【レビュー】フジ木10時「silent」第1話
前回、このドラマを見ると決意した話を書いた。
あらすじに一切触れることなく、お伝えしたけれどもったいない気がした。
昂った思いで書いたタイトルばかり大きくて、中身が語り足りなくなってしまっているとさえ感じている。ああもったいない。
ということで、いっそのこと好きなだけ語ってしまえばいいと思った。そうすれば私のこだわりやツボが浮き彫りになるだろう。
個人的に押さえたい箇所と、印象的だったシーンを中心に振り返っていく。
観たことない人は、もちろんネタバレがあるのでご注意を。
さあ私と一緒に「silent」第1話を振り返り観よう。
※引用の台詞やト書は非公式です。表記に誤りや拙い部分があるかと思いますが何卒ご了承ください。
冒頭の時系列、第1話の鍵
雪が降る朝、高校生3年の青羽紬(あおばつむぎ)と佐倉想(さくらそう)が一緒に電車で学校へ向かうシーン。
この時すでに2人は付き合っていたことがわかる。
駅の通路で待っている佐倉の耳には黒のイヤホンがある。これは後に出てくる、紬からのクリスマスプレゼントだ。2人は楽しそうに会話をしながら駅の外へ出て、雪を眺める。
音もなく雪が降るその静けさを揺らし響かせる紬の声。
それを微笑ましくも、からかうように「うるさい」という佐倉。
この「うるさい」が第1話の鍵だ。
さらに紬が明るく元気な印象と同時に、佐倉が少し寡黙そうな見た目に反してからかう様子が見れて、2人のバランスがとても分かりやすかった。
静かな雪、対照的な大雨
次のシーンでは、明け方5時。大雨の音で目を覚ます紬と男性の後ろ姿。
すでに紬は高校生ではなく、26歳の姿だとわかる。また明け方で薄暗く、男性は佐倉かどうか判別しにくい。もう一度眠りにつく男性と共に、紬も横になる。雨の音が部屋に響く様子を見て、そして呟くのだ。
ドラマが始まって5分を待たずに2度目の「うるさい」。
最初の楽しそうな雰囲気から一変し、うざったそうな表情がとてもよかった。
音楽へのこだわり、場所のこだわり
紬はフリーターで、CDショップで働いている。音楽にこだわりがあるんだなあと分かるけれど。まさかタワーレコード渋谷店で働いているなんて、そんな贅沢な設定の使い方ある?実際の撮影ももちろん渋谷店。
これは私の経験上、ドラマを見ていて馴染みの撮影場所が出てきたことが少ない。意識していなかっただけかもしれないが、今回はストーリーを追う余裕がなくなるほど驚いてしまった。でもよく考えれば関東圏内で撮影なんてよくある話だろう…。決して消極的な思いだけではない。思わず口から「いいなあ…」なんて零してしまった。紬、フリーターだろうけど羨ましい。
生きている視点を生むカメラワーク
戸川湊斗は同級生3人と居酒屋。紬は友人1人とレストラン。
戸川は連絡が途絶えてしまった佐倉の連絡先をみんなに聞く。
紬は友人に、駅で佐倉を見たのだと打ち明ける。
また更に、戸川が佐倉の連絡先を知ろうと恩師の古賀先生の元へも尋ねる。
このシーンに限ったことではないが、カメラワークがいいなあと思った。空気が流れるようにゆっくり移動している。会話をしている人物ではなく、その話を聞いている中心人物の表情をじっくり映し出す。「迷い」という感情を逃さないように。視聴者側の視点が、まるで同じ場所にいて話を聞いているような錯覚になるのだ。個人的にとても好きな手法だなあと思う。
もうひとつ。佐倉の連絡先を求めて戸川は古賀先生に会うが、「知らない」と言われる。戸川が立ち去ったあと、古賀先生が佐倉へ連絡を取るシーン。
映っている人が何をしているか、全部映さなくてもわかるってすごいことだと改めて思った。この時、カメラアングルは古賀先生を斜め下から、大体胸下から頭までを映していた。
尻ポケットから何かを取り出し、何かを操作している。何かを指で叩く音がする。視点が切り替わり、ここで初めて先生がスマホを持っていてLINEを使って「最近どう?」と打ち込んでいる様子が映される。
私は尻ポケットから何かを取り出した時点で察した。
先生は佐倉の連絡先を知っている。取り出したのはスマホで、彼にこっそり連絡をするんだ。
その展開を想定し終える頃に、LINEの画面が映されていた。
映像で彼が何をしようとしていたのか、それを説明するのは一挙一動を丁寧に映し出さなくていいのだ。一部を省くことで視聴者に疑問を持たせて、その答えを提示できればいい。そういう仕掛けはごく自然に行われきたはずだけど、今回はかなり目立った。全体的にカメラが映す対象に寄って(アップ)いたからだろうか。映す対象の切り取り方が、とても斬新に感じた。
「本名で検索」がごく自然なこと
身近な知り合いから佐倉の連絡先を聞けなかった戸川は、ネットで「佐倉想」と検索をする。しかし彼本人に繋がるような情報はないことを知る。
突然の紬からの電話の後、モヤモヤを消し去るように検索した名前の履歴を削除する。さらに紬も、検索履歴に「佐倉想」があったが、削除した。
Facebookか。Twitter?もしくはどこかで活躍していて功績を讃えるような企業サイト。そういうのを求めていたんだろう。時代を…感じる…。
