日曜日の朝

「幸せホルモン・セロトニンを分泌して元気になりましょう」


もう記憶もおぼろげなむかしむかし、テレビで誰かが明るく言っていた言葉を毎日律儀に守っている。
滅多にすっきりと起きれたことはなく、目覚めの良い爽やかな朝とは程遠い姿で、重たすぎる頭を無理やり支えながらカーテンを開けて、大きく両腕を広げる。

全然、太陽なんてのぼっていないじゃないか。

寒さが身に滲みる今頃、平日の東の空なんかはまだ静かに眠りについている。
朝焼けは薔薇色、という青春時代に読んだ漫画の一節をよく思い出すが、全くもってそんな目の覚めるような美しい光景は広がらず、一切日光を浴びれていないのに分泌されるのかと疑いを持ちながら急いでこたつへと駆け込む。

どうにかちゃんと朝に陽の光を身体に当てられるのは、休日の時ぐらいである。
しかし、しんと静まり返った真夜中にひとり照明の眩しい明滅の下でじっと考え事をするのが癖なので、休みだからといって空に咲く薔薇の様子を眺められる時間はとうに過ぎた、もう昼の匂いが立ち込める満開になりすぎた頃にしか起きることが出来ず、強い日差しをくらい焼け焦げるんじゃないかと己を心配しながら一日を始めてしまう。
ちなみに、午前中までに目覚められれば朝、という杜撰な考え方で生きている。

普段が目覚ましがないと希望の時間に起きられないので、休日になると思いきって何も決めずに自然に任せることにしている。
午後になったってなんとかなるだろう、という気持ちで深く深く沈みたいが、悲しいことに眠りが浅いことが多く望みは叶えられぬまま覚醒することがたびたびある。

今日もそんな風にして現実を迎えた。
時計を見ると一応考えるこれぐらいの起きれたらいいな、より随分早い時間。
ああ、今なら空はまだ少ししか経っていない、生まれたばかりの朝だろうか。
花開いた瑞々しい薔薇のつぼみを期待して鉛のような体を起こし…………降り注ぐ雨音が、聞こえる。

お前にそう簡単には見せてやらないという気概を感じられる、分厚い灰色の曇天。

微かに漂う春の匂いを吹き消すような冷たさを頬に感じながら、予約した洗濯機から揺れる洗剤の香りに気付きつつ仕方なくカーテンを開けて伸びをする、日曜日の朝。

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