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キャラクターってどれくらい似てると権利侵害なの?(#3 コスプレ~キャラクターのお面編~)

【キーワード】

#著作権 #キャラクター #イラスト #コスプレ

本判決:東京地判昭和52年11月14日(判時869号38頁・判タ364号289頁)

【はじめに】

 もうすぐハロウィーンですね!
 ということで、今回はコスプレ関連のケースをピックアップ。やや古い裁判例ですが、「ライダーマン」事件(簡単に言うと「お面がライダーマンにそっくりで著作権侵害じゃないか?」事件)です。

図1

画像出典:本判決別紙物件目録及び写真目録より。

 玩具の製造・販売業者が販売等していたお面(上掲画像のうち、(一)の画から(五)の画までのお面。まとめて「本件各物件」といいます。)が、特撮テレビシリーズ「仮面ライダーV3」の準主役級として登場したキャラクター「ライダーマン」の変身時(上掲画像のうち、写真目録(1)及び(2)参照)とよく似ており、著作権侵害ではないかが争われた事案です。

【裁判所の判断】

著作権侵害を肯定。理由は以下のとおり(筆者作成の後掲図も参照)。
※以下の太字強調・加筆は筆者が付加しました。

    「本件各物件と別紙写真目録表示の『ライダーマン』の変身時における外貌とを対比すれば、両者は、口及びその周辺部を残すのみで、頭部及び顔面のその余の部分を全体的に覆う特異な構成のヘルメツトを被つていること、そのヘルメツトは、大きく前面に膨出した楕円半球状の赤い眼をもち、また、鼻梁から前頭部を経て前頭部に向け、その中央部に大、中、小の三つのV字状輪郭を、小なる輪郭が大なる輪郭内に順次挾挿されるように描き出していること等において、基本的に同一の特徴を備え、両者間に存する些細な相違、すなわち、前記眼にダイヤカツト状の平担面を有するか否か、触角の存否及び存在する場合のその長短など形状、各部における彩色の違い等にもかかわらず、全体的観察においては、ともに昆虫を連想せしめる一種独特の印象を与え、結局のところ、本件各物件は、一般視聴者とくに児童幼児をして、本件映画に登場する『ライダーマン』と認識させるに十分な容貌を有するものということができる。」

    「以上認定してきたところによつてみれば、原告が本件各物件を製造する行為は、本件映画に登場する『ライダーマン』の前記認定のような特徴すなわちキヤラクターを利用するものであり、このことはとりもなおさず被告が有する本件映画の著作物の著作権を侵害するものである。」

図3

【ちょっとしたコメント】

 本判決は、上記図で「共通点」として挙げた3点こそが、「ライダーマン」であると分かるのに十分な全体的印象を与える特徴的部分であるとし、比較的印象が弱い些細な相違点を重視せずに著作権侵害を認めたものと整理できます。
 本判決を前提にすれば、キャラクターが著作権侵害になるかどうかを検討する際には、自分の(又は利用しようとする他人の)キャラクターの印象を決定付ける部分はどこかを意識するとよいということになるでしょう。

 もっとも、近時の傾向としては、著作権侵害の成否は、他人の著作物の創作的な表現部分(表現上の本質的な特徴)を利用しているかどうかという観点を踏まえて判断されますが、本判決は、上記共通点がなぜそのような特徴的部分といえるのか、また、上記相違点がなぜ全体的印象に与える影響が小さいと判断したのかについて、詳しい理由を示していないため、参考にする際には注意が必要であると考えられます。
 また、児童幼児が受ける評価を重視している点も、本判決の特徴であると思われます。

 ところで、コスプレと著作権の関係では、キャラクターの表現上の本質的な特徴はどの部分かが特に議論になりやすいといえます。例えば、コスプレ衣装は、キャラクターの顔までは再現していない(着用者が顔を出すことを想定した造りになっている)ことも多いですが、「顔こそがそのキャラクターの表現上の本質的な特徴であり、そこを再現しなければ著作権侵害とは言えないのではないか?」という考え方があります。こう考えると、キャラクターの顔を再現しないコスプレ衣装は著作権侵害になりにくいということになります。
 本判決は、露出された口周りの部分の表情が多少変わることがあるものの、それを除いて顔のほとんどの部分がマスクで覆われており、全体的な構成が一定であるという特殊な事情がありますので、上記議論の影響が少ない事案であったと考えられます。この点、本判決は次のとおり指摘しています。

    「『ライダーマン』が特異のマスクをつけ、変身した際における頭部顔面の外貌は、別紙写真目録表示のとおりであつて・・・、俳優の口及びその周辺部はマスクによつて覆われず、露出しているため、各場面、各情況によつて、その部分の表情に多少の変化は見られるものの、その余の大部分は、全登場期間を通じて一定の構成を有するマスクに覆われているため、基本的には終始変らざる特徴を備えていることを認めることができ」る。 

