圭吾さんの小説で知ったのがたぶん初めてで、なるほどその通りだなあ、と膝を打ったのを覚えています。しかし、古代ギリシャの時代からあ

          【軽めの論考】手持ちの札でやっていきませんか。

          ぜひ教えたい本、五選。(書評・読書感想2023下半期)

          2023年下半期も、いろいろな本を読みました。読了数は30冊です。その中から、「ぜひ、みなさんにお教えしたい5冊」を、上半期と同形式でご紹介します。今後の本選びのご参考になれば幸いです。また、ふつうの読みものとして楽しんでいただいてもうれしいです。それでは、ネタバレ前提の感想・書評になっていますのでご注意を。 いきますよー! 『日本人の美意識』 (中公文庫) ドナルド・キーン 中央公論新社 / 1999年4月18日発売 日本文学・日本文化の研究で名高い著者の代表作。論説

          ぜひ教えたい本、五選。(書評・読書感想2023下半期)

          『死をめぐる、悲しみとまやかしの午後』(43枚)

           古河蒼太郎が死んだことを、岡島賢人は悲しんだ。あまりに突然だった彼の死の報せは、賢人に大きな途惑いを覚えさせ、やがてあるひとつの考え事に深く沈み込ませていった。    *    息を吸うと鼻の穴の中が凍てついてくる。それは、それほど寒さの冴え渡った夜半近くだった。横断歩道を渡りはじめてすぐだったらしい。歩行者である蒼太郎を確認せずに左折してきた乗用車に彼は轢かれたのだ。横断歩道は無人のはずだ、とそれが当たり前だというように決めつけたドライバーは一時停止をせず、アクセルを踏

          『死をめぐる、悲しみとまやかしの午後』(43枚)