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ドライブラインが流行ってるけど、あんなに重いボール投げて肩・肘は大丈夫なの?

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◆ ドライブラインって何?

ドライブラインとは、アメリカのシアトルにある施設「Driveline Baseball」で行われている、重いボールを使ったトレーニングのことです。100gから2㎏までの異なる重さのボールを使用していろいろなドリルを行うことで、球速のアップを狙うものです。
このドリルの中には、もちろんこのボールを投げるものも含まれます。

この施設の出身者で一番有名なのは、トレバー・バウアー投手でしょう。
この間は、マウンドからバックスクリーンに向かって時速109マイル174㎞)の球を投げていました。


また、助走をつけて時速116.9マイル188㎞)を出す動画も有名ですね。

この選手のような豪速球を目指してドライブラインを始めた選手も多いことでしょう。


しかし、一番重いもので2㎏もの重さのボールを投げて、肩や肘の負担はどうなのでしょうか?
今回はそこに焦点をあてて、調べてみました。

◆ 肘の負担は大きくなる。

単刀直入に言うと、投げるものが重ければ重いほど、肘の負担は大きくなるようです。

ついこの間、雑誌「Journal of Shoulder and Elbow Surgery」で「Impact of ball weight on medial elbow torque in youth baseball pitchers」といったタイトルの論文が発表されました。

タイトルにある通り、ボールの重さによって肘の内側にかかる負担がどう変わるのかを検証したものなのですが、結果としては、先に書いたように重さが上がれば上がるほど、肘の負担も大きくなるというものでした。

ちなみに、ここで言われている肘の内側の負担というのは、最近ではダルビッシュ有投手や大谷翔平投手がいわゆる“トミージョン手術”と呼ばれる手術に踏み切る原因となった、内側側副靭帯の損傷に直結するものです。

この結果だけを見ると、
ドライブラインは危険なのではないか?
と思えてしまいます。

◆ 球速は上がるのか?

では、論点を変えて、肘の負担を考慮した上で、球速は上がるのか。選手としてはそこが一番気になるのではないでしょうか。

2018年の論文「Effect of a 6-Week Weighted Baseball Throwing Program on Pitch Velocity,  Pitching Arm Biomechanics,  Passive Range of Motion,  and Injury Rates」で、ドライブラインのメニューを一部抜粋して6週間行った結果、球速がどう変化するのかが検証されていました。

気になる結果は、
球速が3.3%アップしていました!
具体的な例を挙げると、時速140㎞の人は145㎞まで上がるということです。

この実験は、「ドライブラインを取り入れるグループ」と「ドライブラインを取り入れないグループ」に分けて、グループによって球速がどれくらい変わるのかを見ていて、ドライブラインを取り入れたグループの方が球速が上がっているということで、それなりの信頼性はありそうです。

しかし残念なことに、このトレーニングを行ったグループでは肘のケガをする可能性が高くなることも明らかになってしまったのです。
このトレーニングを行っていないグループではケガをした人はいなかったのですが、行ったグループでは、肘のケガをした人が4人19人中)いて、しかもその中の1人は手術にまで至っているのです!

ここまで聞くと、ドライブラインは球速は上がるけど肘のケガをしやすくもなるもの
という結論になるそうです。

しかしもうひとつ、おもしろい発見がありました。

グループ分けをするときに、身長、体重、肩肘の可動域などはグループの間で差がないようにしたのですが、唯一“肩の外転筋力”、つまり肩を横から上げる筋力は、ドライブラインを取り入れるグループで低かったのです。
肩を上げる筋力が低いと、いわゆる“肘が下がる”ようなフォームになりやすそうです。肘が下がると、肘にかかる負担は増える。そんな簡単なメカニズムではないかもしれませんが、その筋力の差はケガの危険性に繋がっている可能性はありそうですね。

つまり、肩の筋力をしっかり確保した上で、このドライブラインを行えばケガをせずに球速を上げることができるかもしれません。

◆ 本場のトレーニングではどうなの?

ここまで、重いボールを使ってはいるものの、ドライブラインとは違う方法での実験の結果を見てきましたが、本場のドライブラインではどのような結果が出ているのでしょうか?
なんと、その検証が行われた論文がありました(本文はこちら)。

「Driveline Baseball」の創設者である、Kyle Boddy監修のもと、本場の施設でドライブラインを6週間行った結果が検証されました。
球速をはじめとして、全身にセンサーをつけて肩や肘の動きなどを細かく計測されています。

結果は、悲しいことにドライブラインを行う前後で球速に変化はありませんでした
細かく見ていくと、肩肘にかかる負荷であったり、動きの速さには変化はあったのですが、選手からすると、球速が変わっていなければそんなことはどうでもいいでしょう。

ただ、全員に変化がなかったわけではなく球速が上がる人もいれば、下がる人もいたわけで、全体の平均をとったときに変化がなかったと言わざるを得ない結果であった、ということです。

中でも、球速が上がった人のデータに注目してみると、肩の内旋、肘の伸展のスピードは上がっていました。この動きはピッチングで、体をしならせた状態(最大外旋、MER)からボールをリリースするまでの動きです。
この動きが速くなると球速が上がるということは直感的にわかると思いますが、それがデータとして検証されたことに関しては、おもしろい結果だと思います。

◆ まとめ

ここまで、3つの論文を見てきました。
球速に関しては、ドライブラインさえやっていればバウアー投手のように時速160㎞近い球を投げられるというわけではなさそうです。
また、肘にかかる負担が増えることは確かなようで、ドライブラインを行うときには、ただ闇雲に投げるのではなく、肩肘のケアは絶対不可欠なものです。


実際に、本場の「Driveline Baseball」でも、ボールを投げるトレーニングと一緒にストレッチや肩肘のトレーニングもしっかりとメニューに組み込まれています。下のファイルが3本目の論文で行われたメニューです。

メジャーリーガーの救世主とも呼ばれるエリック・クレッシーのブログにも、

人は「投げることで必要な筋力がつく。」と言うが、残念ながらそうではない。

といった内容のことが書かれています。
速い球を投げるための筋力は、投げること以外でつけなければいけないようです。

また、論文では6週間のトレーニングの結果が書かれていましたが、実際は6週間で終わるものでありません。より長くトレーニング期間を設けることで、確実に球速を上げられるかもしれませんね。
こちら(2016年の結果2017年の結果)に「Driveline Baseball」から直接公表されている結果を貼っておきます。ここでは多くの選手が球速を上げているようです。

◆ 最後に

ここまで、ドライブラインの危険性ばかり指摘してしまいましたが、本場では実際に球速を上げている選手が多いように、しっかりとメニューの内容や意味を理解して、しっかりとケアをしながら正しい方法で取り組むことで、球速を上げることはできると思います。

もしドライブラインを取り入れている選手や指導者は、肘にかかる負担をしっかりと考慮した上で十分なケアをしながら続けてほしいと思います。
違和感などを感じたらすぐに中断して、病院に行くなりトレーナーに相談するなりしてケガをしないように気を付けてください。

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