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【米国判例メモ/著作権】バナナコスチュームの立体的デザインが著作権による保護を受けるか否か Silvertop Associates v. Kangroo Manufacturing (3d. Cir. 2019)

【キーワード】

米国知財判例 / 著作権 / コスチュームデザイン / コスプレ / 分離可能性 / 創作性 / Merger Doctrine / Scenes a Faire Doctrine / Star Athletica事件合衆国最高裁判決 / ファッションロー

本決定Silvertop Associates Inc. v. Kangaroo Manufacturing Inc., 931 F.3d 215 (3d. Cir. 2019)
原決定:Silvertop Assocs., Inc. v. Kangaroo Mfg., Inc., 319 F. Supp. 3d 754 (D.N.J. 2018)

【事案の概要】

  被抗告人Silver top Associates, Inc. (Rasta Impostaとの屋号で事業を行っている。以下 「Rasta Imposta」又は「Rasta」という。) は、コスチュームのデザイン、生産及び販売を行っている。Rasta Impostaは、2011年3月9日、バナナのデザインのコスチューム(以下 「本件バナナコスチューム」という。両当事者のコスチュームのデザインについては、本決定のAPPENDIX Aより引用した後掲画像を参照。)の販売を開始した。
 Rasta Impostaは、本件バナナコスチュームを第三者に対して許諾していたが、抗告人Kangaroo Manufacturing, Inc.(以下「Kangaroo」という。)は本件バナナコスチュームについて許諾を受けていなかった。
 Rasta Impostaは、2010年3月23日、本件バナナコスチュームについて著作権登録の申請をし、その登録を受けた(登録番号:No. VA 1-707-439)。

  2012年、Rasta Impostaは、Yagoozon, Inc.(創立者はJustin Ligeri氏。以下「Yagoozon」という。)との取引関係を開始した。この取引は、YagoozonがRasta Impostaの本件バナナコスチュームを販売するためのものであり、YagoozonはRasta Impostaから数千の本件バナナコスチュームを仕入れた。その後、当該取引関係は終了した。かかる取引の過程において、Ligeri氏は、本件バナナコスチュームについてRasta Impostaの著作権登録があることを認識していた。

  Ligeri氏は、Kangarooの創立者でもあった。2017年9月25日ころ、Rasta ImpostaのCEOであるRobert Berman氏は、Kanagarooが本件バナナコスチュームと類似するコスチュームを販売していることを発見した。

  Rasta Impostaは、2017年10月5日、著作権侵害等を理由とする訴えを提起した。
  その後、両当事者間の和解交渉が功を奏さず、2017年12月1日、Rasta Impostaは仮差止命令の申立て (motion for preliminary injunction) をした。Kangarooは、同月21日、却下の申立てをした (cross-motion to dismiss)。
 原決定は、Rasta Impostaが本案訴訟において著作権侵害の主張について勝訴する合理的な可能性があることその他仮差止命令の要件を充足することを認定し、Rasta Impostaの仮差止命令の申立てを認める判断をした(担保金の額は10万米ドル)。Kangarooは、本件バナナコスチュームの著作権の有効性を争い、抗告した。

  なお、抗告審において、Kangarooは、その製造および販売するバナナコスチュームが本件バナナコスチュームと実質的に類似していることは争っていない。よって、抗告審における争点は、本件バナナコスチュームが著作権による保護を受けるか否か、より具体的には、次の3点である。
   I. 本件バナナコスチュームのデザイン的特徴が分離可能性を有し、著作権による保護を受ける適格があるか否か
          II. 分離された特徴に創作性があるか否か
          III. 「融合理論」 (merger doctrine) 又は「ありふれた情景の理論」 (scenes a faire doctrine) により保護が否定されるか否か

バナナコスチューム画像

【本決定の判断】

抗告棄却。

I. 分離可能性について

           A. 判断基準

  「実用品のデザイン的特徴は、『当該実用品から離れてそれを識別し、思い描いたときに、それ自体で又は何らかの他の有形的媒体に固定されたものとして、絵画、図形又は彫刻の著作物に該当する場合には、著作権による保護を受ける適格を有する』」(Star Athletica, L.L.C. v. Varsity Brands, Inc., 137 S. Ct. 1002,1012 (2017))。故に、当裁判所は次の2つの問いについて検討する必要がある。すなわち、(1) 当該実用品のデザインの美術的特徴が、『当該実用品から離れて、平面的又は立体的な美術の著作物として感得される』か、及び (2) 当該特徴が『当該実用品から離れて思い描いたときに、それ自体で又は何らかの他の媒体に固定されたものとして、保護を受ける絵画、図形又は彫刻の著作物と認められる』かである (Id. at 1016)。」

