Glyph Hack - 網膜投影ヘッドセットを改造した話
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Glyph Hack - 網膜投影ヘッドセットを改造した話

(この投稿の内容は、100% 個人的な趣味で、会社の事業とは一切関係ありません)

最近、元月刊アスキー編集長の遠藤諭さんが、こんなツイートをされていました。

また、その直後にGOROmanさんもこんなツイートを。

お二人が使っているのは米Avegant社の開発した Glyph というヘッドセットです。明るく鮮明な網膜投影が特徴で、すでに5年以上前に発売されたものです。Glyphは大変すぐれたパフォーマンスを持つヘッドセットですが、大型の密閉型ヘッドフォンで頭部を挟み込んで固定する方式のため、重く、屋外で歩きながら使ったりするのは危険が伴います。

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僕は初期のKickstarterの頃からの長年の愛用者ですが、いつしか、Glyphを分解し、自分に必要な部分のみを使って再構築し軽量化できないか、という考えに至りました。GOROmanさんも耳あての部分を外していますね。

思いついて改造したのは、実は1年半以上前の2018年の冬。まずは自分で分解に挑戦しましたが、Glyphは想像した以上に分解しずらい構造をしていました。そこで、子供時代から様々な機械を分解するのが好きだった、という Niantic Tokyo Studio のエンジニア 川平くんに助けを求めました。ルンバなども届いたそばからとりあえず分解するという川平くんは瓶詰(瓶詰堂)の通り名で知られ、Androidアプリ、ニコニコPlayer(仮)の作者でもあります。彼は、本職で忙しいにもかかわらず、ちょっと見てみましょうか、ただし元に戻せる保証はありませんよ(微笑)と快く引き受けてくれました。

数日後、川平くんの「ちょっと見てみる」の凄さに驚愕しました。彼は分解に成功し必要部品の抽出に成功しただけでなく、3Dプリンタでそれを納めるコンテナまで見事に自作していたのです。設計、デザインまでしています。なんということでしょう…!

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興奮した僕は川平くんにもうひとつリクエストしてしまいました。

「これをね、帽子のツバにくっつけるようにできないかな…」

メガネ型のヘッドマウントディスプレイは、厚みや長さなど些細なデザイン上の違和感が注目されやすく、目立ちがちです。ヘルメット型などのも模索されていますが、携帯性やコミュニケーションに難があり、日常使いは難しそうです。
そこで、帽子です。誰もが街なかでかぶっていますし、デザインも豊富で、多少奇抜でも、そういうものかも、と思わせる違和感の包容力があります。川平くんは、週末を使ってマジックテープでつばの下に付けられるコンテナを3Dプリントしてくれました。帽子のツバの微妙なカーブに完璧にフィットする匠の仕事です。(作成の様子がブログでデータと共に公開されています

そうしてできたのが、この Alt Glyph です。

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重さはツバの下の投影部が83グラム、後頭部に配した入力部が75グラムと、非常に軽いです。Magic Leapが325グラム、OculusGOが468グラム、Hololensが597グラムといったらその軽さが伝わるでしょうか。Oculusの創業者のParmar Lucky が OculusGOの軽量化ハックをしていましたが、それでも280グラムです。

投影部と入力部に分かれているので、帽子の前後につけると重量が分散してバランスし、もはや付けていることを忘れるレベルです。

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人間の脳は、帽子、特にどこでも見かける地味なスポーツキャップは、その周辺の影情報も含めて「帽子」とおおざっぱに認識されやすいです。網膜に写っていても、存在が認識されないわけです。例えば下の動画で、白い服を着た人が何回ボールをパスしたかをカウントする認知テストに挑戦してみてください。

これは「The Invisible Gorilla(見えないゴリラ)」という書籍に登場する有名な効果で、わかっている人にはそこにあることが明らかなのにもかかわらず、他の部分に注意が向いている人には認識されなくなるわけです。帽子のツバの下はもともと影になる部分でもあります。これを踏まえて、下の、僕が Alt Glyph を使ってリモートワークしている動画を見てみてください。

