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JUNK FILM by TOEIを楽しく観る方法vol:05「実録・私設銀座警察」

昔、浅草のすえた匂い(って具体的にどんな匂いでしょう?)のする映画館で観た「実録私設銀座警察」。今ではHD画質で自宅で観れるのであります!以前のフィルムボロボロバージョンも雰囲気を盛り上げていましたが、改めてキレイな画質で観たら評価が一変!・・・なんてこともなく、暗黒方面に振り切れたそうとう濃厚な一本でした。。。1973/佐藤純彌監督。

舞台は終戦直後の銀座周辺。高画質で改めて観ると結構ロケセットがすごいスケール!パンパンが進駐軍相手に・・・っていうのをヴァーチャルで味わえます。いつの間にか色んな経歴の「死にぞこない」が集まってなんとなくユルいグループができてきます。この辺は「アニマル・プラネット」で野生動物のドキュメンタリーを観てる風情があります笑。

なんせキャストは、オープニングで命からがら復員して恋人の元に帰ったらなんと女はパンスケになってて黒人兵と子どもまでなしていて・・・全速力でその赤ちゃんを投げ捨てて殺害する渡瀬恒彦さん!普通の日本映画ならここら辺をウェットに尺を使って描きますがこの映画は飽くまでドライに短時間で処理!確かにこの後色々ありますからね・・・。

そして、日活出身の葉山良二さんの「初対面ではそのイカツさにみんな一目置くが付き合ってると段々その短慮さを皆に見抜かれる、けどなんとなく収まりが良いから一応リーダー的に立てられている」って実生活でも「そういう人よくいるよなぁ」って役を100%演じてます。まさか葉山さん本体がそういうキャラなのでは?と邪推するレベル!フッフッフ・・・。

梅宮辰夫さんも「不良番長シリーズ」の神坂弘を思わせる、「ケンカとか荒事はそんなにムキになってやる事なの?」「トラブル無くラクに稼げる仕事をオレは勝手にやってるからあんま気にしないでくれる?」ってキャラを飄々と演じてます。こういうキャラをやらせれば辰つぁんの右に出る役者は・・・ってこれまた葉山さんみたいに地もだいぶ出てるのかなぁ?なんにせよ役者に寄せて脚本を書いていく「あて書き」って有効なのは間違いない。辰つぁんも元々は戸越銀座の医者の息子って最近知って、あのクレバーかつ下品で栄養満点な感じに得心がいきました。

そして、「地でいく」の極致というか安藤昇さんの登場です。離婚騒動で最近世を騒がした(ラッパーがそんな芸能界チックな事でニュースになるっていうので感慨もひとしお・・・あと一息です!)ZEEBRAの祖父、横井英樹さん襲撃で逮捕された安藤組の組長!当時はアイドル的な人気もあったそうです、の前にやくざの組長が出所して解散宣言(公開で人を集めてやった、のハシリでもあるらしいです、サスガ!)をしてそのまま映画俳優にスライドするっていうのもスゲエ時代だよね。

安藤さん、決して俳優として上手な訳じゃない・・・例えば気さくな商店街の店主なんて小市民的な役柄は絶対「上手には」演じられないだろうし。何故なら圧倒的に「ヘンな怖さ」があるんですよね。予備知識として元ヤクザっていうのがあるけど、当時は観客全員が「あの安藤組元組長!」っていうのを共有していた訳だし。まあ不良やヤクザはその予備知識の構築に命を懸けているとも言えますね。いや、カタギのビジネスでもなんでも一緒ですね。映画でも「あの○○賞受賞!」って言われるとなんとなく良いものかと思わいなといけない気になります。

と、ここまで読んだ人は「安藤昇って元ヤクザってだけで大した俳優じゃないんじゃ」って思われるかもしれませんが、大いにNO!あの金属的な独特な声質、体格的にはむしろ小柄ですが共演者が明らかに引いているような変な威圧感・・・舞台演劇の世界では成功はしないでしょうが、映画、特に当時のヤクザ映画では圧倒的なビザールな存在感を出すことに成功しています。

よく70年代の実録ヤクザ映画の魅力を熱っぽく説いても「あー、あのVシネみたいなやつね・・・」みたいな感じで空回りするすることがありますが、そういう直線的な演技(それ自体は大好きです!)とは違う、何か夾雑物を取り除く前の精製する前の薬物的な魅力でしょうか?オイラの表現力では伝えきれないのでとにかく本作を観てください!

そんな安藤さんが、カネがないから堕胎させようとする小林稔侍に「バカヤロウ!金はなんとかするから早く籍入れろ!」と暖かい対応をしたり、休戦協定を結びに単身乗り込んできた梅宮さんに大人の対応する感じ・・・安藤昇さんが映画の一番の良心になるって一体!?と戸惑う間もなく恋人の裏切りに傷心して怖すぎるメイクでヒロポン中毒まっしぐらの渡瀬恒彦さんが安藤さんを射殺!ここら辺から映画自体のタガが外れたように「エロスとタナトス」の両方を追求する日本映画というかフェリーニのような世界が展開します。。。

やはり理想に向かって突き進んでいた60年代の夢が破れた時点の以後との断絶というのは凄かったんだな、と思います。トランプさんが「いや、オレ負けた気してないんだけど」と異議申し立てをしている現在、また終戦当時のように各地に「私設警察」が跋扈することになるのでしょうか?・・・その前にこの映画の人たちって全く警察的な事してなかったんだけど!

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