  「第一の要件は『厄介なものではない。判断者が当該実用品を視認することができ、かつ、絵画、図形又は彫刻の属性を備えたものと看取される何らかの平面的又は立体的な要素を見出すことができれば十分である。』(Id. at 1010)」

  「第二の要件(『通常、充足するのが比較的難しい』とされる。)は、『別個に識別される当該特徴が、当該物品の実用面から離れて存在し得ること』を要求する (Id.)(『言い換えれば、当該特徴は、当該実用品から離れて思い描いたときに、それ自体が、著作権法第101条が定義するところの絵画、図形又は彫刻の著作物として存在し得るものでなければならない。』)。また、分離された当該特徴は、『実用品そのもの又は〈通常実用品の一部である物品〉(これは、実用品そのものとみなされる。)であってはならない。』(Id.)・・・当裁判所は、『仮想的な抽出を行った後に残存する、当該実用品のいかなる側面』にも着目しない」(Id. at 1013)。また、当該著作物の市場性及び芸術的価値のいずれも、当裁判所の検討に影響を及ぼすものではない (See id. at 1015)。よって、かかる二段階の検討は、実質的に、分離して思い描かれた特徴がなおも本来的に実用的であるか否かによって決まるものである。」

  「当裁判所が判示してきたところによれば、当裁判所は、各特徴を個別に切り離して検討するものではない。その代わりに、彫刻に『その独特な外観』を与える『要素の具体的な組合せ』が、著作権による保護を受ける適格を有するか否かを検討する (Kay Berry, Inc. v. Taylor Gifts, Inc., 421 F.3d 199, 209 (3d Cir. 2005))。そのような組み合わされる特徴には、『テクスチャ、色彩、サイズ及び形状』などが含まれ、また、『これらの要素が個別に保護を受けられないものであることは全く重要ではない』(Id. at 207; see also Star Athletica, 137 S. Ct. at 1012(当該ユニフォームのデザインの『色彩、形状、ストライプ及びシェブロンの配置』を、個別にではなく、一体のものとして検討した。)。」

  「Star Athletica事件において、合衆国最高裁判所は、チアリーダーのユニフォーム上の平面的なデザインパターンが著作権による保護を受ける適格を有すると認めた (Id.)。当該ユニフォームの実用的な『形状、裁断及び寸法』は著作権によって保護されないが、他方で『当該ユニフォームの生地という有形媒体に固定された平面的な美術の著作物』は、著作権によって保護されると判断された (Id. at 1013)。それらのデザインを当該ユニフォームから分離して思い描いたとき、そのデザインがなおユニフォームのように見えるとしても、当該実用品を必ずしも再現するものではないとされた (See id. at 1012)。」

  「Star Athletica事件において合衆国最高裁判所は、立体的な物品について検討する際の有益な例をも提供している。第一に、同裁判所は、ランプ台として使用することを意図して製作された、ダンサーを描いた彫刻が著作権による保護を受ける適格を有すると判示したMazer事件における判断を改めて支持した」 (Id. at 1011 (citing Mazer v. Stein, 347 U.S. 201, 214, 218-19 (1954)))。「第二に、同裁判所は、実用品のレプリカ(段ボールで作った模型の車)は著作権による保護を受け得るが、そのもとになった物品(車そのもの)は保護されないと述べた (Id. at 1010)。最後に、同裁判所は、シャベルにつき、『たとえアートギャラリーに展示されたとしても』なお、その外観を表し、又は情報を伝えることを超えた本来的に実用的な機能を有すると述べている (Id. at 1013 n.2)。それゆえ、たとえシャベルの絵画や分離して識別し得る美術的特徴が著作権による保護を受けることができるとしても、そのシャベル自体は保護されない (Id.)。また、当裁判所はこれまで、『純粋な彫刻以外のものとして機能する物品に組み込まれた彫刻であるという理由だけで、当該物品のうちの当該彫刻の部分が著作権による保護を受けないということにはならない』と述べてきた。」 (Masquerade Novelty, Inc. v. Unique Indus., 912 F.2d 663, 669 (3d Cir. 1990)。