遠縁になった友人検索…。いや、いい。いいんだがモヤった。そうやって人探しする時代…。何が私をモヤらせているのかわからない。誰か同じように感じた人がいれば教えてほしい。このモヤは何だ…。
脚本家・生方さんに好感を抱いた瞬間
再び高校3年の回想シーンへ戻り、2人の出会いから付き合うまでが描かれる。紬と佐倉をよく知る友人の戸川。彼を挟んで、紬と佐倉は距離を縮めていく。それを眺めながら戸川は笑って知られることなく身を引く姿もある。
音楽をきっかけに距離を詰める紬と佐倉。階段ですれ違い、登り途中の佐倉は、降っていく紬を呼び止める。
ここは胸キュンポイント。楽しい片思い。通じる気持ち。投げて受け取れる距離。なんだってこんな2人の笑顔はキラキラ輝いているんだ。眩しすぎて灰になるかと思った。
同級生なのに「はい」と返事したことがとてもよかった。これは一瞬ジブリを彷彿させるような印象があったのだ。会話で発生する言葉にある相手への敬意や気持ちの表れだ。「貸す」「借りる」の流れは、どこかLINEを思わせるようなやり取りだ。端的に済ませているものの、そこには気恥ずかしくも素直な、互いへの思いが溢れてる様子が描かれていた。
この会話がとても気に入って、脚本家である生方さんに対して好感を抱いた瞬間だった。
「好き」の掛け合い
2人が思いを伝え合うシーン。この会話のちぐはぐさと、直球なのに距離を探り合うもどかしさと。
9回も好きと言わせるこの掛け合い。怒涛の好き。どれがどこの好きに当てはまるのか混乱してもおかしくない。それでも2人にとっては大事な関係性を築くシーンとして、非常に印象的なシーンだった。この後、2人が付き合っている間、どのように過ごしたのかが紬のモノローグと一緒に流れた。
ここで、クリスマスに2人で予算を決めてプレゼント交換をしたら、同じイヤホンを色違いで選んでいたというエピソードが出てくる。また繰り返し、紬が佐倉のどんなところが好きだったのかを振り返ることになる。
忘れもしない「うるさい」とイヤホン
高校卒業後、佐倉からLINEで「他に好きな人ができた。別れよう」と文面だけが送られて突然の別れが訪れる。紬にとって思い出のイヤホンが聞こえなくなって壊れてしまったのは3年前だった。
26歳の現代に戻り、戸川との同棲の家を2度目の内見しにいく紬はワイヤレスイヤホンを落とす。その落とした先には、イヤホンを拾う佐倉の姿が。目が合うと佐倉はイヤホンを持ったまま逃げるように立ち去ろうとするが、追いかけてくる紬に引き留められる。そして聞こえない佐倉へ溜まっていた思いを打ち明ける紬。手話がわからないと知っていながら口にできない思いをぶつける佐倉。突然手話を見せられ動揺する紬。止まらない手話が語る届かない言葉。
佐倉は高校卒業してから少しずつ耳が聞こえなくなって、3年前にほとんど聞こえなくなった。紬の手元にあった壊れたイヤホンと佐倉の耳。この伏線はなかなか凝っていると思った。
現実を突きつけて会話を終わらせたい佐倉。一度は手話をする腕を止めさせたが、なんとかして会話をしようとする紬。
聞こえていないけど「うるさい」、この言葉の重みが佐倉の抱える重さなんだろうか。何も言えなくなった紬を置いて、佐倉は泣きながら去る。紬が落とした片耳のワイヤレスイヤホンを持ったまま。あちこちで耳に通じる仕掛けがあり、2度見ることできちんと追える伏線。初回にしてかなり詰め込まれていた。
Official髭男dism「Subtitle」
卒業式の回想シーン。駐輪場から歩いていく佐倉を見つけて紬は名前を呼んで引き止める。このシーンが始まると同時に主題歌「Subtitle」がBGMに流れる。
会話が終わると同時にBGMが少しずつ音量が上がり存在感を増す。
2人が笑顔で手を振り合う中、主題歌の歌詞が音量MAXで聞こえてくるのだ。
声で呼び合い言葉を掛け合えたあの頃の2人と、声は届かず言葉も掴み取れない今の2人を象徴するかのように、ボーカル・藤原さんの噛み締めるような歌が響く。ここで思わず涙が溢れた。
心情を揺さぶる紬の姿
橋の上で、走り去った佐倉を追いかけることができないまま立ち尽くす紬。
カメラを小刻みに揺らすことで紬の動揺を表現していた。まさに視聴者側は紬と同じように心を揺さぶられていた。
終わりに
いかがだろうか。書いてて思った。
求められているレビューってこういうことじゃないかもしれない。
演技に特化しろと言われればもちろんそれも書けるけれど、私は「ここがよかった!」と魅力を伝えるとしたら、そこに秘められた数々の映像表現に心撃たれることが多いのだと再認識はできた。
どうやって見ている側の心を撃ち抜くか、どんな仕掛けで心を掴んでいるのかを自分なりに解釈するのもとても楽しいのだ…。
こうやって書いたからには全話やり切るべきだろう。
三日坊主ならぬ三回坊主にならないよう頑張ってみようと思う。
ここまで飽きずに読んでくれて本当にありがとう。
それでは、また次回。
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