帽子の影っぽく見えたりしませんか。この記事を知らなければ、特に注意を引かないレベルかもしれません。確かめるため、僕はこれをつけて警官の前を3度ほど通ってみて、不審者として職質されないか実験してみました。こんな格好です。

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一度も職質されず、道を歩いていても誰も注意を払わないし、奇異の目でも見られませんでした。(ちなみにこれが、昨年末の XR Kaigi の基調講演で話したエピソードです)

歩いてくる様子は、動画だとこんな感じになります。すれ違うくらいだとどうでしょう? ちなみに、手に持っているのはリングマウスで、これを使って動画の再生や停止などの簡単な操作はポケットの中からでもできます。

カフェで仕事するときは、Bluetoothキーボードとマウスをテーブルに置けばそれで仕事できるので場所を取りません。手元は見えるので、コーヒーをこぼす心配もありません。

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飛行機の中でもつけてみました。隣の人やキャビンアテンダントにスクリーンを見られる心配もなく、安心して作業できます。照明が落とされている時は、ラップトップスクリーンの明るさが周囲の迷惑になっているように感じる時がありますが、これならそんな気苦労とも無縁です。

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すばらしいのは、帽子にマジックテープで装着するので、簡単に取り外せること。軽く、携帯性が高く、日常的に持ち運べます。使わない時はカバンの隅にもすっと入るし。帽子もごく普通のキャップですから、くるくる畳んでしまえばコンパクトです。65インチ(公称)のディスプレイが、なんならポケットに入ります。

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川平くんはその後もいくつか改良を重ね、さらに小型化されていきました。

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普通に日常使いするようになり、通勤中のバスの中でも誰の目も気にせずに存分に動画を楽しめます。仕事中に動画を見ていたって気づかれません(笑)。

ヘッドフォン部分を取り除いたため、環境音を聞けるイヤホンを選択でき、歩行中にも使えるようになりました。ポケモンGOのARモードは下のような感じに見えます。網膜投影は屋外でも鮮明で、かなりの臨場感が楽しめました。

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ちょっと帽子のツバを上げれば、普通に前が見えるので、状況に合わせて簡単に見え方の調整ができるのもキャップのいいところです。

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これはもう製品化してほしいと考えた僕は、Glyph を作った人に見せたくて仕方なくなりました。そこで、つてをたどって、Avagant社の創業者でCEOのEdward Tang と連絡をとり、サンマテオにある彼らのオフィス会いに行くことに!

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Kickstarter 時代からの Glyph 愛を伝え、リスペクトとともにこの改造を施したことを伝えました。チーフデザイナーの Misha(写真右)とも会えました。ふたりとも Alt Glyph を見て大喜びで、Glyphのプロトタイプを見せてくれたり、歴史、創業期からの苦労話、これからの話、色々話してくれました。Avegant Glyph のような素敵なプロダクトは、素敵な人たちが作っているんだ、と改めて思わされました。

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Alt Glyph に関しては、1年半以上前に書きかけたまま、あんまり汎用性がないな、と考えたり、忙しくなったり諸事情でほったらかしになっていましたが、リモートワークの状況が続く中、いろいろな環境をみんなが模索している中で、誰かのインスピレーションにつながるかもしれない、と思い、書きあげてみました。

ちなみに、サンフランシスコオフィスでこれをつけて仕事をしていたら、Niantic CEOのジョン・ハンケが、おい、それなんだ、と(笑)

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意外と似合ってる(笑)。


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米Niantic アジア担当副社長。2000年渡米。2007年Google入社。日本人で初めてGoogleホリデーロゴをデザイン。2013年、社内スタートアップだったNiantic Labsに参画、『Ingress』のデザインや『ポケモンGO』立ち上げを担当。