           B. 本件バナナコスチュームについての検討

  「当裁判所が拠るべき法的原則を明らかにしたところで、当裁判所は、本件の具体的な事実について検討する。まず、Rastaの本件バナナコスチュームは『実用品』である。本件バナナコスチュームの美術的特徴は、一体的に見れば、著作権による保護を受ける著作物すなわち彫刻として、別個に識別することができ、かつ、独立して存在し得るものであることを証明している。かかる彫刻的な特徴には、バナナの色彩、線、形状および長さの組合せが含まれる。これには、着用者の腕、脚及び顔部分の開口、当該開口の寸法及び本件バナナコスチュームにおける当該開口の位置は含まれない。なぜなら、それらの特徴は実用的だからである。本件バナナコスチュームの『外観に関係しない実用性』(すなわち、着用できること)から分離して思い描くことは、他の著作物に比べて困難ではあるが (Masquerade Novelty, 912 F.2d at 669)、見る者はなお、本件コスチュームから分離して、当該バナナを創作性ある彫刻として思い描くことが可能である。その彫刻されたバナナは、本件バナナコスチュームから分離して、本来的に実用的なものではなく、また、単に本件コスチュームを再現するものでもない。よって、著作権によって保護され得る。

  「Kangarooは、各特徴を個別に見て、それぞれにつき著作権による保護を受けるには創作性が乏しく、又は実用的に過ぎると認定し、ゆえに全体について保護を否定しなければならないと反論する。しかし、Kay Berry事件判決は、著作物におけるデザイン要素の組合せに焦点を当てるべきこととし、かかる分割統治アプローチを排除している(略)。Star Athletica事件合衆国最高裁判決もまた、ユニフォームデザインの色彩、形状又は線を選り分けてはおらず、それらの組合せを評価している(略)。したがって、分離して思い描かれたバナナ(非実用的な部分の総体)は、著作権による保護を受けることができる。」

II. 創作性について

  「また、Kangarooは、本件バナナコスチュームのデザイナーは実際のバナナそのものに基づいてデザインしたのであるから、当該バナナには創作性がないと主張する。かかる主張は、創作性要件の非常に低い基準を厳しくすることを要求するものであるが、判例は正当にこれを排除している(略)。裁判官自身の美的な判断は、著作権の検討において何らの影響も及ぼしてはならない(略)。・・・本質的に問題となるのは、実際の物体について表現が、最低限の創造性を備えているか否かである。Rastaのバナナは、その要件を満たしている。」

  「したがって、当裁判所は、本件バナナコスチュームの色彩、線、形状及び長さの組合せ(すなわち、美術的特徴)は、別個に識別することができ、かつ、独立して存在し得るので、著作権による保護を受けることができる。」

III. 「融合理論」及び「ありふれた情景の法理」について

  「最後に、Kangarooは、2つの著作権法上の法理(融合理論及びありふれた情景の法理)に基づき、本件バナナコスチュームが保護を受けられないと主張する。この2つの主張は、いずれも、同じ問題に関するものである。すなわち、本件バナナコスチュームを著作権で保護することは、直接に又は当該アイデアの表現に必要な要素を介して、その基礎にあるアイデアを実質的に独占させることになるのではないか、という問題である。」

  「合衆国議会が、『一切のアイデア、手順、プロセス、方式若しくは操作方法、概念、原理又は発見』を著作権による保護の対象から除外したため(著作権法第102条(b))、裁判所は、ある著作物の基礎にあるアイデアが、実質的に一つの方法によってのみ表現することができるものであるときは、その保護を否定する。裁判所は、かかる稀な事態を『融合』と呼び、『特定のアイデアを表現する方法が他になく、又はほとんどない』場合にのみ、これを認める (Educ. Testing Servs. v. Katzman, 793 F.2d 533, 539 (3d Cir. 1986) (quoting Apple Comput., Inc. v. Franklin Comput. Corp., 714 F.2d 1240, 1253 (3d Cir. 1983)))。また、あるデザイン的特徴を著作権で保護することが、その基礎にあるアイデア、手順、プロセス等を実質的に独占させることになる場合には、融合理論によってその保護が否定される (See Kay Berry, 421 3.d at 209)。融合理論は、とりわけ『当該アイデア及び当該表現が、実際に見られる事物又は日常生活において普通に見られる事物に関するものであるときに、最も当てはまる』(Yankee Candle Co. v. Bridgewater Candle Co., 259 F.3d 25, 36 (1st Cir. 2001))。しかしながら、著作権によって『アイデアを表現する他の手段が禁止されない場合は・・・融合は生じない』(Educ. Testing Servs., 793 F.2d at 539 (quoting Apple Comput., 714 F.2d at 1253))。」

