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猫と読書

朝風呂でさっぱりした身体を布団に横たえると、猫が左腕に頭を預けてきた。
わたしから見る視界、猫の後頭部。
黒と白の模様。
わたしの腕で盛り上がる猫の頬のあたりは毛が黒く、すこし茶色も混ざっている。
重みはほとんど感じない。
Tシャツの袖口の近くに乗せた猫の頬が、ほんのり温かい。

猫がいると左腕が動かせない。
本が読めない。
仕方なしに、本を左腕の方に持って行って開く。
畑仕事について書かれている文章を読みながら、頭の中に映像を再現する。
麦わらを敷いた畑と、蜜蜂と、青い空。

本に出てくる猫もうちの猫に似ていそうだ。
目の前の猫はぴくりとも動かない。
規則正しく分けられた模様。

猫はわたしに不自由さをくれる。
わたしはその不自由さを諦めて本を読み、今この情景をどう文章にしようかと考え始める。
猫はわたしに影響されないが、少し指を立てて後頭部を撫でるとほんの少し喉を鳴らす。
耳の裏、黒い毛の隙間に見える皮膚から透けた赤い血管。
一番柔らかい耳裏の根元の短い毛。
読書のことをすっかり忘れていた。
猫は、製氷器から氷が落ちる音に驚いて頭を起こすと、すぐにまた頬をわたしの腕に預ける。
猫は自分の時間を生きている。

人差し指のマニキュア、先端が少しはげているから直さなくちゃ。
本の続き、返却日までに読めるだろうか?

いろんな考えが蜜蜂みたいに意識に遊びにきては飛んでいく。
忘れてしまったら忘れてしまったでいい。
どれも急がなくていい。
ただせっかく猫がくつろいでくれているから、もう少しこうしていよう。

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