 もっとも、本判決は、ライダーマンの外貌のうち、本件各物件(お面)に対応する顔の部分だけを対比して、著作権侵害を肯定しています。
 すなわち、ライダーマンは首から下の部分も創作的で特徴的なデザインになっているようにも感じますが、本判決は、マスク部分さえ類似していれば、首から下の部分は再現せずとも、著作権侵害になり得ると判断したということになります。これを抽象化すれば、キャラクターデザイン全体のうち、一部だけが類似していれば、著作権侵害が成立する可能性があることを示唆したものといえるのです。

 キャラクターの顔部分は常に表現上の本質的な特徴(の一部)であり、そこを真似しなければ著作権侵害が成立することはないのか。
 また、キャラクターの表現上の本質的な特徴は常に1箇所だけなのか(例えば、顔が特徴の1つだとしても、それと同時に、独特な衣装デザインももう1つの特徴であり、その衣装を無断で真似すると著作権侵害になるということはないのか)。
 コスプレと著作権の問題には、こうした難しい課題が残されています。

 短くするつもりがついつい長くなってしまいました(いつものこと)。
 まだまだたくさん議論すべきことがありますが、今回はここまでとさせていただきます。
 ※ちなみに、筆者は仮面ライダースーパー1のファンだったことをご報告致します。

【参考記事】

 コスプレ、コスチュームデザインに関する米国の裁判例について検討した記事がありますので、ご参考まで。

● 【米国判例メモ/著作権】コスチュームに施された図形・模様のデザインが著作権によって保護されるか否か(分離可能性)及び侵害の成否 Diamond Collection, LLC v. Underwraps Costume Corporation (E.D.N.Y. Jan. 22, 2019).

● 【米国判例メモ/著作権】バナナコスチュームの立体的デザインが著作権による保護を受けるか否か Silvertop Associates v. Kangroo Manufacturing (3d. Cir. 2019)

■自己紹介■
関 真也(せきまさや) 弁護士・ニューヨーク州弁護士
関真也法律事務所 代表。第一東京弁護士会所属。
Twitter : @MsekiCom
note:@masayaseki
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漫画、アニメ、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツやファッションに加え、VR/AR/VTuber、AIなどコンテンツ・ファッションとテクノロジーが関わる分野を中心に、知財問題、契約、紛争等を多く取り扱う。
東海大学総合社会科学研究所客員講師(現職)。このほか、東京工業大学非常勤講師(担当科目:技術移転と知財)、津田塾大学非常勤講師(担当科目:知的財産概論)その他大学講師等を歴任。知的財産管理技能検定 技能検定委員。
㈱KADOKAWA経営企画局知財法務部担当部長(2016~2017)。南カリフォルニア大学ロースクール修了 (LL.M., Entertainment Law Certificate, Honor Society of Phi Kappa Phi) / 東大データサイエンススクール(事業実務者コース)修了。日本知財学会事務局、コンテンツ・マネジメント分科会幹事、ブランド・経営分科会幹事 / ファッションビジネス学会ファッションロー研究部会長など。
著作権法学会 / 工業所有権法学会 / 日本バーチャルリアリティ学会 会員。
主な著書・論文に「ファッションロー」(共著、勁草書房)のほか、以下のものがある。
【コンテンツ・VR/AR関係】
「著作権法による建築デザインの保護とバーチャルリアリティ空間その他コンテンツ内利用―米国法の議論を参考に―」(日本知財学会誌、2020)、「著作権法も改正 知的財産にまつわる注意点(特集:クリエイターが知っておきたいバーチャル表現の基礎知識と倫理観)」(月刊ブレーン2020年10月号)、「拡張現実(AR)を巡る著作権法上の問題に関する基礎的考察」(日本知財学会誌、2019)、「AR領域における商標の使用―拡張現実技術を用いた新たな使用態様を巡る現行法上の課題―」(日本知財学会誌、2018)、「いかなる場合にパブリシティ権は表現の自由に優越するか:米国における近時のビデオゲーム関連判決を参考に」(パテント68巻7号、2015年)、「【連載】令和2年著作権法改正のポイントと実務への影響」(BUSINESS LAWYERS、2020年)など。
【ファッション関係】
ファッション業界における新型コロナウイルス感染症を巡る契約書対応(不可抗力条項)」(BUSINESS LAWYERS、2020年)、「ニューフロンティアとしてのファッションロー」(法学セミナー 778号40頁 )、「アパレルデザインの不正競争防止法2条1項3号による保護―『流行』の生成プロセスから見た商品形態の実質的同一性の捉え方の検討―」(特許研究68号、2019年)、「ファッションデザインの「美的特性」と「表現上の本質的な特徴」の探究―著作権法による保護の可否と範囲―」 (感性工学17巻2号、2019年)、「Star Athletica事件合衆国最高裁判決:実用品のデザインに用いられる美術的特徴が保護適格性を有するか否か(分離可能性)を判断する基準~日本の著作権法における応用美術の保護への示唆~」(AIPPI 62巻9号、2017年)、「米国知的財産法によるファッション・デザイン保護の現状と課題 (1)(2)」 (AIPPI62巻1号・2号、2017年)など。

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