  「本件において、Rastaの本件バナナコスチュームを著作権で保護したとしても、その基礎にあるアイデアを実質的に独占させることにはならない。なぜなら、バナナに似せたコスチュームを制作する方法は他に数多く存在するからである。実際に、Rastaは、20件以上の非侵害の例を提出した。連邦地方裁判所が述べたように、その形状、曲線、先端、先端の色彩、全体の色彩、長さ、幅、裏地、テクスチャ及び素材によって、それらの例とRastaの本件コスチュームを容易に区別することができる(略)。当裁判所は、本件において融合理論が適用されないことに同意し、そのとおり認定する。」

  「また、裁判所は、ありふれた情景を著作権による保護から除外している。これには、『ある特定のトピックとの関係において標準的、平凡若しくはありふれた要素又はありふれたテーマ若しくは設定からして必然的な要素』が含まれる(Dun & Brandstreet Software Servs. v. Grace Consulting, Inc., 307 F.3d 197, 214 (3d Cir. 2002) (quoting Gates Rubber Co. v. Bando Chem. Indus., 9 F.3d 823, 838 (10th Cir. 1993)))。当該法理は、『当該著作物の主題に固有の外部的要因から必然的に生じる、著作物の要素』に及ぶ (Id. at 215 (quoting Mitel, Inc. v. Iqtel, Inc. 124 F.3d 1366, 1375 (10th Cir. 1997)))。融合理論と同様に、ありふれた情景の法理は、基礎にあるアイデアが、―当該アイデアの表現にとって普通又は必然的であるため、それらを著作権によって保護することが実質的にアイデアそのものに著作権を認めたことになる特徴を介して-著作権によって独占されないようにしようとするものである」。

  「本件において、本件バナナコスチュームの非実用的な特徴の組合せに著作権による保護を与えることは、かかる独占のおそれを生じさせるものではない。Kangarooは、本件コスチュームの主題(バナナ)から必然的に生じる具体的な特徴を挙げていない。バナナコスチュームは黄色であることが多いとしても、その色合いには様々あり得るし、緑色や茶色であってもよい。バナナコスチュームは曲がっていることが多いとしても、そうである必要はなく、ましてや具体的な曲がり具合も限定されているものではない。また、バナナコスチュームは実際のバナナに似た端部を備えていることが多いとしても、そうした先端部分は、(色彩、形状又はサイズにおいて)Rastaの黒色の先端部分と同様である必要はない。繰り返しになるが、記録によれば、Rastaが非侵害であると認める20件以上のバナナコスチュームが存在する。ありふれた情景の法理もまた、本件において適用されない。」

IV. 結論

  「Rastaは、その知的労働の紛れもない成果について保護を受ける権利を証明する合理的な可能性を証明した。よって、当裁判所は原決定を支持する。」

【ちょっとしたコメント】

 本決定は、Star Athletica事件合衆国最高裁判決が示した判断基準を踏まえ、仮装用コスチュームの立体的なデザイン(色彩、線、形状及び長さを含む非実用的な特徴の組合せ)について分離可能性を認めた事例である。
 同合衆国最高裁判決後、コスチュームを含む衣服等のデザインのうち、模様などの平面的なデザインについて分離可能性を肯定した事例は複数ある(同最高裁判決のほか、Diamond Collection事件判決及びTriangl事件判決参照)。しかし、本決定は、形状を含む立体的なデザインについて、同最高裁判決が示した判断基準に基づき、分離可能性を肯定した事例であり、この点において重要な意義がある。
 本決定は、同最高裁判決の射程について、同最高裁判決が、立体的な彫刻について著作物性を肯定したMazer事件合衆国最高裁判決と整合的な解釈を示したことなどを踏まえ、Star Athletica事件合衆国最高裁判決の判断基準が、(同事件において審理対象となった)平面的なデザインにとどまらず、本件のような立体的なデザインについても妥当することを示した点で注目される(この点につき、照明セットの立体的な形状等について分離可能性を認めたJetmax Ltd. v. Big Lots事件判決も参照 (No. 15-cv-9597 (KBF), 2017 WL 3726756 (S.D.N.Y. Aug. 28, 2017)。
  また、本決定は、本件バナナコスチュームのデザインのうち、着用者の腕、脚及び顔部分の開口、その寸法並びに位置について、分離可能性を満たさないデザイン的特徴として特に保護対象から除外している。この点において、コスチュームその他の衣服のデザインの保護可能性を検討する上で参考になる。

