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ビジネスの窮地で偶然出会った友人の友人の話

「お、先始めてるで。」

仕事終わりに駆けつけると、友人たちは既に一杯目のビールジョッキを空にしていた。

コロナ禍がひと息ついた昨年末のことだ。卒業後細々と交流が続く同じゼミ生だったヨシダ君達と3年ぶりに開催できた同期会。いつも集まる面子に在校時には面識のなかったゴーダ君も加わり、出身大学にちなんで皿鉢料理をつつきながら乾杯した。

会ったことはないが名前だけ知っていた友人

ゴーダ君は自分たちが新社会人だった頃、上記のヨシダ君が最初の就職先で同じ大学OBの同期が居ると名前だけはよく聞いていた。そのゴーダ君とひょんなことで顔を合わせたのが3年前。弊社内でゴタゴタがあって営業部から物流責任者という異動に自ら手を挙げてしばらく経った頃だった。

当時は社内もさることながら、対外的にも各運送会社から次々値上げ交渉が持ち込まれ、メイン倉庫からは一方的に出荷数制限を掛けられ、サブ倉庫として委託していたA社からも親会社の都合で減床(借りているスペースの縮小)を迫られ混乱するばかり。

今となっては先方にも事情はあったと振り返ることも出来るが、身も蓋もない言い方をすれば業界未経験の新米部長とここぞとばかり付け込まれており、それが自分でも分かりながらどうすることも出来ない、かなりしんどい時期だった。

そんな頃、前任者の営業アプローチ先の引継ぎで訪れた某物流会社(B社)で名刺交換した中の一人がゴーダ課長だった。とは言っても、こちらは気付けなかったが、

「メオさんって、もしかしてヨシダ君の友人の・・?」

向こうから気付いてくれた。珍しい苗字で良かったと思う数少ない瞬間だ。お互いそんな所で地方大学の同期と繋がるとは思っておらず、キツい状況で学生時代の仲間と会えてホッとした気持ちになれ、そこからお試しで地域を絞った契約を結ぶことになった。

契約解除したいA社と契約したいB社のあいだで

それから半年ほど経ったある日、件の委託倉庫A社の東日本地区の責任者が菓子折を持って挨拶に来られた。携えていたのは契約解除通知・・・契約期間を残して理不尽な通知をせねばならない表情に苦悩は見えたが、自分にはそこに同情する余裕はなかった。

解除期日までに何とかしなければチェーンの配送体制に大きな穴が空いてしまう。焦る気持ちを抑え、ゴーダ君の居るB社の物流会社と契約地域の拡大交渉を続けているさ中、今度は同じA社の九州地区の責任者からもアポ入れの打診が入った。これはもう会う前から用件は分かってしまうというものだ。

「御社ほどの会社の都合で解除通知されるというなら、当然引継ぎ先はご準備されてのことですよね?」

せめてもの先延ばしを図って絞り出した時間は、弊社と契約解除したいA社、契約したいB社との間でさながら背後から崩れ落ちる橋(A社)の上を向こう岸(B社)に向かって走るアクション映画のような状況が頭に浮かび笑うしかなかった(笑えない)

背後から崩れ落ちる橋の上を向こう岸に向かって走るように

ゴーダ君やその上長さんへのヒアリングできめ細やかな家電配送網という強みを維持したいB社の意向とアトム電器チェーンの事業形態は補完関係にある、と知った。その確信を元に作成したプレゼン資料が功を奏したこともあり、A社からB社への委託切り換えは拠点ごとに進み、何とか向こう岸まで走り切ることが出来たのだった。

その後、ゴーダ君は弊社窓口から別部署に異動になってしまったので一緒に仕事出来た期間はわずか1年ほどに過ぎない。その1年で起こった大転換とその後突入したコロナ禍を振り返ると、自粛期間中だったらあそこまでのスピード感で多くの関係者と折衝できたか考えるとあの出会いはあの時しかない、何かの差配が働いたようなタイミングだったと思わざるを得ない。

そんな訳で「落ち着いたら共通の友人のヨシダ君交えて慰労会やりましょう」の約束が延び延びになってしまい、冒頭の3年越しの乾杯となったのだった。

捨てる神あれば拾う神(GOD)あり

ゴーダ君が1年で去り、今回自分もまた異動になり、当時のやり取りを知る人は誰もいなくなる。あの出会いからのヒリヒリする綱渡り交渉がなければ今はない訳で、ご本人に自覚はないだろうが弊社的にも自分的にも、窮地に現れた「拾う神」だったなゴーダ君(GODa)だけに、などとダジャレが浮かぶ程度には、あの出会いは少々のことでは動じない自分に成長させてくれたのかも知れない。

いずれにせよいい大人になってからの友人は得難いものだ。これからは直接の利害関係は無くなるので、気兼ねない付き合いが続けばいいなと思っている。

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