JUNK FILM by TOEIを楽しく観る方法vol:06「悲しきヒットマン」
1989 監督:一倉治雄 原作:山之内幸夫(元山口組顧問弁護士)
一倉監督の事は存じ上げてなかったのですが、なかなかタイトにまとまってる名作!JUNK FILMと当の東映にヒドイ呼称でまとめられてますが、特に期待もせずに観てみるとこんな名作を発見できる喜びが・・・。主演の三浦友和さんの作品はあまり観た事がなかったのですが、百恵ちゃん引退の責を負わされたり?ロス疑惑のあの人に名前が似てたり?なにかと、正当に評価されない向きがありそうですが(オメーだけだよ、の声アリ)、なかなか堂の入った演技っぷり。アクの強い他の役者さんをドーンと受け止める「ごはん」的な主役というか主食っぽい収まりの良さというか。見事なヤクザっぷりです。
そんな三浦さんを業界にスカウトしちゃう成田三樹夫さん、いつもながら最高です!最初は気さくに三浦さんに刺青を彫ったり(そんな気さくさは敬遠されそうですが)、堂々としたヤクザっぷりでしたが誘惑に負けやすくいつの間にか組内での立場も微妙なものに・・・っていう本当にいそうな感じのヤクザを好演!映画では折り目正しく仁義に篤く、っていうスーパーマンかよ!っていう立派なヤクザたちが戦国大名みたいに縄張りを争うっていうストーリーがありがちですが、そんな「大名」になりきれない人たちの切なくもおかしい息遣いが聞こえてくるのがこの映画の優れた点です。
三浦さんも存在感たっぷりの子持ちの萬田久子さんに惚れてしまい・・・っていうかまず子どもの方と仲良くなるっていう人の好さ、寂しさが匂ってきて素晴らしい。「若けりゃ若い方が!美人だったら美人の方が!」的な分かりやすい上昇志向の人ばかりじゃない、っていうのがリアル。そして萬田さんの何とも言えないコクが作品の各を上げています。
しかし、家族仲良くっていう概念とそこまで馴染みが良くないのが極道の倫理!というか、戦後日本のモーレツサラリーマンを支配していた価値観も別にヤクザと一緒か・・・。最近、加藤諦三さんの著書で「オレはとにかくハードな仕事をしているからな(他の事は一切関知できないゾ)!」という態度で家族を威嚇する日本人男性の病んだ心性をズバリと指摘していて目からウロコでしたが、三浦さんはヤクザとして業績を上げつつ家庭も大事にしたいのですが、その矛盾はどんどん本人を追い込んでいって・・・。
「家庭を大事にする」っていうのは独立した一個人としては至極真っ当なのですが、明治以来の諸外国列強に脅かされるという切迫感に「そんな個人の願望なんて認められない!とにかく組織や国家のために全てを投げ出せや!」っていうのがこの日本のあり方。太平洋戦争に負けても体質は改まらずに令和まで矛盾をさらけ出しながら来てしまったというのが実際の所ではないでしょうか?
そんな中、バブルの頂点であり没落への第一歩だった1989年。昭和と平成の交代時期のこの時点であの東映からこんな映画が出てきたのも象徴的な事かもしれませんね・・・。
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