 さらに、本決定は、分離可能性を満たすコスチュームのデザイン的特徴について、著作物一般について適用される創作性の判断基準(最低限の創造を備えていさえすれば足りるという非常に低いハードル)を適用することを明らかにした点でも、重要な意義がある。
 日本の裁判例では、衣服のデザインを含む応用美術については、明示的に通常よりも高い創作性等のハードルを課し、又はそうでなくとも事実上保護範囲を限定しているように見受けられる裁判例が大勢を占めると思われる。これに対し、米国著作権法のもとでは、下級審裁判所による仮差止命令 (preliminary injunction) に関する判断ではあるが、分離可能性さえクリアすれば、創作性のハードルは低いことが明らかにされた。

 さらに、本決定は、コスチュームのデザインについて、「融合理論」 (merger doctrine) 及び「ありふれた情景の理論」(scenes a faire doctrine) の適否が詳しく検討された事例としても、重要な意義がある。
 本決定によれば、バナナという事実ないしアイデアをモチーフにしたデザインであっても、色彩、曲がり具合、その他具体的な形状等において、他に選び得る表現手段があり得る以上、両理論によって保護は否定されない。かかる判断手法をとる場合には、両理論によって保護が否定される具体的なデザイン的特徴は極めて限定されることとなろう。
 この点、日本の裁判例では、「加湿器をビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬したものにしようとすることは、アイディアにすぎず、それ自体は、仮に独創的であるとしても、著作権法が保護するものではない。そして、ビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬した加湿器を制作しようとすれば、ほぼ必然的に控訴人加湿器1のような全体的形状になるのであり、これは、アイディアをそのまま具現したものにすぎない。また、控訴人加湿器1の具体的形状、すなわち、キャップ3の長さと本体の長さの比(試験管内の液体の上面)、本体2の直径とキャップ3の上端から本体2の下端までの長さの比(試験管の太さ)は、通常の試験管が有する形態を模したものであって、従前から知られていた試験管同様に、ありふれた形態であり、上記長さと太さの具体的比率も、既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって、個性が発揮されたものとはいえない。」とし、加湿器のデザインについて著作権による保護を認めなかった事例がある(知財高判平成28年11月30日)。これとの比較でいえば、本決定の判断は、創作性(並びに「融合理論」及び「ありふれた情景の理論」)に関しては、日本の著作権法の方が、保護を受けるためのハードルが高いと評価できるかもしれない。もちろん、米国著作権法では分離可能性が明示的に求められている点、また、日本の不正競争防止法2条1項3号のような規制が米国の連邦法では現在のところ存在しないことも、比較の前提として忘れてはならない。

 以上のとおり、本決定によれば、従来から著作権による保護の可能性を広げたものと評価されてきたStar Athletica事件合衆国最高裁判決を、実用品の立体的なデザインについても同様に適用してよいことになる。
 これに加えて、この場合の創作性のハードルも低く、「融合理論」及び「ありふれた情景の理論」が適用されるケースも限定されるであろうことからすれば、実用品の立体的なデザインについて著作権による保護が認められる範囲は相当に広いものとなり得る。
 衣服を含む実用品のデザインについて著作権による保護を求める企業等からすれば、実に有益な示唆に富む判断であるといえる。他方で、かかる保護を肯定する場合において、例えば映画などの作品にかかるデザインが登場した場合の著作権侵害の成否などの影響がどの程度になるのか、さらなる議論と事例の蓄積が必要となる。

【参考文献】

こちらのエントリーの末尾に記載のものをご参照下さい。

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